指定難病IgG4関連疾患とHLA-DRB1、FRGR2B遺伝子との関連を解明

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疾患の感受性遺伝子を網羅的に探索

2019-09-11 京都大学

松田文彦 医学研究科教授、寺尾知可史 同助教(現・理化学研究所チームリーダー)、千葉勉 同教授(現・関西電力病院長)、岡崎和一 関西医科大学教授らの研究グループは、全国50の医療機関と共同で、国際診断基準を満たす患者857例のDNAを用いて全ゲノム関連解析を行い、HLA-DRB1遺伝子とFCGR2B遺伝子に指定難病IgG4関連疾患(IgG4-RD)と有意な関連を見出しました。
また、HLA-DRB1タンパク質の抗原を提示するGβドメインの7番目のアミノ酸が発症しやすさに関連することもわかりました。さらに、FCGR2B遺伝子の変異は、炎症で腫れの出る臓器の数や診断時の血中のIgG4の濃度と関連することも示されました。
本研究成果は、IgG4-RDの高リスク群の予測、診断や治療法や薬の開発に大いに役立つことが期待されます。
本研究成果は、2019年8月6日に、国際学術誌「The Lancet Rheumatology」のオンライン版に掲載されました。

指定難病IgG4関連疾患とHLA-DRB1、FRGR2B遺伝子との関連を解明

図:左:全ゲノム関連解析の結果。右:HLAタンパクの立体構造とアミノ酸残基DRB1-GB-7の位置。

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1016/S2665-9913(19)30006-2

Chikashi Terao, Masao Ota, Takeshi Iwasaki, Masahiro Shiokawa, Shuji Kawaguchi, Katsutoshi Kuriyama, Takahisa Kawaguchi, Yuzo Kodama, Izumi Yamaguchi, Kazushige Uchida, Koichiro Higasa, Motohisa Yamamoto, Kensuke Kubota, Shujiro Yazumi, Kenji Hirano, Yasufumi Masaki, Hiroyuki Maguchi, Tomoki Origuchi, Shoko Matsui, Takahiro Nakazawa, Hideyuki Shiomi, Terumi Kamisawa, Osamu Hasebe, Eisuke Iwasaki, Kazuo Inui, Yoshiya Tanaka, Koh-ichi Ohshima, Takashi Akamizu, Shigeo Nakamura, Seiji Nakamura, Takako Saeki, Hisanori Umehara, Tooru Shimosegawa, Nobumasa Mizuno, Mitsuhiro Kawano, Atsushi Azumi, Hiroki Takahashi, Tsuneyo Mimori, Yoichiro Kamatani, Kazuichi Okazaki, Tsutomu Chiba, Shigeyuki Kawa, Fumihiko Matsuda, on behalf of the Japanese IgG4-Related Disease Working Consortium (2019). IgG4-related disease in the Japanese population: a genome-wide association study. The Lancet Rheumatology, 1(1), e14-e22.

詳しい研究内容について

指定難病 IgG4 関連疾患と HLA -DRB1、FRGR2B 遺伝子との関連を解明
―疾患の感受性遺伝子を網羅的に探索―

概要
IgG4 関連疾患(IgG4-RD)は 2015 年度に指定難病になった免疫系の希少難病ですが、発見から診断基準制 定まで常に日本が世界をリードしてきました。患者により異なる臓器に症状が出るため、自己免疫性膵炎、ミ クリッツ病など異なる 20 以上の病気として報告されてきましたが、自己免疫性膵炎で血中の IgG4 が上がる という日本からの報告を契機として、これらをまとめた新しい疾患概念が日本から提唱されました。患者ごと に病態が異なるため治療法は異なり、今後さらなる研究の必要な疾患です。
京都大学大学院医学研究科 松田文彦 教授、寺尾知可史 同助教(研究当時、現:理化学研究所チームリー ダー)、千葉勉 同教授(研究当時、現:関西電力病院長)、関西医科大学 岡崎和一 教授ら全国の 50 医療機関 からなる研究グループは、国際診断基準を満たす患者 857 例の DNA を用いて全ゲノム関連解析を行い、HLADRB1 遺伝子と FCGR2B 遺伝子に本疾患と有意な関連を見出しました。また、HLA-DRB1 タンパク質の抗原 を提示する Gβドメインの 7 番目のアミノ酸が発症しやすさに関連することもわかりました。さらに、FCGR2B 遺伝子の変異は、炎症で腫れの出る臓器の数や診断時の血中の IgG4 の濃度と関連することも示されました。 本研究結果は、IgG4-RD の高リスク群の予測、診断や治療法や薬の開発に大いに役立つことが期待されます。
本研究成果は 2019 年 8 月 6 日に英国の国際学術誌「The Lancet Rheumatology」にオンライン掲載され ました。

