2020-08-27 京都大学
澤井努 高等研究院ヒト生物学高等研究拠点(ASHBi)特定助教 (iPS細胞研究所特定助教)、皆川朋皓 iPS細胞研究所研究員らの研究グループは、試験管内で培養されるヒト多能性幹細胞由来の胚様構造体を用いた研究の現状と展望を基に、将来、通常の胚に似た胚様構造体が作製される可能性を指摘するとともに、胚様構造体が孕む倫理的課題に対応しながらどのように研究を進めていくのがよいのかを示唆しました。
本研究では、人へと成長する「潜在性」の考え方に着目することで、どのような種類の胚様構造体を倫理的に配慮し、「14日ルール」(ヒト胚を用いた研究における国際的倫理規則)を適用すべきなのかを考察しました。胚は一般的に、受精してから発生を進める過程で、胎児、人へと成長する部分と、胎盤になる部分に分かれます。現在の技術レベルでは難しいですが、(それを可能にする)技術と(それをしたいという)意図さえあれば、将来的に胎児、人へと成長する部分を適切な環境下で発生させることが可能になります。その意味で、胚様構造体を用いた研究をどの程度認めてよいかは、胎児、人へと成長する部分を含むかどうかに依存すると言えます。この理解を前提に、現在、14日ルールの下、通常の胚を原始線条の形成以降、発生させてはならないように、胚様構造体も胎児、人へと成長する部分を含む場合には、原始線条の形成以降、発生させるべきではないと論じました。一方、胚様構造体でも胎児、人へと成長する部分を含まない場合、体細胞を用いた研究などと同じように行ってもよいと指摘しました。
本研究成果は、2020年7月28日に、国際学術誌「EMBO reports」のオンライン版に掲載されました。
図:胚様構造体の種類