見過ごされてきた植物標本コレクションから学術的に貴重な標本を発見

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ハーバリウム:MATSUからキミノクロガネモチのレクトタイプを指定

2023-02-20 愛媛大学

このたび、黒田啓太(愛媛大学大学院連合農学研究科博士課程、愛媛県立衛生環境研究所)、鍋嶋絵里(農学部生物環境学科森林資源学コース)、濱口正幹、配川幸一、武田大作(農学部附属演習林)、永益英敏(京都大学総合博物館)は、本学農学部森林資源学コース(国際コード:MATSU)所蔵の植物標本群から「キミノクロガネモチ:Ilex rotunda Thunb. f. xanthocarpa Uyeki & Tokui」のレクトタイプを指定する英文論文を発表しました。

国際的なデータベースに登録されている植物標本の収蔵機関である愛媛大学農学部森林資源学コースの標本群を調査した結果、多数の学術上貴重な標本を含むコレクションであることが判明しました。その中から、クロガネモチの黄果品種キミノクロガネモチの新品種発表時に使用された標本を発見し、レクトタイプに指定しました。これにより、キミノクロガネモチという品種の基準をこの標本が担うことになり、学名の安定性に寄与します。加えて、本研究によって、長らく全容が不明だったコレクションが学界内外の多くの人に注目されることが期待されます。

本研究の成果は、2023年2月20日発行の植物研究雑誌に掲載されます。

見過ごされてきた植物標本コレクションから学術的に貴重な標本を発見左:キミノクロガネモチ(松山市にて、黒田撮影)
右:キミノクロガネモチのレクトタイプ標本(黒田撮影)

研究の背景

愛媛大学農学部森林資源学コースは植物標本の公的保存機関(ハーバリウム)として、「MATSU」のコードネームで、国際的なハーバリウムデータベースであるIndex Herbariorumに登録されています。
ところが、植物分類学を専門とする教職員の不在のためか、MATSUの標本群の収蔵状況は不明でした。この標本群が農学部のある樽味キャンパスから附属演習林に移管されることになり、その機会に調査を実施しました。

その結果、この標本群にはタイプ標本(1)や古い時代の愛媛県産植物など、学術上、非常に貴重な標本が含まれていることが明らかになりました。

研究の結果

この貴重な標本群には、愛媛大学農学部の前身である愛媛県立松山農科大学の教官や職員によって採集され、彼ら自身の研究に利用された標本も含まれていました。その中から、通常は秋季に赤い実をつけるクロガネモチの黄果品種キミノクロガネモチIlex rotunda Thunb. f. xanthocarpa Uyeki & Tokuiの原資料(2)を発見、これをレクトタイプ(3)として指定しました。

用語解説

(1)タイプ標本
種や亜種(植物分類学では種より下のランク、変種や品種を含む)の学名を公表する際(=記載を行う)には、その学名の基準として、特定の標本を指定することが求められます。そういった標本を担名タイプといいます。担名タイプには4種類(ホロタイプ、シンタイプ、レクトタイプ、ネオタイプ)あり、さらに担名タイプに準じて重要な標本(パラタイプ、パラレクトタイプの2種類)も存在しますが、これらの総称として、タイプ標本と呼ぶことがあります。

(2)原資料
国際藻類・菌類・植物命名規約によって、原資料は規定されていますが、今回のケースでは「学名の公表者がその学名の分類群を正式発表するにあたり、準備したか、あるいはその発表以前に学名の公表者が利用することのできた標本や図解」という定義が当てはまります。つまり、キミノクロガネモチのIlex rotunda Thunb. f. xanthocarpa Uyeki & Tokuiという学名は1966年に出版された論文 (Uyeki & Tokui 1966) で初めて提唱されたものであり、それ以前にこの論文の著者の一人によって採集されたキミノクロガネモチと同定された標本は原資料と見なせます。

(3)レクトタイプ
前述の担名タイプの1種。種(亜種、変種や品種も含む)の学名が新たに公表される際、ただ唯一の標本を基準として指定する必要があり、これをホロタイプという。古い時代に公表された学名ではホロタイプが指定されていないケースがあります。この場合、唯一の標本を学名の基準として指定することができ、これをレクトタイプといいます。なぜこの処理が行われるかというと、担名タイプが複数存在する中に複数の種が含まれていた場合、どの学名が正しいのか、新たに検討する必要が出てしまいます。このため、単一の標本を学名の基準としたほうが、好ましいとされます。

論文情報
掲載誌:The Journal of Japnese Botany 植物研究雑誌, 98巻1号 (2023)
題 名: Lectotypification of Ilex rotunda f. xanthocarpa (Aquifoliaceae)
(日本語訳)キミノクロガネモチ(モチノキ科)のレクトタイプ指定
著 者: 黒田啓太,永益英敏,濱口正幹,鍋嶋絵里,配川幸一,武田大作(*第一著者)

本件に関する問い合わせ先

(担当部署)農学部環境昆虫学研究室
(担当者名)黒田啓太

生物工学一般
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