褐色脂肪組織に着目したとの新たな関連を解明

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2021-11-17 神戸大学,本医療研究開発機構

神戸大学大学院医学研究科内科学講座循環器内科学分野の吉田尚史研究員、山下智也准教授、平田健一教授らの研究グループは、腸内細菌Bacteroidesが褐色脂肪組織の分岐鎖アミノ酸代謝を亢進する事で肥満を抑制することを発見しました。今後、腸内細菌に着目した新たな抗肥満療法の確立が期待されます。この研究成果は、2021年10月24日に、「iScience」に掲載されました。

ポイント
  • 腸内細菌は、褐色脂肪組織の分岐鎖アミノ酸(1)代謝を制御する環境因子の一つである。
  • 食餌性肥満モデルマウスにおいて、Bacteroides(2)を投与することにより、褐色脂肪組織の分岐鎖アミノ酸代謝が亢進し、肥満が抑制された。
研究の背景

肥満は万病の元と言われ、肥満者数は世界で増加傾向にある。本邦においても肥満に起因する多くの疾患が増加しており、医療経済的観点からも社会問題となっている。

褐色脂肪組織は分岐鎖アミノ酸を含む栄養素を利用して熱産生する臓器であり、熱産生によるエネルギー消費の増大から肥満抑制的に働くことが知られている。これまでに、褐色脂肪組織における分岐鎖アミノ酸利用の低下(=分岐鎖アミノ酸代謝の低下)が熱産生を低下させることで肥満を引き起こすことは報告されているが、褐色脂肪組織における分岐鎖アミノ酸代謝を制御する環境因子については解明されていない。

今回、吉田らは、腸内細菌が褐色脂肪組織における分岐鎖アミノ酸代謝を制御しており、Bacteroidesが同代謝を亢進させる事で肥満を抑制することを明らかにした。

研究の内容

まず最初に、腸内細菌が褐色脂肪組織の分岐鎖アミノ酸代謝を制御していることを明らかにするために、腸内細菌が存在する通常マウスと、腸内細菌が存在しない無菌マウスに高脂肪食による負荷を与え、褐色脂肪組織における分岐鎖アミノ酸代謝を評価した。結果、通常マウスでは高脂肪食負荷後に緩やかに分岐鎖アミノ酸代謝が低下するのに比し、無菌マウスでは高脂肪食負荷後、分岐鎖アミノ酸代謝が顕著に低下していた(図1)。このことから、腸内細菌は高脂肪食に伴う褐色脂肪組織の分岐鎖アミノ酸代謝の低下に対して保護的に作用していることが分かった。


図1 通常マウスと無菌マウスにおける褐色脂肪組織の分岐鎖アミノ酸代謝BCKDHは分岐鎖アミノ酸代謝における重要な酵素であるが、リン酸化されたBCKDHは分岐鎖アミノ酸を代謝する能力を失う。即ち、リン酸化BCKDH/BCKDH比が高いほど、分岐鎖アミノ酸代謝が低下している事を意味する。
(左図)通常マウスでは高脂肪食負荷に伴い緩やかに分岐鎖アミノ酸代謝が低下している。
(右図)無菌マウスでは高脂肪食負荷に伴い急激に分岐鎖アミノ酸代謝が低下している。


次に、Bacteroides2菌(Bacteroides doreiとBacteroides vulgatus)を食餌性肥満モデルマウスに経口投与し、その抗肥満効果や褐色脂肪組織の分岐鎖アミノ酸代謝に与える影響を評価した。結果、Bacteoroides2菌を投与したマウスはコントロールマウスより体重増加が有意に抑制された(図2)。また、菌投与マウスにおいて褐色脂肪組織の分岐鎖アミノ酸代謝は有意に亢進していた。このことは、Bacteoroides2菌が褐色脂肪組織の分岐鎖アミノ酸代謝を亢進させることで肥満を抑制したことを示唆している。


