COVID-19蔓延下で日本の脳卒中入院患者数は減少 感染拡大期及び感染拡大都道府県で減少が顕著

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2022-06-24 国立循環器病研究センター

国立循環器病研究センター(大阪府吹田市,理事長:大津欣也,略称:国循) の豊田一則副院長が分担研究者を務める厚生労働科学研究費補助金「脳卒中の急性期診療提供体制の変革に係る実態把握及び有効性等の検証のための研究」(研究代表者 坂井信幸神戸市立医療センター中央市民病院 脳血管治療研究部長)では、2019年度および2020年度に国内542の一次脳卒中センターにアンケート調査を行い、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)蔓延前後の脳卒中診療実績の変化を調べました。その結果を国循吉本武史医師らが研究論文に纏め、日本脳神経外科学会英文機関誌Neurologia Medico-Chirurgicaに、2022年6月24日付で電子掲載されました。

■背景
COVID‑19は依然として世界中で蔓延しており、国内では2022年4月末までに800万人近くの患者がCOVID-19に感染し、未だ終息の兆しは見えておりません。COVID-19の蔓延は、世界中のあらゆる地域で脳卒中診療体制や診療実績に影響を与えており、国内での動向を全国規模で検討する必要が強く求められました。厚労科研坂井班は日本脳卒中学会の協力を受けて、同学会が認定する一次脳卒中センターの入院診療実績に関する調査を行いました。

■研究成果
全国の一次脳卒中センター974施設のうち6割に及ぶ576施設が、今回の調査に回答しました。このうち情報が充足していた542施設を対象にし、脳卒中及び各脳卒中病型の入院患者数を、COVID-19蔓延前(2019年1月〜12月)とCOVID-19蔓延下(2020年1月〜12月)とで比較しました。全脳卒中入院患者数は、2019年の182,660人から2020年には178,083人と2.5%(95%信頼区間[CI]: 2.4%–2.6%)減少しました(図1)。病型毎に見ると、脳梗塞で1.9%(95%CI: 1.9%–2.0%)、脳出血で3.9%(95%CI: 3.7%–4.1%)、くも膜下出血で4.6%(95%CI: 4.2%–5.0%)減少し、とくに出血性脳卒中である2病型での減少傾向が目立ちました(図2)
2020年のうちとくに感染者数が増加傾向にあった3~5月、7~8月、11~12月の感染拡大期7か月は2019年の同期間に比べて脳卒中入院患者数が5.6%(95% CI: 5.5%-5.7%)と大幅に減少し、逆に残りの5か月間は前年に比べて2.0%増加しました。また人口100万人あたりの累積感染者数が多い上位5都道府県(東京、沖縄、大阪、北海道、神奈川)では、2019年に比べて2020年に脳卒中入院患者数が4.7%も減少していました(図2)

■今後の展望と課題
一般的に感染症を契機に脳卒中は発症し易くなり、とくにCOVID-19は脳梗塞を含む全身の血栓症を起こしやすくすることが知られています。その一方で脳卒中による入院患者数の減少が、世界各地から報告されています。私たちの研究成果も同様で、とくに感染者数が増加した月や都道府県で、減少していました。この原因として、軽症の脳卒中患者は感染リスクを懸念して病院受診を避ける傾向、いわゆる「受診控え」を行った可能性があります。また、感染対策による感染症の減少、社会生活の抑制による飲酒機会の減少、規則正しい生活、安静などにより、脳卒中発症者数そのものが減少した可能性もあります。このように、COVID-19の本来の病態生理よりも、COVID-19蔓延に対する一般市民の行動変容が、脳卒中入院患者数を減少させた可能性が考えられました。更には,国内の大規模脳卒中センターの多くは地域の中核総合病院であることから,COVID-19患者に病床を割くことで相対的に脳卒中患者の受け入れ困難例が増えた、あるいは病院内のクラスターの発生によって入院不能な状態になったことが、入院数減少の一因として挙げられます。2021年には感染者数の激増による病床逼迫が問題となり、2022年初頭には医療者の家庭内感染あるいは家庭内濃厚接触指定により多くの医療者が自宅療養せざるを得なくなり、脳卒中の急性期診療を行う病院とリハビリテーション病院の両方で人的資源が枯渇して十分な病床運用ができず、結果的に脳卒中患者の受け入れ先が見つからない状況も報告されています。
以上のように、COVID-19による脳卒中入院数の減少の原因は多様であり、本研究のみでは解明できない部分もありますが、今後包括的に対策を図る必要があると考えられます。
本研究は、合計で約36万人を対象とした世界的にも極めて大規模な集団における調査で、ウィズコロナの時代における今後の国内脳卒中医療政策を考える上でも重要です。

■発表論文情報
著者:吉本武史(国循),山上宏(責任著者、NHO大阪医療センター),坂井信幸(研究代表者、神戸市立医療センター中央市民病院),豊田一則(国循),橋本洋一郎(熊本市民病院),平野照之(杏林大学),岩間亨(岐阜大学),後藤励(慶応大学),木村和美(日本医科大学),黒田敏(富山大学),松丸祐司(筑波大学),宮本享(京都大学),小笠原邦明(岩手医科大学),岡田靖(NHO九州医療センター),塩川芳明(杏林大学),高木康志(徳島大学),冨永悌二(東北大学),宇野昌明(川崎医科大学),吉村紳一(兵庫医科大学),尾原信行(神戸市立医療センター中央市民病院),今村博敏(神戸市立医療センター中央市民病院),坂井千秋(神戸市立医療センター中央市民病院)
題名:Impact of COVID-19 on the Volume of Acute Stroke Admissions: a Nationwide Survey in Japan
掲載誌: Neurologia medico-chirurgica

■謝辞
本研究は、厚生労働科学研究費補助金 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業「脳卒中の急性期診療提供体制の変革に係る実態把握及び有効性等の検証のための研究」により資金的支援を受け、日本脳卒中学会から「急性期連携医療プロジェクト」として行われました。

図1:年間の脳卒中入院数(A)及び前年との増減率(B)
COVID-19蔓延下で日本の脳卒中入院患者数は減少 感染拡大期及び感染拡大都道府県で減少が顕著

図2: 全脳卒中及び各病型の年間入院数の変化

医療・健康
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