国内希少野生動植物種スイゲンゼニタナゴの新しい調査手法を開発!~水をくむだけの環境DNA分析で絶滅危惧種の保全を目指す~

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2022-12-21 岡山大学,農研機構

◆発表のポイント

  • 淡水魚のスイゲンゼニタナゴは、種の保存法で国内希少野生動植物種に指定されており、早急な保全策が必要とされています。国内希少野生動植物種に指定されている魚類はわずかに10種のみです。
  • 河川や農業水路の環境水中には、生息している生物から糞や粘液などが排出されますが、それらの中にはその生物に由来する環境DNAが含まれています。本研究では、環境DNA分析によってスイゲンゼニタナゴの生息の有無を推定できる新たな調査手法の開発に初めて成功しました。
  • 環境DNA分析における調査は採水のみで済みますので、たも網などの漁具を用いる従来の魚類調査法に比べ、スイゲンゼニタナゴの分布調査を魚にダメージを与えることなく短時間で効率的に進めることが可能となりました。
  • 今回開発された手法で調査を実施することで、スイゲンゼニタナゴの生息状況を効率的にモニタリングできるとともに、スイゲンゼニタナゴの新たな生息地の発見にもつながることが期待されます。

岡山大学大学院環境生命科学研究科博士前期課程大学院生(当時)の大槻華乃子さん(応用生態工学)(現・株式会社カイハツ)、同学術研究院環境生命科学学域(工)の中田和義教授(保全生態学)、同学術研究院自然科学学域(牛窓臨海実験所)の濱田麻友子准教授(進化・ゲノム生物学)と坂本竜哉教授(総合水圏生物学)、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構本部の小出水規行セグメントIV理事室長(農村生態工学)の共同研究グループは、種の保存法で国内希少野生動植物種に指定されているスイゲンゼニタナゴの環境DNA検出法の開発に成功しました。

本研究の成果は、2022年11月23日に国際学術誌「Landscape and Ecological Engineering」の電子版・特集号「Environmental DNA as a Practical Tool for Aquatic Conservation and Restoration」に掲載されました。

環境DNA分析では、従来の魚類調査法に比べ、少ない労力で効率的に魚類の分布を評価することができ、魚を傷つけることもありません。本研究成果は、スイゲンゼニタナゴの最新の生息状況を簡便ながらも高い精度で評価することを可能にするとともに、新たな生息地の発見につながることも期待され、スイゲンゼニタナゴの保全に大きく貢献することが期待されます。

◆大槻さんからのひとこと

岡山にも生息している希少種の保全に携われてとても貴重な経験ができたと感じております。研究対象種のスイゲンゼニタナゴを初めて見たときは、とっても美しい魚だと感動しました。学部4年で研究をはじめた当初は、ピペットマンの使い方すら分からず、大変苦労しました・・・。右も左も分からない状態から研究をはじめましたが、先生方の手厚いご指導をいただき、このような形で結果を示すことができてとても嬉しく思っています。

◆中田教授からのひとこと

魚・ザリガニ・昆虫など、さまざまな生き物をひたすら捕まえ続ける少年時代を過ごした私にとって、水をくむだけで棲んでいる生き物の種がわかるようになるとは、夢にも思っていませんでした(実際に生き物を捕まえる方が楽しいのですが!)。スイゲンゼニタナゴは、各地で地域絶滅し、極めて危機的な状況です。今回開発した手法により、スイゲンゼニタナゴの保全対策が効率的に進み、本種が普通に見られる日がやってくることを願っています。

◆濱田准教授からのひとこと

これまで主に海の生き物の研究をしてきたこともあり、実は川の生き物である淡水魚は全く眼中になかった(すいません!)のですが、今回の共同研究を通じて岡山の淡水魚の豊かさや可愛さ、それが危機的な状況にあることを知ることができました。環境DNA分析ではターゲットのDNA配列さえわかれば生物種を問わず調べることができます。配列データベースも充実してきた今、この方法を様々な生物・分野に活用していきたいと思っています。

国内希少野生動植物種スイゲンゼニタナゴの新しい調査手法を開発!~水をくむだけの環境DNA分析で絶滅危惧種の保全を目指す~

図1 スイゲンゼニタナゴのオス(左上)とメス(左下).タナゴ類は二枚貝の体内に卵を産むというユニークな繁殖生態を有する(右).オスは繁殖期になると美しい婚姻色を呈する.

図2. リアルタイムPCR法を用いた環境DNA分析によるスイゲンゼニタナゴのDNA検出の概念図.スイゲンゼニタナゴの生息個体数が多いほど環境DNA量は多くなるため、個体数が多い・少ないを定量的に評価することができる.一方で、スイゲンゼニタナゴが生息していなければ環境水中にはそのDNAが含まれないため、環境DNAは検出されない.

図3 リアルタイムPCRで検出された遊泳時間別のスイゲンゼニタナゴの環境DNA濃度.

図4 スイゲンゼニタナゴの採捕地点(★)と各調査地点の環境DNA濃度.

■論文情報

論文名: Quantitative PCR method to detect an extremely endangered bitterling fish (Rhodeus atremius suigensis) using environmental DNA

邦題名「国内希少野生動植物種スイゲンゼニタナゴの環境DNA検出法の開発」

掲載誌: Landscape and Ecological Engineering

著者: Kanoko Otsuki#、 Mayuko Hamada#、 Noriyuki Koizumi、 Tatsuya Sakamoto、 Kazuyoshi Nakata*(#共同筆頭著者、*責任著者)

DOI: https://doi.org/10.1007/s11355-022-00531-9

発表論文はこちらからご確認できます。

Quantitative PCR method to detect an extremely endangered bitterling fish (Rhodeus atremius suigensis) using environmental DNA - Landscape and Ecological Engineering
Rhodeus atremius suigensis is an extremely endangered bitterling fish, designated as one of the Nationally Endangered Sp...

■研究資金

本研究は、神戸市立須磨海浜水族園「2019年度スマスイ自然環境保全助成」と国土交通省中国地方整備局「岡山大学との包括協定による委託研究(2018年度)」の支援を受けて実施しました。

<お問い合わせ>

岡山大学学術研究院環境生命科学学域(工)

教授 中田 和義

生物環境工学
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