左:全ゲノム関連解析の結果。染色体 1 番の FCGR2B 遺伝子座と染色体 6 番の HLA 遺伝子座に強い関連シグナルが検出 された。右:HLA タンパクの立体構造と、今回発見された IgG4-RD と強い関連を示したアミノ酸残基 DRB1-GB-7 の位 置。

1.背景
IgG4 関連疾患(IgG4-RD)は、膵臓(自己免疫性膵炎)、胆管(IgG4 関連硬化性胆管炎)、涙腺・唾液腺(IgG4 関連涙腺・唾液腺病変、いわゆるミクリッツ病)、腎(IgG4 関連腎臓病)、後腹膜腔(IgG4 関連後腹膜線維症)、 肺(IgG4 関連呼吸器病変)、動脈(IgG4 関連動脈周囲病変)など全身臓器の腫大や肥厚と血中 IgG4 濃度の増 加に加え、病理組織学的に著しい IgG4 形質細胞浸潤、線維化、閉塞性静脈炎などを認める特異な疾患群です。 2001 年我が国の研究グループによる自己免疫性膵炎での高 IgG4 血症の報告を契機として疾患の統合・再分 類が進み、2011 年に我が国から「疾患名統一」と「包括診断基準」が提唱され、国際的に承認されました。本 疾患の治療はステロイドが有効であることは多いのですが、各臓器疾患からなる全身疾患であり多彩な病変を 認めるため、治療適応や治療法は異なります。2012 年以降、厚生労働省の「IgG4 関連疾患に関する調査研究 班」、「IgG4 関連疾患の診断基準並びに治療指針の確立を目指した研究班」では、各関連学会とも連携し、数多 くの診療科の専門家による 7 分科会を設置し、各臓器疾患の実態調査や診断基準、重症度分類の策定作業を行 ってきました。さらに、2014 年と 2017 年には、日米の研究者が共同で国際的な治療指針や鑑別診断法の策定 を行いました。
IgG4-RD は、2015 年度の難病の法律改定に伴い指定難病になりました。しかし、指定難病の認定要件はか なり厳しく、臨床調査個人表が認められている患者はごく一部と考えられ、現状では IgG4 関連疾患全体の疫 学情報の把握は困難で、我が国における正確な患者数の把握もできていません。また様々な疾患が集まった概 念のため、概念自体も変遷しており、動脈、消化管、内分泌疾患など新領域疾患も明らかにされつつあります が、前述のとおり IgG4-RD は多くの症例で複数臓器に病変が及ぶ全身疾患であり、現在までは個々の該当科 において調査、研究がなされてきたため、IgG4-RD の疾患情報が集約できていません。
IgG4-RD の遺伝因子の探索は、候補遺伝子を限定した過去の解析で、HLA 遺伝子、FCRL3 遺伝子、CTLA4 遺伝子および KCNA3 遺伝子が疾患関連遺伝子として報告されています。しかし希少疾患であることに加え、 診断が困難であるため、いずれの研究においても使用された検体数は少なく、検体選択のバイアスで結果が過 大評価されている可能性も残っています。また、網羅的ゲノム解析は日本人、西洋人でも現在までに行われて いません。

