インフルエンザに罹ると細菌性肺炎を合併しやすくなるメカニズムを解明

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抗ウイルス薬や抗菌薬に代わる治療薬の開発に期待

2021-06-04 大阪大学,日本医療研究開発機構

研究成果のポイント
  • インフルエンザウイルス※1に感染した気道上皮細胞の表層には細菌の定着を促進させるタンパク質が出現することを発見。
  • ウイルス感染が細菌性肺炎※2を助長させるメカニズムは不明であったが、インフルエンザウイルスが感染した気道上皮細胞の表層ではGP96※3という分子シャペロン※4が出現し、肺炎球菌※5がGP96を利用して気道組織に定着しやすくなることを解明。
  • GP96の機能を抑制することによる、肺炎に対する新たな治療法の開発への応用に期待。
概要

大阪大学大学院歯学研究科の住友倫子 講師、川端重忠 教授、鹿児島大学大学院医歯学総合研究科の中田匡宣 教授、金沢大学新学術創成研究機構の岡本成史 教授らの研究グループは、インフルエンザウイルス感染が細菌性肺炎を誘発するメカニズムを明らかにしました。

これまでインフルエンザウイルスに感染すると細菌性肺炎を合併しやすくなることはわかっていましたが、詳細な発症機構は解明されていませんでした。

今回、住友講師らの研究グループは、ウイルスと細菌に重複感染したマウスモデルを利用し、インフルエンザウイルスに感染した気道上皮細胞の表層ではGP96という分子シャペロンが出現し、肺炎球菌などの細菌が肺に定着しやすくなることにより重症肺炎が発症することを解明しました(図1)。GP96を創薬ターゲットにすることにより、薬剤耐性ウイルス株や薬剤耐性菌の出現が問題となっている抗ウイルス薬や抗菌薬に代わる新たな治療法の開発が期待されます。

本研究成果は、米国科学誌「mBio」に、2021年6月2日(水)(日本時間)に公開されました。

インフルエンザに罹ると細菌性肺炎を合併しやすくなるメカニズムを解明
図1.インフルエンザに合併する細菌性肺炎の発症メカニズムインフルエンザウイルスが上気道に感染すると、分子シャペロンであるGP96が細胞表層に誘導される。同時に、GP96のシャペロン機能によりインテグリンの細胞表層での発現量が増加する(STEP1の①)。肺炎球菌は、菌体表層に発現するAliAおよびAliBを介して、細胞表層のGP96やインテグリンに結合し、上気道に定着する(STEP1の②)。その後、上気道への細菌の定着が契機となり、下気道でのGP96の発現量が増加することにより、ウイルスと細菌が下気道に伝播する(STEP2の①、②)。下気道に到達したウイルスと細菌により、肺組織に過剰な炎症応答や出血などが惹き起こされ、重症肺炎の病態が形成される(STEP2の③)。

研究の背景・内容

インフルエンザは冬期に流行するウイルス感染症であり、日本国内だけでも年間1,000万人が罹患し、約1万人が重症肺炎により死亡します。肺炎が重症化する理由の一つとして、鼻咽腔に定着する肺炎球菌による細菌性肺炎の合併が挙げられます。しかし、ウイルス感染が細菌感染を助長させる詳細なメカニズムは解明されていませんでした。

住友講師らの研究グループは、インフルエンザウイルスと肺炎球菌に重複感染したマウスの気道組織では、小胞体(ER)に局在する分子シャペロンであるGP96がウイルス感染に伴い気道上皮の表層での発現が誘導され、細菌の肺への定着が促進されることを発見しました。また、インフルエンザウイルスが感染した細胞では、GP96のシャペロン機能により、インテグリンという細菌の定着を促進させるタンパク質の細胞表層での発現量が増加することも証明されました。肺炎の発症は、GP96抑制剤を経気道投与することにより抑制されたことから、GP96は肺炎の増悪因子であるとともに、有効な治療標的であることが明らかになりました(図1)。

さらに、ウイルスが感染した気道上皮細胞では、細菌の定着が促進されるだけでなく、Snail1※6という転写因子の発現が上昇することにより、上皮バリアの機能が破綻し、肺炎が重症化することも分かりました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、ウイルス感染により誘導されるGP96が有望な肺炎の治療標的であることが示されました。GP96は感染初期に誘導されるストレス応答性のタンパク質であるため、インフルエンザだけでなく、幅広いウイルスや細菌種を原因とする肺炎の発症を制御できる可能性があると期待されます。

特記事項

本研究成果は、2021年6月2日(水)(日本時間)に米国科学誌「mBio」(オンライン)に掲載されました。

タイトル
“GP96 drives exacerbation of secondary bacterial pneumonia following influenza A virus infection”
著者名
Tomoko Sumitomo, Masanobu Nakata, Satoshi Nagase, Yuki Takahara, Mariko Honda-Ogawa, Yasushi Mori, Yukako Akamatsu, Masaya Yamaguchi, Shigefumi Okamoto, and Shigetada Kawabata.

なお、本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)感染症研究革新イニシアティブ(J-PRIDE)と新興・再興感染症研究基盤創生事業(多分野融合研究領域)の支援を受けて行われました。

用語説明
※1 インフルエンザウイルス
ヒトの気道に感染し増殖することにより、冬期に流行する季節性インフルエンザを惹き起こす。特に、A型インフルエンザウイルスは、数年から数十年ごとに世界的な大流行を起こす。
※2 細菌性肺炎
細菌が口や鼻から侵入し、気管支や肺胞に炎症が起きる病気のことである。特に、高齢者では、インフルエンザに合併することが多く、死亡率が高い。原因となる細菌はさまざまであるが、その中でも肺炎球菌によるものが最も多い。
※3 GP96
HSP90ファミリーに属するシャペロンタンパク質であり、Toll様受容体やインテグリンの折りたたみや局在に重要な役割を果たす。通常は小胞体に局在するタンパク質であるが、種々のストレスに応答して細胞表層での発現が誘導される。
※4 分子シャペロン
細胞内でつくられたタンパク質分子が正しく折りたたまれて、適切な場所に移動し、機能することを助けるタンパク質のことをいう。
※5 肺炎球菌
乳幼児は鼻咽腔に高頻度で保菌し、成人でも5%程度に常在する。上気道に感染し、肺炎、中耳炎、副鼻腔炎や髄膜炎を惹き起こす。インフルエンザに合併する細菌性肺炎の主な原因細菌である。
※6 Snail1
E-カドヘリンなどの細胞間接着分子の発現を抑制する転写因子である。上皮間葉転換を惹き起こし、バリア機能や組織の形態形成を制御する。
お問い合わせ先

研究に関する問い合わせ先
大阪大学 大学院歯学研究科 講師 住友倫子(すみともともこ)

AMED事業に関する問い合わせ先
日本医療研究開発機構 疾患基礎研究事業部 疾患基礎研究課

医療・健康
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