マーモセットのiPS細胞から精子幹細胞前駆体の作製に成功 mRNAを利用し効率化。不妊の原因究明や病気の治療法解明の足掛かりに

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2023-09-27 国立成育医療研究センター

国立成育医療研究センター(所在地:東京都世田谷区大蔵、理事長:五十嵐隆)研究所 再生医療センター 細胞医療研究部(センター長:阿久津英憲、部長:梅澤明弘)の渡部聡朗は、佐賀大学医学部の一丸武作志 助教、実験動物中央研究所、ケンブリッジ大学、京都大学、理化学研究所などの共同研究により、霊長類の実験動物であるマーモセットのiPS細胞[1]から精子幹細胞[2]前駆体の作製に成功しました。
ヒトにおけるiPS細胞からの精子・卵子の誘導技術は、不妊の原因究明、生殖医療への応用が期待されています。しかし、次世代への影響なども考えられることから、iPS細胞から作製した精子・卵子を受精させることは規制されています。そのため、この技術の次世代の安全性などを評価する上で同じ霊長類であるサルを使用した研究が参考になります。また、この技術は遺伝子改変サル作製、霊長類における生殖細胞機構の解明にも役立ちます。
本研究では小型霊長類のマーモセットにおいて、iPS細胞から前精原細胞[3](精子幹細胞前駆体)までの発生系の構築に成功しました。今回構築した発生系においては、生殖細胞の遺伝子発現変化などが再現されており、霊長類の生殖細胞発生過程を研究するために役立ちます。本研究は、今後受精可能な精子まで分化させるための基盤技術になると考えられます。
本研究成果は、国際的な学術誌「Stem Cell Reports」に記載されました。
[1]iPS細胞:細胞を培養して人工的に作られた多能性幹細胞のこと。
[2]精子幹細胞:性成熟した成体の精巣に存在して、自己複製と分化をくり返すことで、生涯にわたり精子をつくり続ける細胞のこと。
[3]前精原細胞:オスの胎仔から思春期前の精巣に存在する、始原性生殖細胞から精子幹細胞へ向かって分化をしている生殖細胞のこと。

iPS細胞から前精原細胞の作成過程の図【図:iPS細胞から前精原細胞の作成過程】

プレスリリースのポイント

  • 霊長類のiPS細胞から生殖細胞を発生させる手法は、不妊の原因究明、生殖医療、遺伝子改変サル作製、霊長類の生殖細胞発生機構に対する理解や、ヒトの病気の治療法解明に役立つことが期待されています。
  • ヒトにおいてはiPS細胞から作製した精子・卵子を受精することが規制されているため、ヒトと同じ霊長類であるサルにおける結果は、その安全性などを評価する上で参考となります。
  • 今回の研究では、ブラジル北東部原産の小型のサルで、ヒトと同じ真猿類であるマーモセットのiPS細胞から精子産生系の構築に成功しました。マーモセットは他の霊長類より早く約1年で性成熟を迎えることから、理想的なモデル生物といわれています。
  • mRNA[4]トランスフェクション[5]を利用した始原生殖様細胞(PGCLCs)[6]誘導法を開発し、これまでよりも簡便かつ効率的にPGCLCsを作製することに成功しました。

[4]mRNA:DNAに保持されている遺伝情報(タンパク質の配列情報)をコピーした、たんぱく質を作り出す働きを持つ物質のこと。
[5]トランスフェクション:核酸を動物細胞内へ取り込ませる手法で、特定の遺伝子を細胞に取り込ませて、目的とするたんぱく質を発現させる過程のこと。
[6]始原生殖様細胞(PGCLCs):多能性幹細胞から体外培養で分化誘導した始原生殖細胞とよく似た細胞のこと。

研究概要

  • 第一にmRNAトランスフェクションに基づく始原生殖様細胞(PGCLCs)誘導法を開発しました。始原生殖細胞のマスターレギュレーターであるSOX17遺伝子のmRNAを使用し、PGCLCsを非常に簡便かつこれまで霊長類で報告されていた方法よりも効率的に作製することに成功しました。
  • 第二にマーモセットPGCLCsを免疫不全マウス腎被膜下に移植して前精原細胞(精子幹細胞前駆体)まで発生させることに成功しました。
  • 遺伝子発現やDNAメチル化解析[7]によって、生体内の生殖細胞発生過程(新生児まで)をほぼ忠実に再現していることが明らかになりました。今回開発した手法は霊長類の初期生殖細胞発生の研究に有用なものとなります。

[7]DNAメチル化:DNA上の化学修飾で細胞が遺伝子をON/OFFする仕組みのひとつ。細胞種によってDNAメチル化パターン異なり、DNAメチル化解析によってDNAメチル化パターンを決定できる。

発表論文情報

タイトル:mRNA-based generation of marmoset PGCLCs capable of differentiation into gonocyte-like cells
執筆者:一丸-首浦 武作志1,2、Christopher Penfold3、小島 一晃1,4、Constance Dollet1,4、藪上 春香5、蝉 克憲6、高島 康弘6、Thorsten Boroviak3、川路 英哉7,8、Knut Woltjen6、蓑田 亜希子5,9、佐々木 えりか1、渡部 聡朗1,4*
所属:
1)実験動物中央研究所マーモセット医学生物学研究部
2)佐賀大学医学部分子生命科学講座分子遺伝学エピジェネティクス分野
3)ケンブリッジ大学生理学分野
4)国立成育医療研究センター再生医療研究センター
5)理化学研究所生命医科学研究センターエピゲノム技術開発ユニット
6)京都大学iPS細胞研究所未来生命科学開拓部門
7)東京都医学総合研究所ゲノム医学研究センター
8)理化学研究所生命医科学研究センター予防医療・ゲノミクス応用開発ユニット
9)ラドバウド大学分子生命科学研究所
掲載誌:Stem Cell Reports
DOI:https://doi.org/10.1016/j.stemcr.2023.08.006

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細胞遺伝子工学
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