2.研究手法・成果
本研究グループは、日本全国の IgG4-RD 専門医の属する 50 の研究・医療機関からなる多施設共同研究を組 織し、IgG4 関連疾患患者の臨床情報を集積したデータベースを構築しました。加えて、国際診断基準を満た す患者 857 例の DNA 検体を収集しました。対照群としては、ながはまコホートの参加者の地域住民 2,082 名 の DNA 検体を用いました。IgG4-RD は希少疾患であり、独立検体群による再現性の検証が困難であるため、 患者検体採取時で2つのセットに分けて解析し、最終的にそれらを統合しました。ゲノム上の 95 万 8,440 箇 所の一塩基変異(SNV)の頻度分布を患者と対照群で比較して関連解析を実施したところ、染色体 6 番の HLA 遺伝子座(rs615698 で p=1.1×10-11)と染色体 1 番の FCGR 遺伝子座(rs1340976 で p=2.0×10-8 )に有意な関 連が検出されました。これらの領域の詳細な解析から、HLA 遺伝子座では、HLA-DRB1 遺伝子が、FCGR 遺 伝子座では、FCGR2B 遺伝子が疾患と関連することが明らかになりました。
HLA 遺伝子については、患者と対照群の一人ひとりの持つ 6 種類の HLA 遺伝子(HLA-A、-B、-C、-DPB1、 -DQB1、-DRB1)の対立遺伝子(アレル)をこの領域のタイピング結果から推定し、患者と対照群での頻度の 比較を行ったところ、HLA-DRB1*04:06 が疾患感受性を、HLA-DRB1*09:01HLA-DQB1*03:03 が疾患抵抗 性を持つことが明らかになりました。HLA は抗原提示に関わる分子であるため、HLA タンパクのどの部位の アミノ酸残基が疾患感受性・抵抗性を決めているのかを検討しました。予測された対立遺伝子のアミノ酸配列 をアラインし、N 末端側から一つひとつの場所でアミノ酸残基の種類の分布を患者と対照群で比較しました。 その結果、HLA-DRB1 タンパクの抗原提示部位である Gβドメインの 7 番目のアミノ酸残基(DRB1-GB-7) が疾患の感受性と強く関連する(p=1.7×10-14)ことが明らかになりました。具体的には、DRB1-GB-7 がバリ ンであるとオッズ比が 2.01 倍に、またアスパラギン酸であるとオッズ比が 0.57 倍になることがわかりまし た。DRB1-GB-7 を持つ HLA-DRB1 アレルは HLA-DRB1*04:06 のほかに HLA-DRB1*04:03、HLA-DRB1*04:05、 HLA-DRB1*04:10 があり、こういったアレルを持つ人は IgG4-RD を発症しやすい可能性があることが示され ました。興味深いことに、DRB1-GB-7 は関節リウマチや全身性エリテマトーデス(SLE)とも関連するが、 SLE においてバリンは IgG4-RD と逆で疾患抵抗性を示すことが報告されています。
FCGR2B は、複数の FCGR タンパクの中で、唯一 B リンパ球で発現し、抑制的なシグナルを伝達します。 FCGR2B 遺伝子は、SLE の主な感受性遺伝子として知られています。今回の研究で同定された rs1340976 は、 SLE の疾患感受性と関連する SNV の rs1050501 と強い連鎖不平衡の関係にありましたが、SLE では C ヌク レオチドが疾患感受性を示しますが、IgG4-RD では逆のアレルの T が疾患感受性を示しました。さらに、 rs1340976 は FCGR2B 遺伝子の発現と強い相関があり、また炎症で腫張を認める臓器の数や診断時の血中 IgG4 濃度とも関連することが示されました。
以上をまとめると、IgG4-RD は、HLA-DRB1 遺伝子と FCGR2B 遺伝子が主な感受性遺伝子であることが明 らかになりました。この 2 つの遺伝子は、SLE においても主たる感受性遺伝子ですが、その疾患に対する影響 は逆向きであることがわかりました。これらの遺伝子がどのように疾患発症、病態や重症度に関わるか今後の 研究によって明らかになると期待されます。

