北極と南極の雪を赤く染める藻類の地理的分布の解明

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2018/08/07  国立遺伝学研究所,山梨大学総合分析実験センター,千葉大学,国立極地研究所
,北海道大学低温科学研究所

Bipolar dispersal of red-snow algae

Takahiro Segawa*, Ryo Matsuzaki, Nozomu Takeuchi, Ayumi Akiyoshi, Francisco Navarro, Shin Sugiyama, Takahiro Yonezawa, Hiroshi Mori *責任著者

Nature Communications 9, Article number: 3094 (2018) DOI:10.1038/s41467-018-05521-w

山梨大学総合分析実験センター 瀬川高弘助教,国立環境研究所 松崎令JSPS特別研究員,千葉大学理学部 竹内望教授らの研究グループは,国立極地研究所 秋好歩美技術専門員,北海道大学低温科学研究所 杉山慎教授,東京農業大学 米澤隆弘准教授,国立遺伝学研究所 森宙史助教とのチームと共同で,世界各地の雪氷環境に生息する雪氷藻類に対して遺伝子解析を行い,特定の藻類種が北極と南極の両極から共通で検出されること,またそれらは現在も分散,交流している可能性があることを明らかにしました.

雪氷藻類は,融解期の雪氷上で繁殖する光合成微生物で,世界各地の氷河や積雪上に広く分布しています.雪氷藻類の多くは緑色の藻類(緑藻)に分類されていますが,雪氷上の強光によるDNAの損傷を防ぐために,細胞内にアスタキサンチンなどの赤い色素を貯め込むので,高密度に繁殖すると雪が赤く染まったように見えます(図1).この現象は赤雪と呼ばれ,日本をはじめ南極から北極まで世界各地の積雪でみることができますが,優占する藻類細胞はほぼ休眠胞子で,どこの赤雪でもほぼ似たような色とサイズであることから(図2),顕微鏡で観察しても正確な種同定は難しいことが知られています.

氷河や積雪といった雪氷圏は,極域や高山にそれぞれ地理的に独立して分布していることから,距離的に離れた各地の雪氷藻類が同一種なのかどうかは興味深い問題です.近年の研究から,北極域ではどこでも同じ種類の雪氷藻が分布していると信じられてきました.しかしながら,北極と南極の両極の赤雪試料を用いて,より解像度の高い手法による遺伝子分析を実施した結果,大部分の藻類は南極もしくは北極のどちらかに分布し,北極域においても特定の地域または氷河からのみ検出される事がわかりました.さらに,ごく一部の系統の藻類が両極に分布し,このようなタイプの藻類が積雪や氷河上で多くの割合を占めている事も示しました.本研究は,微生物の全球的な分散や,多様な微生物たちが相互作用する生態系を理解する上で,重要な知見になると期待されます.

本研究成果は,Nature Communications 誌に掲載されました(日本時間平成 30 年 8月 6日午後 6 時 オンライン版掲載).

遺伝研の貢献
ゲノム進化研究室 森宙史助教は赤雪の塩基配列データを用いた配列クラスタリングや系統推定等の情報解析を行いました。解析には遺伝研スーパーコンピュータを使用しました。

北極と南極の雪を赤く染める藻類の地理的分布の解明

図1:
(左、中央)赤雪の写真 アラスカで観察された赤雪現象.
(右)赤雪を構成する主な雪氷藻類 赤い色素をもった雪氷藻類の増殖により,雪が赤く染まる.

Figure1

図2:各地域間の微生物—微生物ネットワーク図
雪氷藻類の完全一致配列は,ほとんどが地域固有のものであり,地域間で共通する配列は少なかった.完全一致配列(点)につながった線の色が,その配列が検出された地域を示している.図中の矢印が全ての地域から検出された完全一致配列.

Figure1

図3:両極から検出された雪氷藻類の割合
完全一致配列の多くは特定の地域のみに存在するエンデミックなものであり(平均55.1%),両極から検出された(=コスモポリタンな)完全一致配列(912種類の配列)が全ての完全一致配列に占める割合は,地域別で3-9%(平均1.4%)と低頻度だった(図A).一方,コスモポリタンな完全一致配列(912種類の配列)が全塩基配列数に占める割合は平均で37.3%と高く(図B),限られた系統の雪氷藻類が全球に共通して分布しており,それらが赤雪上では優占していることが明らかとなった.

細胞遺伝子工学生物環境工学
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