2023-04-10 京都大学
野田岳志 医生物学研究所教授、杉田征彦 同准教授、胡上帆 同博士課程学生、Thomas Hoenen フリードリヒ・レフラー研究所(ドイツ)博士らの国際共同研究グループは、ヨーロッパに広く分布し、エボラウイルスの近縁にあたるリョビュウイルスのウイルス核タンパク質(NP)–RNA複合体の立体構造をクライオ電子顕微鏡解析により明らかにしました。本研究成果から、ヒトに致死的な出血熱を引き起こすフィロウイルスの増殖機構の一端が明らかになりました。
リョビュウイルスは、ヒトに致死的な出血熱を引き起こすエボラウイルスやマールブルクウイルスとともに、フィロウイルス科に分類されます。本ウイルスは、2002年にスペインに生息するコウモリから初めて発見され、2016年にはハンガリーに生息するコウモリでもその存在が確認された、新しいフィロウイルスです。リョビュウイルスがヒトに対して病原性を示すかどうかは未だ不明ですが、エボラウイルスと遺伝的に近いことから、医学・公衆衛生学的に懸念すべきウイルスとして注視されています。
リョビュウイルスのヌクレオカプシドは、ウイルスゲノムRNAの転写・複製を担い、ウイルス増殖の中心的な役割を担います。ヌクレオカプシドは、ゲノムRNAとウイルス核タンパク質(NP)から構成されるコア構造に様々なウイルスタンパク質が結合することで形成されますが、その形成機構の分子構造基盤は不明でした。
本研究グループは、リョビュウイルスのヌクレオカプシドのコア構造であるNP–RNA複合体の立体構造をクライオ電子顕微鏡解析により原子レベルで決定し、その形成に重要な相互作用を同定しました。さらに、エボラウイルスやマールブルクウイルスとの比較解析により、フィロウイルスのヌクレオカプシドのコア構造を形成するメカニズムが、フィロウイルスですべて同じであることを見出しました。本研究成果は、フィロウイルスの増殖機構の解明と、すべてのフィロウイルスに有効な創薬開発に大きく貢献することが期待されます。
本研究成果は、2023年4月6日に、国際学術誌「PNAS Nexus」に掲載されました。
本研究のイメージ図
研究者のコメント
「フィロウイルスのアウトブレイクは中央アフリカや西アフリカで頻繁に発生し、これまでに何万人もの死者を出しています。私たちの研究がフィロウイルス感染症の制御につながる薬剤の開発に役立つことを望んでいます。」(胡上帆)
研究者情報
研究者名:野田 岳志
研究者名:杉田 征彦