皮膚の奥の神経が肌のシミ形成に影響、重要な働きを担う因子も同定

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2022-09-21 東京大学

○発表者:
池内 与志穂(東京大学 生産技術研究所 准教授)
周   小余(東京大学 生産技術研究所 特任研究員)
中山  和紀(ポーラ化成工業株式会社 フロンティアリサーチセンター 研究員)

○発表のポイント:
◆ヒトの皮膚において、シミ外部に比べてシミ内部では感覚神経と色素細胞(メラノサイト)の接触が増えていた。
◆感覚神経がRGMBというタンパク質を分泌し、それを受けた色素細胞が活性化し、より多くの色素を産生することを示した。
◆皮膚の局所的な色素沈着(「シミ」など)の理解と、治療法の開発などに貢献できる可能性がある。

○発表概要:
ヒトの皮膚においてシミが特定の部位にできやすいことは知られていましたが、その理由は謎でした。一方で、シミのもととなるメラニン色素を作る色素細胞(メラノサイト)の近くには感覚神経が存在することは知られていました。しかし、これらの2種類の細胞の機能的な関係はあまり調べられていませんでした。
そこで、東京大学 生産技術研究所の池内 与志穂 准教授、周 小余特 任研究員らとポーラ化成工業株式会社の合同チームは、感覚神経とメラノサイトの関係に着目して詳細に調べた結果、ヒト皮膚のシミ内部では、シミのない部位に比べて感覚神経とメラノサイトの接触が増えていることが判明しました。また、メラノサイトをヒトiPS細胞(人工多能性幹細胞)から作製した感覚神経と一緒に培養すると、単独で培養するよりも活発に突起を伸ばすとともに、より多くの色素を産生することを示しました。このメカニズムを明らかにするため、ヒトiPS細胞由来の感覚神経細胞から分泌されるタンパク質を網羅的に同定したところ、RGMB(Repulsive Guidance Molecule B)と呼ばれるタンパク質がメラノサイトの突起伸長と色素産生を促すことを突き止めました。RGMBはメラノサイトが色素を含む小胞を細胞外に放出する機構も活性化していました。これらのことから、ヒトの皮膚中の感覚神経は、RGMBを分泌することでメラノサイトを活性化させることが明らかになりました。
本成果は、シミなどの皮膚の局所的な色素沈着の理解と改善法の開発などに貢献します。

○発表内容:
1.研究の背景
ヒトの皮膚において、シミなどの色素の局所的な異常は多くの人に影響を与えており、解決方法が望まれています。しかし、皮膚における色素の制御機構については不明な点が多く残っており、根本的な理解が治療法の開発にとって重要です。
ヒトの皮膚の表皮において感覚神経とメラノサイトは、物理的に近くに存在することが知られていました。しかし、イカなどとは異なり、ヒトは意識的に皮膚の色を変えることはできないため、感覚神経がメラノサイトに積極的に働きかけるとは考えられていませんでした。一方で、結節性硬化症などの一部の先天性疾患では神経系の異常と皮膚色素斑の両方が見られるため、皮膚の神経と色素の関係が示唆されていました。また、皮膚の感覚神経とメラノサイトはどちらも神経堤細胞から生み出されます。さらに、メラノサイトの元になる細胞は、感覚神経の上を伝って皮膚へと移動することから、感覚神経とメラノサイトが発生の過程において深い関係性を持つことも知られていました。
これらのことから、東京大学 生産技術研究所の池内 与志穂 准教授、周 小余 特任研究員らとポーラ化成工業株式会社の合同チームは、感覚神経とメラノサイトがこれまでに知られていなかったメカニズムの相互作用を介して皮膚の色素に影響を及ぼしているという仮説を立て、これらの二種類の細胞の関係に着目して研究を行いました。

2.研究内容
ヒトのシミ部位の皮膚を調べたところ、感覚神経とメラノサイトの接触がシミ内部でシミ外部よりも増えていることがわかりました。ヒトのiPS細胞から作製した感覚神経をヒトのメラノサイトと一緒に培養したところ、単独で培養するよりもメラノサイトが突起を伸ばし、より多くの色素を産生することがわかりました。感覚神経を生育させた培養液をメラノサイトに与えると、同様にメラノサイトが活性化されました。これらのことから、ヒトの感覚神経はなんらかの物質を放出し、メラノサイトを活性化させていると考えました。
より詳細にメカニズムを調べるために、ヒトiPS細胞由来の神経細胞から分泌されるタンパク質を抽出し、質量分析計によって網羅的に調べました。そして、メラノサイトに影響を与える能力を持つタンパク質を探索しました。見出された多数のタンパク質のうちの1つであるRGMBを与えると、メラノサイトの突起伸長と色素産生が促されたため、RGMBは神経から分泌されてメラノサイトを刺激する物質であることがわかりました(図1)。また、RGMBを作用させたメラノサイトの遺伝子発現の変化を解析すると、小胞の放出に関与する遺伝子の発現がRGMBによって促されることがわかりました。メラノサイトの小胞放出はメラニンを皮膚に放出するメカニズムの一部を担うと考えられます。そこで、培養したメラノサイトからの小胞の放出に着目すると、RGMBはメラノサイトの小胞放出も活性化する能力を持つことがわかりました。
これらのことから、ヒトの皮膚中の感覚神経はRGMBを分泌することでメラノサイトを活性化することがわかりました(図2)。

3.社会的意義
本研究の成果は、シミなどの皮膚の局所的な色素沈着の治療法の開発などに貢献すると考えられます。

○発表雑誌:
雑誌名:「Cell Reports」(オンライン版の場合:9月20日)
論文タイトル:Human Sensory Neurons Modulate Melanocytes Through Secretion of RGMB
著者:Siu Yu A. Chow, Kazuki Nakayama, Tatsuya Osaki, Maki Sugiyama, Maiko Yamada, Yoshiho Ikeuchi* et al.
DOI番号:10.1016/j.celrep.2022.111366
本研究グループ:
池内 与志穂(東京大学 生産技術研究所 准教授)
周   小余(東京大学 生産技術研究所 特任研究員
研究当時:東京大学 大学院工学系研究科化学生命工学専攻 博士課程)
大崎  達哉(研究当時:東京大学 生産技術研究所 特任助教)
中山  和紀(ポーラ化成工業株式会社 フロンティアリサーチセンター 研究員)
杉山  茉希(ポーラ化成工業株式会社 フロンティアリサーチセンター 副主任研究員)
山田 麻衣子(ポーラ化成工業株式会社 フロンティアリサーチセンター 研究員)ら

○問い合わせ先:
東京大学 生産技術研究所
准教授 池内 与志穂(いけうち よしほ)

○添付資料:
皮膚の奥の神経が肌のシミ形成に影響、重要な働きを担う因子も同定
図1 RGMBを添加したメラノサイトの写真
神経から分泌される因子RGMBをメラノサイトに添加すると、表皮の細胞に色素を受け渡す際に使う突起を活発に伸ばすとともに、色素が多く作られることでメラノサイトが黒っぽく見えます。このことから、RGMBによりメラノサイトの働きが活性化したことが分かります。

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図2 本研究の概要
シミの奥では感覚神経とメラノサイトの接触が増えていることや、感覚神経がRGMBというタンパク質を分泌し、それを受けたメラノサイトが活性化してより多くの色素(メラニン)を産生することを示した。

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