3.波及効果、今後の予定
IgG4-RD は我が国から提唱された疾患概念であり、IgG4-RD と関連する遺伝因子を今回の研究で我が国が 世界に先駆けて解明したことは極めて意義深く、今後も世界をリードするような研究成果を発信していきたい と考えています。
IgG4-RD の病因・病態の解明、診断・治療・予防法の開発を推進するためには、患者の臨床・ゲノム情報を 集約して統合的解析をすることが不可欠です。現在AMEDで進められている難病プラットフォーム事業では、 IgG4-RD の患者レジストリ構築が進んでおり、患者背景、生活環境、生活状況、IgG4-RD の症状及び治療歴 等を長期間追跡調査することを通じて、疾患の自然歴が解明され、病態の理解や治療法開発がさらに促進され ると期待しています。
今回の研究で明らかになった 2 つの遺伝子では疾患の一部しか説明できないことから、さらに大規模なゲノ ム解析を行う必要があり、また次世代シークエンサーを用いた全ゲノム塩基配列の解析による稀な遺伝子変異 の集積の解析や、患者の血液中の代謝物やタンパク質、脂質の網羅的測定による、疾患の発症や重症度、予後 に関連するバイオマーカーの探索を引き続き行っています。

4.研究プロジェクトについて
本研究は、厚生労働省難治性疾患政策研究事業、同実用化研究事業、AMED 難治性疾患実用化研究事業(遺 伝子解析拠点、オミックス解析拠点)、文部科学省スーパーグローバル大学創生支援事業などの支援を受けて 行われました。

<研究者のコメント>
難病のゲノム医学研究は、患者数が少ないために十分な検出力が得られない、再現性検証が困難であるなど の不利な点が多々ありますが、一方で、糖尿病、高血圧、などの頻度の高い多因子型疾患と比較して関連遺伝 子の数は少ないが一つひとつの遺伝子の影響が大きいこと、遺伝子がわかれば治療法や創薬に繋がりやすいこ となど、より短期間で研究成果の患者への還元が期待できる可能性の高い疾患です。ゲノム解析の技術を駆使 した疾患関連遺伝子の探索がスムーズに行えるような研究インフラの整備が不可欠であり、難病プラットフォ ーム事業やクリニカルイノベーションネットワーク事業などと積極的に連携しながら研究を推進する予定で す。

<論文タイトルと著者>
タイトル:IgG4-related disease in the Japanese population: a genome-wide association study(日本人にお ける IgG4 関連疾患:全ゲノム関連解析)
著 者:Chikashi Terao, Masao Ota, Takeshi Iwasaki, Masahiro Shiokawa, Shuji Kawaguchi, Katsutoshi Kuriyama, Takahisa Kawaguchi, Yuzo Kodama, Izumi Yamaguchi, Kazushige Uchida, Koichiro Higasa, Motohisa Yamamoto, Kensuke Kubota, Shujiro Yazumi, Kenji Hirano, Yasufumi Masaki, Hiroyuki Maguchi, Tomoki Origuchi, Shoko Matsui, Takahiro Nakazawa, Hideyuki Shiomi, Terumi Kamisawa, Osamu Hasebe, Eisuke Iwasaki, Kazuo Inui, Yoshiya Tanaka, Koh-ichi Ohshima, Takashi Akamizu, Shigeo Nakamura, Seiji Nakamura, Takako Saeki, Hisanori Umehara, Tooru Shimosegawa, Nobumasa Mizuno, Mitsuhiro Kawano, Atsushi Azumi, Hiroki Takahashi, Tsuneyo Mimori, Yoichiro Kamatani, Kazuichi Okazaki, Tsutomu Chiba, Shigeyuki Kawa, Fumihiko Matsuda, on behalf of the Japanese IgG4-Related Disease Working Consortium*
掲 載 誌: The Lancet Rheumatology Published Online August 6, 2019 http://dx.doi.org/10.1016/ S2665- 9913(19)30006-2

医療・健康細胞遺伝子工学
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