図2 Bacteroides2菌を投与した結果食餌性肥満モデルマウスに培地のみ(コントロール)、あるいはBacteroides2菌を週5回経口投与し、体重の推移と18週齢における褐色脂肪組織のバリン代謝を評価した。
(左図)Bacteroides2菌投与マウスはコントロールより体重増加が有意に抑制された。
(右図)Bacteroides2菌投与マウスはコントロールより褐色脂肪組織のバリン代謝が有意に亢進していた。
Ctrl;高脂肪食に培地のみ投与したマウス、Bac;高脂肪食にBacteroides2菌を投与したマウス


最後に、肥満患者7名の糞便を採取後、神戸大学ヒト腸管モデル(3)にて培養し、Bacteroides2菌のプロバイオティクスを添加した。結果、7名全例において、Bacteroides2菌の割合が有意に増加することを明らかにした(図3)。このことは、肥満患者がBacteroides2菌のプロバイオティクスを摂取した際に、腸内細菌中に占めるBacteroides2菌の割合が増加することを示唆している。


図3 神戸大学ヒト腸管モデルを用いた研究神戸大学ヒト腸管モデルに、肥満患者7名の糞便をそれぞれ入れる事で7名固有の腸内細菌叢を再現した。そこにBacteroides2菌のプロバイオティクスを投与したところ、7名全ての腸内細菌叢においてBacteroides2菌の占める割合が有意に増加した。

今後の展開

これらの成果は、腸内細菌と遠隔臓器である褐色脂肪組織との連関を紐解いたものであると同時に、ヒトにおいて、プロバイオティクス投与によるBacteroides2菌の増加により、褐色脂肪組織の分岐鎖アミノ酸代謝を介した肥満予防・肥満治療ができる可能性を示唆しており、腸内細菌制御による新たな抗肥満治療の開発が期待される。

用語解説
(1)分岐鎖アミノ酸
必須アミノ酸の一種であり、バリン、ロイシン、イソロイシンの総称。
(2)Bacteroides
ヒト腸内細菌叢における優勢菌の一種。吉田らは以前にBacteroides doreiとBacteroides vulgatusに動脈硬化抑制作用があることを報告している。
(3)神戸大学ヒト腸管モデル
特殊な嫌気チャンバーにより、患者個々の腸内細菌叢を維持できる神戸大学発の培養装置。このチャンバー内にプロバイオティクスを入れることで、そのプロバイオティクスを摂取した際に起こり得る腸内細菌叢の変化を、非侵襲的に低コストでモニターできる。
謝辞

本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の革新的先端研究開発支援事業(PRIME)「微生物叢と宿主の相互作用・共生の理解と、それに基づく疾患発症のメカニズム解明」領域における研究開発課題「ヒト腸内細菌Bacteroides2菌種の抗炎症作用機序の解明と慢性炎症性疾患治療への応用」(研究開発代表者:山下智也)、日本学術振興会科学研究費補助金、群馬大学生体調節研究所内分泌・代謝学共同研究拠点共同研究助成などによる支援を受けて行われたものである。

論文情報
タイトル
“Bacteroides spp. promotes branched-chain amino acid catabolism in brown fat and inhibits obesity”
DOI
10.1016/j.isci.2021.103342
著者
吉田尚史、山下智也、大曽根達則、細岡哲也、篠原正和、北浜誠一、佐々木建吾、佐々木大介、米代武司、鈴木智大、江本拓央、斉藤克寛、小澤元希、廣田勇士、北浦靖之、下村吉治、岡松優子、斉藤昌之、近藤昭彦、梶村真吾、稲垣毅、小川渉、山田拓司、平田健一
掲載誌
iScience
お問い合わせ先

研究について
国立大学法人神戸大学大学院医学研究科内科学講座循環器内科学分野
准教授 山下智也

報道担当
国立大学法人神戸大学総務部広報課

AMED事業に関すること
国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)シーズ開発・研究基盤事業部革新的先端研究開発課

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