森のシカは、夏は落ち葉を、冬は嫌いな植物を食べて生きぬく
2020-10-16 京都大学
古田智博 農学研究科修士課程学生(研究当時)、高柳敦 同准教授、井鷺裕司 同教授、中濵直之 兵庫県立大学自然・環境科学研究所講師(兵庫県立人と自然の博物館研究員)、安藤温子 国立環境研究所主任研究員、鈴木節子 森林総合研究所主任研究員らの研究グループは、シカ糞の遺伝情報から、森林に生息するシカが食べる植物が季節によって異なることを明らかにしました。
近年、ニホンジカが全国的に増加するに伴って森林の植生が破壊され、生物多様性の衰退、土壌侵食など様々な影響が報告されています。シカの増加した森林では、林床に生える、シカの好む植物は食べられてほとんど無くなっていますが、シカは、そうなっても森林内で生息することが可能となっています。このようにシカの餌資源が乏しいにも関わらず、なぜシカがこうした森林内で生息できるのかは長らく謎に包まれていました。本研究ではシカ糞を季節別に集めて、それらに含まれる植物のDNAを調べ、シカが食べている植物の種類を明らかにしました。その結果、シカは冬から春にかけて、シカが好まない常緑樹 (スギなど) や草本植物を食べる割合が増加している一方で、夏から秋には、シカが好む落葉広葉樹 (落枝落葉など) を食べていることが分かりました。このように季節によって食物構成を変化させることで、一見して餌がほとんどない森林でもシカが生き延びていることが分かりました。
本研究は、シカの食物構成の詳細な解明だけでなく、植生が衰退した森林においてシカが生息できるメカニズムの一端を明らかにした重要な成果といえます。今後のシカの個体数管理や森林の植生を再生させるための知見として活用されることが期待されます。
本研究成果は、2020年10月15日以降に、国際科学誌「Forest Ecology and Management」のオンライン版に掲載される予定です。