バクテリアにおける多コピーゲノムの複製制御と意義

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2019-06-03 国立遺伝学研究所

Coordination of polyploid chromosome replication with cell size and growth in a cyanobacterium.

Ryudo Ohbayashi, Ai Nakamachi, Tetsuhiro Hatakeyama, Yu Kanesaki, Satoru Watanabe, Taku Chibazakura, Hirofumi Yoshikawa, and Shin-ya Miyagishima

mBio 10(2), e00510-19 DOI:10.1128/mBio.00510-19

ゲノムの倍数化は原核、真核生物問わず、全ての生物において共通して見られる現象です。大腸菌のようなモデル原核生物は1細胞あたり1コピーの環状染色体をもつ1倍体ですが、原核生物の複数の系統において1細胞あたり複数コピーの染色体をもつ倍数体生物の存在が知られています。また倍数性の原核生物の多くが、高温条件下など高ストレス環境に生息しています。倍数性生物において、染色体コピー数と細胞サイズに正の相関関係があることが知られていましたが、多コピー存在する染色体の複製がどの様に制御されているのか、複数コピーのゲノムを維持することによってもたらされるメリットは不明でした。

今回私たちは1細胞あたり複数コピーの染色体を保持するシアノバクテリア(光合成を行うバクテリア)の一種(Synechococcus elongatus; 1細胞当たり3-6コピー)を用いて細胞成長速度と染色体複製の関係を解析しました。その結果、複数存在する染色体のすべてが同時に複製されることは無く(図1)、成長速度に応じて一度に複製される染色体の数が変化することがわかりました。またDnaAという複製開始因子の活性調節によって複製される染色体数が制御されていることも明らかとなりました。さらに、DnaAを改変して人為的に細胞当たりの染色体コピー数を増加させるさせたところ、UVへの耐性が上昇することもわかりました。

以上のことから、複製する染色体のコピー数を細胞成長速度にあわせて変化させることで、細胞体積あたりの染色体数(遺伝子コピー数)を一定に保つことができること(図2)、複数コピーの染色体は、UV及び光合成酸化ストレスなどによりダメージを受けたゲノムコピーの修復のためのバックアップ情報として機能していることが示唆されます。

Figure1

図1:シアノバクテリア(S. elongatus)の染色体(SYBR Green染色;1細胞あたり3-6コピーの染色体)とSSB-GFP(複製中の染色体)、RNAポリメラーゼ(転写中の染色体)の細胞内局在。遺伝子発現はすべての染色体コピーから行われるが、複製は1コピーずつ行われる

Figure1

図2:細胞成長に伴う、1細胞あたりの遺伝子コピー数と細胞体積あたりのmRNAレベルの変化。細胞の成長速度に合わせて染色体コピー数が増加することにより、細胞体積当たりの遺伝子コピー数とmRNA量がほぼ一定に保たれる。

細胞遺伝子工学生物化学工学
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