栄養が発生中の甲状腺の形態を制御することを発見

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2022-03-29 熊本大学,日本医療研究開発機構

研究成果のポイント
  • 両生類モデル動物を用いて、甲状腺の内分泌機能の基盤となる濾胞の形態構築には、体外由来の栄養が必要であることを明らかにしました。
  • 消化管ホルモンであるGlucose-dependent insulinotropic polypeptide(GIP)が、栄養に依存する甲状腺濾胞形成を仲介することを見出しました。
  • GIP受容体を欠損したマウス胚では、甲状腺濾胞の低形成が認められました。
  • 周産期の栄養が器官形成に果たす役割や、先天性の器官低形成の病理の解明につながることが期待されます。
研究の背景

甲状腺は代謝や成長を調節するホルモンを分泌し、その内分泌機能は「濾胞」と呼ばれる球形の組織が基盤となっています。甲状腺疾患では濾胞の形態や大きさに異常が見られることが知られており、特に先天性の甲状腺機能低下症注1は新生児や乳児の発達に深刻な影響を及ぼすため、甲状腺濾胞の形態形成を制御する機構を解明することは、医学的、発生生物学的にも重要な課題の1つとなっていました。一方で、甲状腺濾胞の発生やその形態の恒常性維持を制御する分子機構については多くが未解明のままとなっており、解析しやすいモデルが求められていました。

研究成果の概要

本研究では、発生生物学でモデル動物として用いられているアフリカツメガエル幼生の甲状腺形成過程に注目し、器官形成期に体外から吸収する栄養が甲状腺濾胞の形態形成に必須であることを見出しました。胎盤を介して母体から栄養を得る哺乳類と異なり、アフリカツメガエルの幼生は器官形成期から餌を食べることにより栄養を補給します。甲状腺組織を細胞レベルで撮影して立体像を構築し、細胞の配置や濾胞内腔の大きさ等を詳細に定量・解析したところ、餌由来の栄養が甲状腺濾胞の形成の開始・促進に必要であることがわかりました。一方で未給餌の幼生は正常な遊泳行動を示し、長期間生存するものの、甲状腺の濾胞形成が進行しないこともわかりました(概略図・上)。

摂食に依存して開始する甲状腺濾胞の形成には、摂食後に消化管から分泌されるインクレチン注2というホルモンが必要であることを発見しました。インクレチンの1つであるGlucose-dependent insulinotropic polypeptide(GIP)の活性ペプチドを未給餌の幼生に微量注入したところ、未給餌では観察されないはずの甲状腺濾胞の拡大がみられました。また、給餌群の幼生にインクレチン受容体のアンタゴニストを微量注入すると、甲状腺濾胞の形成が阻害されました。さらに、甲状腺細胞と濾胞内腔の位置関係を解析することにより、インクレチンは摂食開始後に見られる小濾胞同士の結合を促進する機能を持つことが見出されました(概略図・下)。

栄養が発生中の甲状腺の形態を制御することを発見
概略図 栄養が消化管ホルモンを介して甲状腺濾胞の形成に関与する。器官形成期に摂食するアフリカツメガエル幼生をモデルとして使用。体外由来の栄養が消化管からのインクレチン(GIP)分泌を促し、甲状腺濾胞の形成を開始、促進させる。


次に、両生類モデルで見出されたインクレチンの甲状腺濾胞形成における機能が、哺乳類で同様に見られるかをGIP受容体のノックアウトマウスを用いて解析しました。GIP受容体ノックアウトマウスの甲状腺濾胞の形態と大きさを解析したところ、生後直後の甲状腺濾胞が小さく、インクレチンの甲状腺形態形成における機能が種を超えて保存されている可能性が示されました。一方で、GIP受容体ノックアウトマウスでも生後の甲状腺濾胞の拡大は見られたことから、甲状腺濾胞の発生と生後の成長は別の制御機構による可能性も示唆されました。

研究成果の意義と今後の展開

本研究成果により、甲状腺濾胞の形態形成が栄養状態に応じて変化することが示されました。栄養と甲状腺濾胞形成を仲介する消化管ホルモンの機能が新たに見出され、消化管ホルモンが発生過程特異的に器官の形態制御機能を持つことも示唆されました。これらの成果は器官形成期の栄養操作が格段に容易な両生類モデルを使用したことで見出され、本研究は哺乳類モデルやヒトで検証を行うための有用な知識が非哺乳類モデル動物から得られることを示す一例となりました。今後、器官形成期における栄養やホルモンの役割を精査することで、先天性の甲状腺低形成の病理や、甲状腺濾胞形態の恒常性を維持する分子機構の解明につながることが期待されます。発見される分子機構がヒトにおいても同様に機能することが分かれば、器官形態の新たな修復技術の開発に貢献することも期待できます。

本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)の革新的先端研究開発支援事業(PRIME)「生体組織の適応・修復機構の時空間的解析による生命現象の理解と医療技術シーズの創出」研究開発領域における研究開発課題「臓器形態形成におけるストレス依存的な適応・修復機構の解明」(研究開発代表者:進藤麻子)の支援のもと行われたもので、その研究成果はCurrent Biology誌オンライン版に2022年2月22日に掲載されました。

用語説明
注1 先天性甲状腺機能低下症
生まれつき甲状腺の機能が正常ではなく、甲状腺ホルモンが不足する疾患。甲状腺の欠損や、構造に異常がある場合に生じる。症状としては生後の発達や成長の遅延が見られる。
注2 インクレチン
消化管ホルモンの1つで、グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(glucose-dependent insulinotropic polypeptide: GIP)とグルカゴン様ペプチド-1(Glucagon-like peptide-1: GLP-1)の2つがある。ヒトでは、膵臓のβ細胞からのインスリン分泌を促進する機能がよく知られる。
論文情報
タイトル
Nutritional control of thyroid morphogenesis through gastrointestinal hormones
著者名
Maki Takagishi1, Binta Maria Aleogho2, Masako Okumura2, Kaori Ushida3, Yuichiro Yamada4, Yusuke Seino5, Sayoko Fujimura6, Kaoru Nakashima6, and Asako Shindo1,2,6*
著者の所属
  1. 名古屋大学高等研究院
  2. 名古屋大学大学院理学研究科生命理学専攻
  3. 名古屋大学大学院医学系研究科附属医学教育研究支援センター分析機器部門
  4. 関西電力病院
  5. 藤田医科大学
  6. 熊本大学発生医学研究所
掲載誌
Current Biology
DOI
10.1016/j.cub.2022.01.075.
お問い合わせ先

研究に関すること
熊本大学発生医学研究所 独立准教授 進藤麻子

AMED事業に関すること
日本医療研究開発機構(AMED)
シーズ開発・研究基盤事業部 革新的先端研究開発課

生物工学一般
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