塩耐性を強化する植物ペプチドの発見~人工合成のペプチド添加で塩耐性を強化することに成功~

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2018-05-17 理化学研究所,九州工業大学

理化学研究所(理研)環境資源科学研究センター植物ゲノム発現研究チームの中南健太郎研究員、関原明チームリーダー、機能開発研究グループの花田耕介客員研究員(九州工業大学大学院情報工学研究院准教授)らの共同研究グループは、外部から投与することで植物の塩ストレス耐性[1]を強化できる13アミノ酸のペプチドを発見しました。

本研究成果は、塩ストレスに強い作物の作出や農薬の開発など、ペプチドを利用した新しい農法への応用が期待できます。

今回、共同研究グループは、高塩条件で誘導されるペプチドをコードする17個の短い遺伝子に着目し、その遺伝子を過剰発現させた植物体の塩ストレス耐性を調べました。その結果、過剰発現させることで塩ストレス耐性を強化する四つの遺伝子を見いだしました。これらの遺伝子は、細胞外に分泌されるペプチドをコードしており、そのペプチドが発現している条件では、塩ストレス耐性が強化されると考えられます。そこで、高塩条件で最も多く発現しているAtPep3ペプチド[2]を人工合成し、それを植物に投与することで、植物体が塩ストレス耐性を示すかを検討しました。その結果、AtPep3ペプチドの投与でも、植物内でAtPep3ペプチドをコードするAtPROPEP3遺伝子を過剰発現させることと類似した効果、つまり塩ストレス耐性を示すことが分かりました。

本研究は、米国アカデミー紀要『Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of AmericaPNAS)』のオンライン版(5月14日付け:日本時間5月15日)に掲載されました。

図 シロイヌナズナを用いた塩ストレス耐性試験の結果

※共同研究グループ

理化学研究所 環境資源科学研究センター
植物ゲノム発現研究チーム
研究員 中南 健太郎(なかみなみ けんたろう)
チームリーダー 関 原明(せき もとあき)

機能開発研究グループ
客員研究員 花田 耕介(はなだ こうすけ)
(九州工業大学大学院 情報工学研究院 生命情報工学研究系 准教授)
グループリーダー 篠崎 一雄(しのざき かずお)

バイオ高分子研究チーム
研究員 樋口 美栄子(ひぐちみえこ)
上級研究員 吉積 毅(よしづみたけし)

宇都宮大学 バイオサイエンス教育研究センター
助教 岡本 昌憲(おかもと まさのり)

※研究支援

本研究は、農業・食品産業技術総合研究機構技術シーズ開発型研究若手研究者育成枠(生物系特定産業技術研究支援センター)「インシリコ予測に基づいた植物の新規機能性低分子ペプチドの探索(研究代表者:花田耕介)」等の支援を受けて行われました。

背景

機能性ペプチド[3]は、植物や動物だけでなくヒトの生活にも応用されるなど、近年注目を集めています。天然物であるペプチドは遺伝子組換え植物・食品に比べて安全性が高いため、食品、化粧品、医療などにも利用・応用されています。ペプチド研究は、従来の農法を変える可能性のある重要な研究の一つです。

生理活性を持つペプチドの研究は、これまでその短さや発現量の低さゆえ同定や解析が困難でしたが、近年ではバイオインフォマティクス[4]によるゲノム解析や質量分析などの技術の進歩から、新しい機能性ペプチドが同定されています。

最近の植物研究において、機能性ペプチドが特に日本人研究者によって多数発見されています。しかし、それらは植物の生育や発達に関与するものがほとんどで、環境ストレス耐性[1]に関与する機能性ペプチドの報告は、ほとんどありませんでした。

花田客員研究員らは2013年に、モデル植物のシロイヌナズナの遺伝子と遺伝子の間の領域から、ペプチドをコードする短い遺伝子を7,000個以上発見しました注1)。今回、共同研究グループはその中から、植物の塩処理によって発現が誘導されるものを選抜し、それらの遺伝子の過剰発現植物の作製を試みました。

注1)2013年1月22日プレスリリース「未知のゲノム領域にペプチド大陸が存在

研究手法と成果

共同研究グループはまず、材料にはモデル植物であるシロイヌナズナを用いて、塩ストレス処理で発現が上昇する81のペプチドをコードすると考えられる短い遺伝子の中から17遺伝子を選び出し、それらを過剰発現させた植物を作製しました。そして、これら過剰発現体の塩ストレス耐性を、生存率と塩ストレスによる根の伸長により評価し、塩ストレスに対し耐性を示したAT5AT12AtPROPEP3AT23の四つの遺伝子を候補として同定しました(図1)。

