独自のマイクロRNA検出技術を使った健康診断などの簡便な血液検査によるがんの早期診断の実用化に向けて
2019-12-17 株式会社東芝,日本医療研究開発機構
がんは1981年以降、長らく日本人の死亡原因の1位注1を占めています。2018年のがんによる死亡者数は約37万人、生涯でがんに罹患する確率は男性62%、女性47%に上ります注2。一方、治療法の進歩により、がんは早期に発見することができれば、生存率が著しく向上します。例えば肺がんの場合、ステージIIの5年生存率は約60%ですが、ステージ0では97%です注3。早期発見により死亡率を減少させることは社会的に重要な課題です。
こうした課題の解決に向け、近年、簡便かつ高精度にがんを検出する手段として、血液中に約2,500種類あるマイクロRNA注4が注目されています。
株式会社東芝は、血液中のマイクロRNA を使った簡便で高精度ながん検出技術を開発し、独自の電気化学的なマイクロRNAの検出技術を活用することで、すい臓がん、乳がんなど13種類のがん患者と健常者を2時間以内に高精度で網羅的に識別できることを、研究開発レベルで確認しました。本成果は、株式会社東芝と東京医科大学および国立研究開発法人国立がん研究センター研究所の共同研究によるものです。今後、早期の社会実装に向け、株式会社東芝、東京医科大学などとの共同研究により2020年から実証試験を進める予定です。
研究開発のポイント
- 血液中のマイクロRNAを使った簡便で高精度ながん検出技術を開発した。
- 独自の電気化学的なマイクロRNAの検出技術を活用することで、すい臓がん、乳がんなど13種類のがん患者と健常者を2時間以内に高精度で網羅的に識別できることを、研究開発レベルで確認した。
研究概要
本研究では、東京医科大学と国立がん研究センターが有するマイクロRNAに関する高度な医学的知見と、株式会社東芝が開発したマイクロRNAの検出技術を融合することで、13種類のがん患者と健常者を、高精度で網羅的に識別することに成功しました。(図-1)さらに、ステージ0の超早期がんも識別できることを確認しました。また、独自のマイクロRNAチップ注5と専用の小型検査装置を用いることで、検査時間を2時間以内に短縮し、即日検査への適応が可能となります。(図-2)
本成果は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構「次世代治療・診断実現のための創薬基盤技術開発事業(体液中マイクロRNA測定技術基盤開発)」注6に国立がん研究センター(研究開発代表機関)、東京医科大学と株式会社東芝が参画し、マイクロRNAを用いたがん検出技術の開発を推進した結果です。
今回開発したマイクロRNAの検出技術を用いることで、高精度でのがんの早期発見が期待できます。これにより、早期の治療による予後の改善とQOLの向上に貢献することが期待されます。
図-1:13種類のがん患者と健常者の血液中マイクロRNAの測定結果
図-2:今回開発したマイクロRNAの検出技術の検査フロー
注釈
- 注1 がんは日本人の死亡原因の1位
- 平成30 年の死亡数を死因順位別にみると、第1位はがん(悪性新生物<腫瘍>)で37万3547人(死亡率(人口10万対)は300.7)、第2位は心疾患(高血圧性を除く)で20万8210(同167.6)、第3位は老衰で10万9606人(同88.2)、第4位は脳血管疾患で10万8165人(同87.1)。
主な死因の年次推移では、がん(悪性新生物<腫瘍>)は一貫して増加し、1981年以降現在まで死因順位は第1位。
平成30年(2018)人口動態統計月報年計(概数)の概況(厚生労働省) - 注2 2014年全国推計値データに基づく累積罹患リスク
- 最新がん統計(国立がん研究センター)
- 注3 肺癌合同登録委員会 2010年全国肺がん登録のデータに基づく肺がん手術後の5年生存率
- ステージ0:97.0%、ⅠA1:91.6%、ⅠA2:81.4%、ⅠA3:74.8%、ⅠB:71.5%、ⅡA:60.2%、ⅡB:58.1%、ⅢA:50.6%、ⅢB:40.5%、ⅢC:37.5%、ⅣA/B:36.0%
Journal of Thoracic Oncology14, 212-222(2019) - 注4 マイクロRNA
- 体の中で遺伝子やタンパク質を制御している20塩基程度の短い核酸分子で、血液中にも安定に存在していることが知られている。最近、血液中のマイクロRNAの種類と量を調べると、肺がんや乳がんなどの様々ながんを早期に見つけられる可能性のあることが分かり、新しい診断マーカーとして期待されている。
- 注5 マイクロRNAチップ
- 電気化学的な遺伝子検出技術を利用したマイクロRNAを定量検出するためのデバイス。
- 注6 次世代治療・診断実現のための創薬基盤技術開発事業(体液中マイクロRNA測定技術基盤開発)
- 2014~2018年に国立がん研究センターが中核となり行われたプロジェクト。がん早期診断の実現を目指し、血清中のマイクロRNAと13種類のがんとの関係を網羅的に解析した。
学会発表情報
本技術の詳細は、12月3~6日に福岡で開催される「第42回日本分子生物学会年会」にて発表されました。
お問い合わせ先
内容に関するお問い合わせ
株式会社東芝
広報・IR室
小林
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国立研究開発法人日本医療研究開発機構
戦略推進部 医薬品研究課
次世代治療・診断実現のための創薬基盤技術開発事業担当