光超音波イメージングで人体の精細な動静脈像を得ることに成功

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腫瘍血管の解析や再建手術への応用に期待

2018-10-25 京都大学

 戸井雅和 医学研究科教授(兼・医学部附属病院教授)、松本純明 医学部附属病院特定助教らの研究グループは、非侵襲で血管を可視化できる光超音波イメージング技術について、異なる2波長の光の照射方法を逐次照射から交互照射に変更することで、より解像度が高く、動脈と静脈が精度良く分離される画像を得ることに成功しました。

本研究成果は、2018年10月8日に、国際学術誌「Scientific Reports」のオンライン版に掲載されました。

研究者からのコメント

異常血管の新生が関与する疾患は、がんや関節リウマチ、皮膚疾患などをはじめ、70以上あると言われていますが、これら新生血管は非常に微小で、これまでの画像技術では描出が困難でした。光超音波イメージングは、無被ばく・非造影でこれらの血管を可視化しうる技術であり、さらに酸素飽和度の指標も合わせて測定できるという特長は、これまでにない血管の機能面での評価を可能にします。

今後は腫瘍の良悪診断や治療効果判定、微小な血管の走行の理解が求められる手術など幅広い応用が期待されます。

概要

光超音波イメージングは、血中のヘモグロビンが光を吸収した後に発する超音波を画像化することで血管を可視化できる非侵襲の生体イメージング技術で、構造および機能の両方の観点から、血管を解析できる技術です。本研究グループではこれまで同技術を使って、乳がんの腫瘍血管が描出できることや薬物療法で画像に変化が見られることを明らかにし、また、手掌の血管を対象に血管の形状解析技術を開発するなど、装置や解析手法の改良を重ねてきました。

本研究では、2波長の光の照射方法を逐次照射から交互照射に変更することで、異なる波長間での位置ずれが解消され、動脈と静脈が精度良く分離される画像を得ることに成功しました。乳房では、従来の超音波画像を同じ座標軸で同時取得し、その2次元画像を積分することで3次元の超音波画像を生成、光超音波による3次元血管像と重ね合わせることができます(図参照)。本研究成果により、腫瘍血管の形状や酸素飽和度について、今後さらなる詳細な解析が期待されます。また、乳房以外では、四肢の細い穿通枝血管が精細に可視化できることがわかり、形成外科において再建手術の術前マッピングへの活用が期待されます。

光超音波イメージングで人体の精細な動静脈像を得ることに成功図:本研究の光超音波イメージングにより取得された乳がんの腫瘍血管3次元画像(右図の赤の領域は通常の超音波で得られた腫瘍の3次元画像)

詳しい研究内容について

光超音波イメージングで人体の精細な動静脈像を得ることに成功 -腫瘍血管の解析や再建手術への応用に期待-

書誌情報

【DOI】https://doi.org/10.1038/s41598-018-33255-8

【KURENAIアクセスURL】http://hdl.handle.net/2433/234814

Yoshiaki Matsumoto, Yasufumi Asao, Hiroyuki Sekiguchi, Aya Yoshikawa, Tomoko Ishii, Ken-ichi Nagae, Shuichi Kobayashi, Itaru Tsuge, Susumu Saito, Masahiro Takada, Yoshihiro Ishida, Masako Kataoka, Takaki Sakurai, Takayuki Yagi, Kenji Kabashima, Shigehiko Suzuki, Kaori Togashi, Tsuyoshi Shiina & Masakazu Toi (2018). Visualising peripheral arterioles and venules through high-resolution and large-area photoacoustic imaging. Scientific Reports, 8:14930.

 

 

光超音波イメージングで人体の精細な動静脈像を得ることに成功 ―腫瘍血管の解析や再建手術への応用に期待―

概要
光超音波イメージングは、血中のヘモグロビンが光を吸収した後に発する超音波を画像化することで血管を可視化できる非侵襲の生体イメージング技術です。酸化・還元ヘモグロビン各々に対応する異なる波長の光を用いることで、酸素飽和度に対応する指標も算出できます。つまり、構造および機能の両方の観点から、血管を解析できる技術です。
戸井雅和 医学研究科教授(兼・医学部附属病院教授)、松本純明 医学部附属病院特定助教らの研究グルー プではこれまで、乳癌の腫瘍血管が描出できることや薬物療法で画像に変化が見られることを明らかにし、ま た、手掌の血管を対象に血管の形状解析技術を開発するなど、装置や解析手法の改良を重ねてきました。今回、 2波長の光の照射方法を工夫(逐次照射から交互照射に変更)することで、より解像度が高く、動脈と静脈が 精度良く分離される画像が得られるようになりました。乳房では、従来の超音波画像を同じ座標軸で同時取得 し、その2次元画像を積分することで3次元の超音波画像を生成、光超音波による 3 次元血管像と重ね合わせ ることができます。今後は腫瘍血管の形状や酸素飽和度について、詳細な解析を行う予定です。乳房以外では、 四肢の細い穿通枝血管が精細に可視化できることがわかり、形成外科において再建手術の術前マッピングへの 活用が期待されます。
本成果は、2018 年 10 月 8 日に国際学術誌「Scientific Reports」誌にオンライン掲載されました。

1.背景
血管の異常が関与する疾患は70以上あると言われています。しかしながら、これまで血管を詳細に調べる には、造影剤の使用が必須であり、放射線被ばくを伴う検査がほとんどでした。しかしながら、小児には被ば くの影響は大きく、アレルギーや腎臓機能の低下などで造影剤が使用できない患者さんも少なからずおられま す。そのような状況で、無被ばく非造影で精細な血管画像が得られる技術が求められていました。

2.研究手法・成果
本研究グループはこれまで、光超音波装置に改良を重ね、今回で第4世代の装置になります。正常乳腺組織、 腫瘤のある乳腺組織、手掌や大腿部などの血管像を取得しました。これまでの装置でも精細な血管画像は得ら れていましたが、光超音波技術のもう一つの特長である酸素飽和度指標が位置ずれによって正確に算出できな いという問題がありました。第4世代ではレーザーの照射方法を逐次照射から交互照射に変更することで、異 なる波長間での位置ずれが解消され、動脈と静脈がはっきり区別できるまでになりました。

3.波及効果、今後の予定
今回の成果により、血管の構造と機能の両面から血管が関与する様々な疾患の病態解明や薬物による治療効 果の判定などに応用されることが期待されます。

4.研究プロジェクトについて
本研究は、内閣府の革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)の「イノベーティブな可視化技術による新 成長産業の創出」(八木隆行プロジェクトマネージャー)の支援を受けて行われました。

<論文タイトルと著者>
タイトル :

Visualising peripheral arterioles and venules through high-resolution  and large-area photoacoustic imaging(高解像度かつ広域の光超音波イメージングによる末梢動静脈の可視化)
著  者 :
松本 純明、 浅尾 恭史、 関口 博之、 吉川 彩、石井 智子、 長永 兼一、小林 秀一、 津下 到、 齊藤 晋、高田 正泰、 石田 雄大、 片岡 正子、 櫻井 孝規、八木 隆行、椛島 健治、鈴木 茂彦、 富樫 かおり、椎名 毅、戸井 雅和
掲 載 誌:
Scientific Reports DOI:10.1038/s41598-018-33255-8

医療・健康
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