生殖細胞形成の初期段階で働く遺伝子制御機構~SETDB1タンパク質による生殖細胞形成の制御~

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2018-12-04 東北大学加齢医学研究所,日本医療研究開発機構

発表のポイント
  1. 生殖細胞が胚発生過程で形成される初期段階で必要なタンパク質として、ヒストンメチル化酵素SETDB1を同定しました。
  2. SETDB1はヒストンタンパク質のメチル化により、UTF1等の転写因子*1の遺伝子の発現を阻害し、生殖細胞が前駆細胞*2から形成される際に必要な、BMPシグナル*3関連遺伝子の発現を維持する働きがあることを明らかにしました。
概要

東北大学加齢医学研究所医用細胞資源センターの松居靖久(まついやすひさ)教授は、望月研太郎(もちづきけんたろう)助教(現・ブリティッシュコロンビア大学・研究員)らとともに、マウス生殖細胞が、胚発生の初期に前駆細胞から形成される際に必要なタンパク質としてSETDB1を同定しました。さらにSETDB1は、生殖細胞形成に働くBMPシグナル関連遺伝子の発現の維持に必要なことを明らかにしました。本研究成果は、世代継承を担う生殖細胞の形成を制御する分子ネットワークの解明につながる可能性があります。研究結果は、11月16日にDevelopment電子版に掲載されました。

SETDB1の作用機構
図 SETDB1の作用機構

SETDB1は、ヒストンタンパク質のメチル化(Me)により、転写因子UTF1などの遺伝子発現を前駆細胞で抑制する。UTF1などはPGC形成に必要なBMPシグナル遺伝子の発現を抑制する働きがある。

詳細な説明

生殖細胞は次世代個体の形成を担う唯一の細胞で、命が世代間で受け継がれるために必須な役割を果たします。哺乳動物の生殖細胞は、胚発生の初期段階の着床直後に始原生殖細胞(PGC)として形成されます。そしてこれまでの研究で、PGC形成に必要ないくつかの分子が同定されていますが、詳しい制御機構はよくわかっていませんでした。そこで松居教授らの研究グループはPGC形成を制御する遺伝子のスクリーニングを行い、これまでにヒストン*4脱アセチル化酵素HDAC3が、体細胞の初期分化に関わる体細胞遺伝子の発現を抑制することがPGC形成に必要であることを報告しました*5

さらに今回、このスクリーニングで同定したもう一つの因子であるSETDB1のPGC形成における作用機構を解明しました。まずSETDB1の機能欠損によりPGC形成が阻害されることを明らかにしました。さらにSETDB1がヒストンH3のリジン9のメチル化を介して転写因子UTF1、OTX2、DPPA2の遺伝子発現を抑制するこが判りました。そして、PGCがその前駆細胞から形成される初期段階において働くBMPシグナルに関係する遺伝子の発現を、転写因子UTF1等が抑制することを見いだしました。この研究成果は、命の継続性を担う生殖細胞形成の根本原理の解明につながることが期待できます。

本研究は、東京農業大学(東京都)、東北大学大学院医学系研究科との共同研究で行われました。また本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)「エピゲノム研究に基づく診断・治療へ向けた新技術の創出」研究開発領域における研究開発課題「世代継承を担うエピゲノム制御の解明」(研究開発代表者:松居靖久)ならびに文部科学省科学研究費補助金 新学術領域研究「配偶子産生制御」の一環で行われました。なお、AMED-CRESTにおける本研究開発領域は、平成27年4月の日本医療研究開発機構の発足に伴い、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)より移管されたものです。

用語説明
*1 転写因子:遺伝子のスイッチをオン・オフする働きがあるタンパク質
*2 前駆細胞:細胞分化の前段階にある細胞
*3 BMPシグナル:細胞外から細胞に働きかけるタンパク質である骨形成因子(BMP)により細胞内に伝えられるシグナルのことで、骨形成だけでなく、生殖細胞形成を含む、胚発生の様々な過程で重要な役割を果たしている。
*4 ヒストン:DNAに結合しているタンパク質で、アセチル化やメチル化などにより遺伝子の働きを調節する。
*5Cell Reports 24, 2682–2693 (2018). doi.org/10.1016/j.celrep.2018.07.108
発表論文
掲載誌:Development
論文タイトル:SETDB1 is essential for mouse primordial germ cell fate determination by ensuring BMP signaling.
著者:Mochizuki, K., Tando, Y., Sekinaka, T., Otsuka, K., Hayashi, Y., Kobayashi, H., Kamio, A., Ito-Matsuoka, Y., Takehara, A., Kono, T., Osumi, N., Matsui, Y.
doi:10.1242/dev.164160. [Epub ahead of print]
問い合わせ先
研究に関すること

東北大学加齢医学研究所
教授 松居靖久(まついやすひさ)

AMEDの事業に関すること

国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
基盤研究事業部 研究企画課

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