そこで、高塩条件で最も多く誘導されたAtPROPEP3遺伝子に的を絞り、人工合成したAtPROPEP3がコードするAtPep3ペプチドを植物に投与し、植物体に塩ストレス耐性を示すかを検討しました。その結果、期待通りに、AtPep3ペプチドの投与でも、植物内でAtPROPEP3遺伝子を過剰発現させることと類似した効果、つまり塩ストレス耐性を示すことを発見しました。これは、トランスクリプトーム解析[5]によっても、AtPep3ペプチドの投与は、植物内部でAtPROPEP3遺伝子を過剰に発現させる遺伝子組換え植物体と同じ効果を示すことが実証されました(図2)。この結果は、ペプチド投与が遺伝子組換え体と同じ効果があることを示しています。

AtPep3ペプチドは植物の病原体に対する抵抗性を上げるものとして、以前に発見されていましたが、塩ストレス耐性を高める機能を持つことはこの研究で初めて示されました。AtPep3ペプチドをコードするAtPROPEP3遺伝子はAtPROPEP遺伝子ファミリーの一つですが、他のファミリーの遺伝子と比較しても、AtPROPEP3遺伝子が塩ストレス処理で非常に多く誘導されることが明らかになりました。さらに、遺伝子の発現だけでなく、AtPep3ペプチド自体も塩ストレス処理で増加することが明らかになりました。

これまでの植物免疫システム[6]の研究からAtPepペプチドファミリーの受容体[7]はPEPR1、PEPR2の二つがあり、植物の病原体に対する耐性を高めるためには、AtPep3ペプチドはPEPR2受容体ではなく、PEPR1受容体により結合することが分かっていました。

そこで、AtPep3ペプチドの受容体であるPEPR1とそのホモログ[8]であるがAtPep3ペプチドの受容体ではないPEPR2の欠損変異体を用いて、AtPep3ペプチドによる塩ストレス耐性が植物の免疫システムと同じ経路で機能しているかを調べました。その結果、PEPR1が機能しているpepr2欠損変異体ではAtPep3ペプチドを投与すると塩ストレス耐性を示したのに対し、pepr1欠損変異体またはpepr1/pepr2二重欠損変異体ではAtPep3ペプチドによる塩ストレス耐性強化の効果はありませんでした。これはAtPep3ペプチドがPEPR1に受容され、病原体に対する耐性を高めるのと同じ経路で塩ストレス耐性を高めていることを示しています。すなわち、塩ストレスによりダメージを受け病気になりやすい状態の植物が、あらかじめ免疫システムも高めておくことで生存しようとする、非常に理にかなったメカニズムが存在することが明らかになりました(図3)。

今後の期待

今回発見されたAtPep3ペプチドは植物体内で作られる天然物であり、その安全性からAtPep3ペプチドを利用した新しい農法の開発が期待できます。特にAtPep3ペプチドは、塩ストレス耐性だけでなく病原体に対する耐性も一度に強化することができる、万能な非生物・生物ストレス耐性農薬の開発につながる可能性があります。

このようにペプチドホルモン、機能性ペプチドの発見は、その機能・活性から農業に応用できる重要な研究であり、共同研究グループは既にスクリーニングによりAtPep3ペプチド以外にも候補遺伝子・ペプチドをいくつか見つけています。したがって、今後、新しいペプチドホルモン、機能性ペプチドが発見される可能性があり、新しい農法の発展につながると期待できます。

原論文情報

Kentaro Nakaminami, Masanori Okamoto, Mieko Higuchi-Takeuchi, Takeshi Yoshizumi, Yube Yamaguchi, Yoichiro Fukao, Minami Shimizu, Chihiro Ohashi, Maho Tanaka, Minami Matsui, Kazuo Shinozaki, Motoaki Seki, and Kousuke Hanada, “AtPep3 is a hormone-like peptide that plays a role in the salinity stress tolerance of plants”, Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 10.1073/pnas.1719491115

発表者

理化学研究所
環境資源科学研究センター 植物ゲノム発現研究チーム
研究員 中南 健太郎(なかみなみ けんたろう)
チームリーダー 関 原明(せき もとあき)

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