2021-10-25 国立遺伝学研究所
ウイルスの進化と起源を知るには地球上に存在する膨大かつ多様なウイルスゲノムを網羅的に収集する必要があります。近年「メタゲノム解析」を利用したウイルスゲノムの「発掘」が活発におこなわれています。メタゲノムには細胞とウイルスの遺伝情報が混在していて、ここからウイルスゲノムを洗い出す必要があります。しかしながら、今までの方法では既知のウイルスに類似するウイルスにのみ注目しており、ウイルス全体の多様性を捉えるには不十分でした。
情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所の杉本竜太研究員、井ノ上逸朗教授と東京大学、理化学研究所、佐々木研究所の共同研究グループは、原核生物の「免疫記憶(CRISPR)」を利用してメタゲノムデータからウイルスのゲノム情報を検出する方法を開発しました(図1)。この方法は、既知のウイルスのゲノム情報に依存しないでメタゲノムからウイルス由来と思われる配列を網羅的に検出し、さらにその宿主の推定を可能にします。この方法によってヒト腸内メタゲノムから未知の配列を含む多様なウイルスのゲノム情報を検出することに成功しました。
今後は広範なサンプルに本方法を適用し、地球上に存在するウイルスの網羅的データベースを構築することでウイルスの進化と起源を知るための基盤を構築していきます。
本研究は、情報システム研究機構の未来投資型プロジェクト及び、日本学術振興会の科研費挑戦的研究(萌芽)(20K21405)の支援を受けておこなわれました。
本研究成果は、米国科学雑誌「PLOS Computational Biology」に2021年10月22日(日本時間)に掲載されました。
図: CRISPRを使ったウイルスゲノムの検出法
Comprehensive discovery of CRISPR-targeted terminally redundant sequences in the human gut metagenome: viruses, plasmids, and more
R. Sugimoto, L. Nishimura, P. T. Nguyen, J. Ito, N. F. Parrish, H. Mori, K. Kurokawa, H. Nakaoka, I. Inoue
PLOS Computational Biology (2021) 17, e1009428 DOI:10.1371/journal.pcbi.1009428