早めの診断と手術によって子どもの脳を守る~てんかん治療~

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2021-05-28 精神・神経医療研究センター

手術で治るてんかんがある

NCNPでは早期の外科治療を重視しており、てんかん手術の約6割は16歳以下に実施され、1歳以下が10%を占める。


てんかんは最も多い神経疾患のひとつで、人口の0.5~0.8%に生じます。てんかんの主な治療法は薬物(抗てんかん薬)ですが、約30%の患者さんはどのようなお薬を使ってもてんかん発作が再発してしまいます。そのような薬剤抵抗性てんかんに対する強力な治療法が手術です。
繰り返すてんかん発作は乳幼児や学童の脳の発達を阻害します。なので、なるべく早くてんかん発作のコントロールを図ることが、その子の発達に極めて大事です。片側巨脳症のように大きな脳の形成障害があると生後間もない時期にてんかんを生じて重症化します。そのようなお子さんに対して、NCNPでは生後3~ 6か月の超早期に手術を実施しています。これによって、70%以上の患者さんで発作が完全に止まり、発達の促進が得られ、薬物治療も要らなくなる場合があります。NCNPでは脳神経外科・小児神経科・麻酔科の専門医が協力して、合併症の少ない手術法の開発を行っています。

正しい診断のためにてんかん原性腫瘍の遺伝子解析


BRAF V600E遺伝子変異を有する脳腫瘍の典型的な画像所見

手術が必要となるてんかんの約1/4は、脳腫瘍が原因とされます。てんかんを主な症状とする脳腫瘍は特にLow-grade epilepsy-associated neuroepithelialtumors、略してLEATと呼ばれますが、病理診断が難しく、分類や治療方針が確立していないことが問題になっています。
NCNPでは、てんかん手術で得られた脳組織をNCNPバイオバンクに登録し、LEATの研究に役立てています。手術で得られた脳試料の遺伝子解析を行ったところ、約半数の症例で BRAF V600Eの遺伝子変異が、約10%の症例で FGFR1遺伝子変異が検出され、それらがMRIなどの画像診断の特徴とよく一致することを初めて見出しました。
てんかんの専門的手術を多数行っている施設だからこそ得られた知見であり、てんかんの原因の正しい診断と治療法の選択に役立つと期待されます。また、てんかん患者の脳試料を含むバイオバンクは国内ではユニークであり、将来の研究への活用が期待されます。

ネットワークの視点でてんかんを理解する


脳梁離断術の術後は灰白質ネットワークのハブが増加し、正常な場所に出現する。

脳では多数の神経細胞が神経線維を介してつながり、複雑なネットワークを形成しています。脳の異常な活動がそのネットワークを介して拡がることで、てんかん発作が生じます。脳梁離断術は、左右の大脳を結ぶ脳梁と呼ばれる神経線維を切断することでてんかん発作を軽減する手術で、小児のてんかんにしばしば行われます。脳梁離断術を行うと、発作が軽減するだけでなく、患児の発達や行動もしばしば改善します。
私たちは、患者さんの脳画像を解析することで、脳梁離断術がネットワークにどう影響して症状の改善につながっているのかを探りました。脳梁離断術を実施した後の患者では、灰白質ネットワークのハブ、すなわちネットワーク内の重要な中継点の場所が、正常な人と同じ位置に出現することを明らかにしました。これは、外科治療によって病的な脳ネットワーク経路が減少し、正常な経路が回復していることを示していると思われます。

リファレンス

1.Ikegaya N, et al. Surgical strategy to avoid ischemic complications of the pyramidal tract in resective epilepsy surgery of the insula: technical case
report. J Neurosurg 128(4):1173-1177, 2018
2.飯島圭哉、岩崎真樹.てんかん原性腫瘍の分子遺伝学的解析と新分類.Medical Science Digest 46(2): 40-42, 2020
3.Ueda R, et al. Alteration of the Anatomical Covariance Network After Corpus Callosotomy in Pediatric Intractable Epilepsy. PLoS One. 14 (12),
e0222876, 2019

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