2022-09-30 宇都宮大学
宇都宮大学バイオサイエンス教育研究センターの児玉豊教授は、市川晋太郎氏(同大大学院博士前期課程2年)、加藤翔太博士(元・同大特任助教)、石川一也博士(元・同大特任助教)、藤井雄太博士(元・同大大学院生)、沼田圭司教授(理化学研究所チームリーダー・京都大学教授)と共に、植物(オオカナダモ)を材料にして細胞内のオルガネラ(細胞小器官)を接着する新技術「オルガネラグルー」を開発しました。
本研究成果は、9月30日にACS Synthetic Biologyに掲載されました。
■研究背景
真核細胞内には脂質膜を隔てていくつかの区画に分けられた核・ゴルジ体・葉緑体・ミトコンドリア・ペルオキシソーム等の細胞小器官(オルガネラ)が発達しています。それぞれのオルガネラは、異なる機能を有しており、たとえば、植物細胞内における緑色のオルガネラである葉緑体は光合成を担っています。
細胞内では、様々なオルガネラ同士が近接、接触を介して、それぞれが作り出す物質(代謝産物)をやり取りして機能していると予想されています。近年では「オルガネラコンタクト」や「オルガネラコミュニケーション」といったオルガネラ間の相互作用に関する研究が進展しています。 オルガネラ間の物質輸送や、オルガネラ間相互作用についての解析には、オルガネラ同士の近接、接触を人為的に制御することができれば有効ですが、これまで、そのような技術は存在していませんでした。
■研究成果
研究グループは、生体内におけるタンパク質相互作用の解析に広く用いられてきた”二分子蛍光相補完法(BiFC [bimolecular fluorescence complementation] ※1 )”を応用し、生きた植物(オオカナダモ)の細胞内で、複数の葉緑体を人工的に接着することに成功しました。
BiFC法は、図1のように、2つに分割した蛍光タンパク質(断片Aおよび断片B)を細胞内に作らせると元の蛍光タンパク質の構造が再構成される性質を利用したイメージング解析法であり、微生物、動物、植物等の様々な生物種で起こるタンパク質間相互作用の解析に利用されています(詳しくは和文解説を参照※2)。
また蛍光タンパク質が再構成されると断片Aと断片Bは離れなくなること(不可逆的な反応)も知られていました。
図1. BiFC法における蛍光タンパク質の再構成
今回、研究グループは、BiFC法の不可逆的な反応を利用し、オルガネラの接着制御に成功しました(図2)。
図2.通常の葉緑体分布(左)とオルガネラグルーによって接着した葉緑体の分布(右)
植物細胞(オオカナダモ)において、蛍光タンパク質の断片Aを葉緑体表面に、断片Bを細胞質内に発現させたところ、断片Aと断片Bの自己会合が起こり、図3のように、複数の葉緑体が接着した塊が形成されることを発見しました。詳しく調べたところ、異なった葉緑体の表面に存在する断片A同士が断片Bを介して結合していることが示唆されました。
複数の葉緑体で作られた塊の中には、ミトコンドリアやペルオキシソームといった別のオルガネラも含まれることもわかりました。複数のオルガネラが、まさに糊(Glue)で引っ付けたように塊になったため、本技術を「オルガネラグルー」と名付けました。
図3.オルガネラグルーによって複数の葉緑体が接着した細胞(中央)。
赤紫色が葉緑体、緑色が再構成された蛍光タンパク質のシグナルを示す。
■今後の展望
今後は、今回開発したオルガネラグルーを用いることにより、オルガネラ相互作用やオルガネラ間の物質輸送の詳細な解析が可能となります。将来的には、オルガネラ間接触を改変して、オルガネラのコミュニケーションによってやり取りされる様々な物質の量を調整した有用植物の作出に貢献することが期待されます。
<担当・問合せ先>
バイオサイエンス教育研究センター 教授 児玉 豊