二重らせん構造のDNAを一本鎖にし、コンパクトに丸めてスマートナノマシンの中に封入する技術を世界で初めて確立
2019-10-31 量子科学技術研究開発機構
発表のポイント
- 世界初!一本鎖DNAの静脈注射による膵臓がん遺伝子治療をマウスで実証。
- 治療の妨げとなっていた膵臓がん間質を突破し、がん細胞に送り込んだ遺伝子を機能させることに成功。
- アデノ随伴ウィルス (AAV)を用いた遺伝子注入法とは異なり、搭載遺伝子のサイズが制限されない手法を開発。遺伝子治療を新たなステージに導く可能性。
公益財団法人川崎市産業振興財団 ナノ医療イノベーションセンター(略称:iCONM)の片岡一則iCONMセンター長、Theofilus A. Tockary研究員らは、国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(理事長:平野俊夫、略称:QST)量子生命科学領域 量子制御MRIグループの長田健介主任研究員らとの共同研究により、二重らせん構造のDNAを一本鎖にし、コンパクトに丸めてスマートナノマシンの中に封入する技術を世界で初めて確立しました。その成果は、インパクトファクター 13.9 を誇る世界的にも名高いACS Nano に掲載されました。この技術を用いて、細胞毒性が強く抗がん剤として臨床でも使われる5-フルオロウラシル (5-FU) をその前駆体 5-フルオロシチジン (5-FC) から合成する酵素の一本鎖DNAをコンパクトに丸めてナノマシンに搭載。その静脈注射でマウスのすい臓がんでの有効性が認められたことは、小さく丸めた一本鎖DNAでも、がん細胞内で機能が十分発現し、細胞毒性の強い5-FUを産生することを実証するものです。すい臓がんを含む難治性がんでは間質がバリアとなって、がん組織深部への遺伝子送達が容易ではありません。本発明により、難治性がんでの新たな治療法が進むことが期待できます。また、一般的に遺伝子治療で使うウイルスベクターは搭載できる遺伝子のサイズに制限がありますが、ナノマシンを応用したこの技術はこれまで不可能とされていたサイズのDNAを搭載することが可能で、遺伝子治療の幅が大きく拡がることになります。
尚、本研究は、文部科学省・科学技術振興財団「センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム」「さきがけ」および日本学術振興会「科学研究費助成事業」「研究拠点形成事業」のご支援のもと、量子科学技術研究機構と共同で実施されたものです。