「動植物の体のサイズを決める仕組みの理解、ひいては作物収量向上への貢献も」
2021-08-06 東京学芸大学
東京学芸大学大学院修士課程・理科教育専攻・生物学コースの修了生である多部田 弘光(現 東京大学大学院総合文化研究科・博士2年/理研環境資源科学研究センター代謝システム研究チーム・研修生/大学院 連合学校教育学研究科・受託指導学生)、教育学部 初等教育教員養成課程 理科選修・生物学教室卒業生である福田 啓太さん、研究員である郡司 玄博士、元研究員 浅岡 真理子博士(現 神奈川大学特任助教)、自然科学系広域自然科学講座生命科学分野のFERJANI Ali准教授、およびその共同研究者らが、植物の葉器官のサイズ制御の仕組みを証明し、国際誌PLOS Genetics(オンライン版)2021年8月5日(日本時間8月6日午前3:00)付で掲載されました。
【研究の背景及び今回の研究成果の概要】
私たちの体を構成する器官の大きさは厳密に制御されています。植物の葉も例外ではなく、ある一定の大きさになるようにプログラムされています。葉における細胞増殖と細胞成長、ひいてはその結果として生まれる葉サイズは、何らかの未知のシステムによって器官全体で統制されていますが、その仕組みは未だに解明されていません。
今回、東京学芸大学のFerjani Ali准教授、理化学研究所環境資源科学研究センターの瀬尾光範ユニットリーダー、平井優美チームリーダー、東京大学の塚谷裕一教授ら共同研究グループは、何らかの異常により細胞数が減少した際に、細胞サイズが顕著に肥大することで、葉面積が維持されるかのように見える「補償作用」現象に焦点を当てました。これは2002年以来、長いことその仕組みが謎とされてきた難問です。研究グループが独自に単離したモデル植物シロイヌナズナのfugu5変異体は、子葉を構成する細胞の数が野生型に比べておおよそ半減していますが、その結果として、個々の葉肉細胞のサイズが大きくなる「補償的細胞肥大」を起こします。本研究グループはこのfugu5変異体を用いて、補償的細胞肥大がどのように起こるのかを、分子遺伝学的解析を駆使した戦略によって明らかにしました。その結果、fugu5で見られる補償的細胞肥大には、IBAから合成される植物ホルモンであるオーキシンが重要であり、そこでつくられたオーキシンの細胞内シグナル伝達によって細胞サイズの著しい増大が引き起こされていることを、新たに見出しました(図1)。
今回の発見は、1880年にダーウィンが発見した植物成長ホルモンであるオーキシンについて、その内生量の変動が葉面積の精妙な調節にも関与することを新たに示すとともに、オーキシンの濃度調節機構が植物の器官発生に重要であることを証明する画期的なものです。
※ 論文へのリンク(掲載誌)
図1. 補償作用の分子メカニズム。補償的細胞肥大はオーキシンと複数の細胞小器官の協同的な働きによって制御されている。