母子手帳にもとづいた乳幼児期の授乳期間と、思春期早期における脳部位体積(背側および腹側線条体・眼窩前頭前野)との関連

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2020-09-09 東京大学,日本医療研究開発機構

Neuroimage誌に、東京大学越山太輔、笠井清登教授らの研究グループが、母子手帳をもとにした乳幼児期の授乳期間と、思春期早期における脳部位体積(背側および腹側線条体1)・眼窩前頭前野2))との関連を明らかにした論文が掲載されました。

概要

母乳栄養は児の感情および運動の発達に影響を与えることが知られていますが、脳神経発達にどのように影響するかの評価はこれまで十分にはなされてきませんでした。

母子手帳をもとに調べた母乳栄養期間と、脳構造との関係を調べた結果、母乳栄養期間と背側および腹側線条体と眼窩前頭前野の体積とが正の相関を示し、母乳栄養期間が子どもの感情的行動と関連すること、眼窩前頭前野の体積が母乳栄養期間と感情的行動との関係を媒介していることがわかりました。これらの結果は、母乳栄養が感情的発達に関連する脳神経発達に重要な役割を果たしていることを示しています。

研究の背景

母乳栄養は児の感情および運動の発達に影響を与えることが知られており、新生児期および乳児期の母乳栄養が早期思春期における脳神経発達にどのように影響するかを評価することは児の健康な発達を支援する上で重要です。これまでの研究では母乳栄養について養育者に後方視的に聞き取りをすることが多く、その評価の正確性には限界があり、従って母乳栄養と脳神経発達との関連を調べた研究結果の正確さも限られていました。

研究成果

本研究では、東京ティーンコホート3)参加者のうち10~13歳の207名を対象にMRI画像検査を行い、母子手帳をもとに調べた母乳栄養期間と、脳構造との関係を調べました。

その結果、母乳栄養期間と背側および腹側線条体と眼窩前頭前野の体積とが正の相関を示しました(図)。また事後の解析により母乳栄養期間が児の感情的行動と関連することがわかり、さらに眼窩前頭前野の体積が母乳栄養期間と感情的行動との関係を媒介していることがわかりました(図)。これらの結果は、母乳栄養が感情的発達に関連する脳神経発達に重要な役割を果たしていることを示しています。

母子手帳にもとづいた乳幼児期の授乳期間と、思春期早期における脳部位体積(背側および腹側線条体・眼窩前頭前野)との関連
図 母乳栄養期間と早期思春期における脳体積との関連

研究の意義と今後の展開

母子手帳という本邦で独自に発達した記録法を母乳栄養期間の評価に用いたことで、その期間を正確に評価できました。そして児童を対象とした類似の研究としては比較的大きな被験者数で母乳栄養と脳神経発達との関連を示し、さらに感情的行動との関連を示したことは意義が大きいと考えられます。

母乳栄養が児童の脳神経発達に影響し、かつその脳神経発達を通して感情的行動に影響するという知見は、早期思春期の児童の健康的な発育を支援する上で重要な所見であり、母親の母乳栄養を支援する国際的取り組みに科学的根拠を与えるため、社会へのインパクトは大きいと考えられます。

論文情報

英文タイトル
Association between duration of breastfeeding based on maternal reports and dorsal and ventral striatum and medial orbital gyrus volumes in early adolescence
和訳
母子手帳に基づく授乳期間と思春期早期の脳部位体積(背側および腹側線条体・眼窩前頭前野)との関連
著者名
Daisuke Koshiyama1, Naohiro Okada1, 2, Shuntaro Ando1, 3, Shinsuke Koike1, 2, 4, 5, Noriaki Yahata1, 6, 7, Kentaro Morita1, Kingo Sawada1, 8, Susumu Morita1, Shintaro Kawakami1, Sho Kanata1, 9, Shinya Fujikawa1, Noriko Sugimoto1, Rie Toriyama1, Mio Masaoka1, Tsuyoshi Araki1, Yukiko Kano10, Kaori Endo3, Syudo Yamasaki3, Atsushi Nishida3, Mariko Hiraiwa-Hasegawa11, Kiyoto Kasai1, 2
1) Department of Neuropsychiatry, Graduate School of Medicine, The University of Tokyo, 2) The International Research Center for Neurointelligence (WPI-IRCN) at The University of Tokyo Institutes for Advanced Study (UTIAS), The University of Tokyo, 3) Department of Psychiatry and Behavioral Sciences, Tokyo Metropolitan Institute of Medical Science, 4) University of Tokyo Institute for Diversity & Adaptation of Human Mind (UTIDAHM), 5) Center for Evolutionary Cognitive Sciences, Graduate School of Art and Sciences, The University of Tokyo, 6) Institute for Quantum Life Science, National Institutes for Quantum and Radiological Science and Technology, 7) Department of Molecular Imaging and Theranostics, National Institute of Radiological Sciences, National Institutes for Quantum and Radiological Science and Technology, 8) Office for Mental Health Support, University of Tokyo, 9) Department of Psychiatry, Teikyo University School of Medicine, 10) Department of Child Psychiatry, Graduate School of Medicine, The University of Tokyo, 11) Department of Evolutionary Studies of Biosystems, School of Advanced Sciences, The Graduate University for Advanced Studies (SOKENDAI)
掲載誌
Neuroimage
DOI
10.1016/j.neuroimage.2020.117083

用語解説

1)線条体
線条体はヒトの大脳の皮質下灰白質構造物のひとつであり、背側線条体と腹側線条体から構成されます。背側線条体には被殻と尾状核から構成されており、腹側線条体は主に側坐核から構成されています。これらの大脳基底核の働きは未だに十分に明らかにされているとは言えませんが、これまでの研究から運動機能や記憶・情動・意欲などに関与するとされています。
2)眼窩前頭前野
前頭前野はヒトの大脳皮質である灰白質であり、前頭葉の一部です。前頭前野は前頭葉のなかでも前方に位置しており、眼窩前頭前野はその下面に位置しています。これまでの研究から眼窩前頭前野は報酬・情動・動機づけに基づく意思決定などに関与していることが知られています。
3)東京ティーンコホート
東京都居住の思春期被験者が参加する大規模な疫学研究です。東京都内の3つの自治体の住民基本台帳を用いて、平成14年9月1日から平成16年8月31日までの間に生まれた子がいる世帯を無作為に抽出し、連絡を取ることができた世帯のうち、縦断研究への協力が得られた3,171世帯が対象となりました。よって、東京ティーンコホート研究の被験者は、一般人口集団に由来しています。東京ティーンコホート研究では、心理学的状態、認知機能、社会学的背景、および身体に関する尺度といったさまざまな情報を、被験者とその親より取得しています(URL:http://ttcp.umin.jp 参照)。

お問い合わせ先

研究内容に関するお問い合わせ先

東京大学医学部附属病院精神神経科
教授 笠井清登(かさいきよと)

AMED事業に関するお問い合わせ先

国立研究開発法人日本医療研究開発機構 疾患基礎研究事業部 疾患基礎研究課
戦略的国際脳科学研究推進プログラム

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