発達期のマウス体性感覚野に見られる自発活動の 空間パターン遷移

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2020-09-14 国立遺伝学研究所

Developmental Phase Transitions in Spatial Organization of Spontaneous Activity in Postnatal Barrel Cortex Layer 4

Shingo Nakazawa, Yumiko Yoshimura, Masahiro Takagi, Hidenobu Mizuno, Takuji Iwasato.

Journal of Neuroscience 2020 September 4 DOI:10.1523/JNEUROSCI.1116-20.2020

脳は外界からの刺激のない状態でも自発的に活動しますが、子供の脳にはおとなの脳とは異なった特徴をもつ自発活動がみられ、脳の発達との関連に注目が集まっています。以前に私たちの研究室は、生後5日齢の新生仔マウスの体性感覚野でパッチワーク型の空間パターンを示す自発活動が観察されることを報告しました。(2018年のプレスリリース記事)

今回、マウス体性感覚野の自発活動が発達に伴ってどのように変化するかを生後2週間に渡って詳細に観察しました。その結果、1日齢から5日齢の脳ではパッチワーク型の活動(フェーズ1)、9日齢頃には脳の広い範囲が同期する新しいタイプの活動(フェーズ2)、そして、11日齢からは個々の神経細胞が個別に発火する、おとなの脳に似た特徴をもつ自発活動(フェーズ3)があることがわかりました(図)。

視床の活動を抑制するとフェーズ1の活動は消失しましたが、フェーズ2や3の活動は影響を受けませんでした。つまり、フェーズ1の自発活動は視床を経由して大脳皮質に伝達されるのに対し、フェーズ2や3の活動は別の場所から伝達されることがわかりました。一方、フェーズ2からフェーズ3の遷移期には大脳皮質でシナプスが急激に増加・成熟しますが、シナプス形成に重要な働きをするRac1分子の活性をこの時期の大脳皮質で阻害すると、フェーズ2から3への遷移が障害を受けました。すなわち、Rac1がシナプス成熟を促進することによって自発活動をフェーズ2から3に遷移させる可能性が示唆されました。

本研究は、科学研究費補助金(16H06459, 16H06460, 20H03346)の支援の下、国立遺伝学研究所・岩里研究室の中沢信吾研究員(現・ジュネーブ大学博士研究員)が中心となり、生理学研究所、熊本大学との共同研究として行われました。

図:マウス体性感覚野の自発活動は、発達に伴いフェーズ1(グループ毎の同期発火), 2(広範囲の同期), 3(非同期の発火)の空間パターン遷移を示す。フェーズ1から2への遷移は自発活動の伝達元が切り替わることによって起きる。一方、フェーズ2から3への遷移ではRac1によるシナプス成熟が重要な役割を担う可能性が示された。

生物化学工学
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