RNAアセチル化塩基解析法で超好熱古細菌生存の謎に迫る
2020-06-18 科学技術振興機構,東京都立大学
ポイント
- これまでは、RNAのアセチル化反応を効率よくかつ簡便に解析できる方法がなかったためその実態や生物学的な影響が不明だった。
- RNAのアセチル化反応を1塩基レベルで識別し、高感度で網羅的かつ定量的に解析できるようになった。
- RNAのアセチル化反応が関与する生命現象やその異常に起因する疾患の解析の進展が期待される。
JST 戦略的創造研究推進事業において、東京都立大学の田岡 万悟 准教授、延 優子 特任研究員、礒辺 俊明 客員教授らのグループは、細胞内のRNAを構成する4つの要素の1つであるシチジンのアセチル化反応で生じるアセチル化シチジン(Ac4C)を1塩基レベルで識別し、高感度で網羅的かつ定量的に解析できる新たな方法を開発しました。
RNAのアセチル化は、バクテリアやヒトなどの細胞ではRNAの構造を安定化したり、リボソームを合成したりするための調節に関わっていると推定されていますが、詳しい役割は分かっていません。本研究グループは、開発した方法を用いて85度の過酷な条件下で生育する超好熱古細菌(T.kodakarensis)のRNAを調べたところ、リボソームRNAにAc4Cが数多く含まれることを発見しました。さらに質量分析法とクライオ電子顕微鏡法を組み合わせてこの古細菌が持っているリボソームの全体像とAc4C分布を調べたところ、超好熱古細菌のリボソームは、生育環境が高温になるほどリボソームRNAに多くのAc4Cを付加することが分かりました。これはAc4Cがリボソームを熱から守る鍵となっていることを示しています。
本成果は、生物の環境要因の変化に伴い、DNAからRNAが転写された後に、どのように化学的に修飾されるかの動態を解析するのに極めて有効です。今後、さまざまな種類のRNAに関する構造と機能についての基礎研究や異常なRNAの修飾反応に起因する筋萎縮性側索硬化症(ALS)など多くのヒト難治性疾患の発症メカニズム解析から早期診断、さらに治療のための創薬研究に貢献することが期待されます。
本研究成果は、2020年6月17日(英国夏時間)に英国科学誌「Nature」のオンライン版に掲載されます。
本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。
戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)
研究領域:「ライフサイエンスの革新を目指した構造生命科学と先端的基盤技術」
(研究総括:田中 啓二 東京都医学総合研究所 理事長)
研究課題名:「RNA代謝異常症のリボヌクレオプロテオミクス解析と構造生命科学への展開」
研究代表者:礒辺 俊明(首都大学東京 大学院理工学研究科 特任教授(研究当時))
研究期間:平成25年4月~平成31年3月
<論文タイトル>
- “Dynamic RNA acetylation revealed by quantitative cross-evolutionary mapping”
(生物種を超えた定量的マップ法により明らかになったRNAアセチル化修飾のダイナミズム) - DOI:10.1038/s41586-020-2418-2
<お問い合わせ先>
<研究に関すること>
田岡 万悟(タオカ マサト)
東京都立大学 大学院理学研究科 化学専攻 准教授
<JST事業に関すること>
保田 睦子(ヤスダ ムツコ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 ライフイノベーショングループ
<報道担当>
科学技術振興機構 広報課
東京都立大学 企画広報課 広報係