日本人特有の白血病発症メカニズムの解明へ~バイオバンク・ジャパンデータベースの活用による成果~

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2020-06-25 理化学研究所,東京大学,日本医療研究開発機構,静岡県立総合病院,静岡県立大学

理化学研究所生命医科学研究センターゲノム解析応用研究チームの寺尾知可史チームリーダー(静岡県立総合病院免疫研究部長、静岡県立大学特任教授)、鎌谷洋一郎客員主管研究員(東京大学大学院新領域創成科学研究科教授)らの国際共同研究グループは、血中で後天的なDNA変異を持つ白血球がクローン性に増殖する[1]ことで、生まれながらのDNA配列と変異した配列が混ざって見える現象(体細胞モザイク[2] )を解析し、加齢に伴うDNA変異と体細胞モザイク出現はほぼ不可避であること、体細胞モザイクが白血病をはじめとするがん化メカニズムに影響を与えることを明らかにしました。さらに、体細胞モザイクは全死亡率の10%の上昇と関連することも分かりました。

今回、国際共同研究グループは、日本最大級のDNAデータベースであるバイオバンク・ジャパン(BBJ)[3] の登録者約18万人のDNAマイクロアレイ[4]のデータを解析し、従来、生まれつきの変異の同定にのみ使われてきたデータの中から後天的DNA変異の存在を表す体細胞モザイクを検出しました。そして、体細胞モザイク出現に関連する遺伝的多型[5]を同定し、その分子機構を明らかにしました。また、血液悪性腫瘍では、がん化を反映する変化が発症前の段階から起きていることを見いだしました。さらに、日本人に多い白血病発症に関連する変異を同定し、イギリス人に多い白血病発症に関連する異が日本人にはあまり見られないことも明らかにしました。

今後、これらの知見に加えて、新たに全ゲノムシーケンス解析[6] を行い情報を集約させることにより、日本人に特有の機構を含め、老化やがん化メカニズムのさらなる詳細な解明や、生命予後の予測を可能とする臨床医学の発展につながると期待できます。

本研究は、科学雑誌『Nature』の掲載に先立ち、オンライン版(6月24日付:日本時間6月25日)に掲載されます。

日本人特異的体細胞モザイク(左)と加齢に伴う体細胞モザイク保有割合の上昇(右)

※国際共同研究グループ

理化学研究所

生命医科学研究センター

ゲノム解析応用研究チーム

チームリーダー 寺尾 知可史(てらお ちかし)

(静岡県立総合病院 臨床研究部 免疫研究部長、静岡県立大学 薬学部 ゲノム病態解析講座 特任教授)

客員主管研究員 鎌谷 洋一郎(かまたに よういちろう)

(東京大学 大学院新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻 複雑形質ゲノム解析分野 教授)

客員研究員 秋山 雅人(あきやま まさと)

(九州大学 医学部 眼科 特任講師)

客員研究員 石垣 和慶(いしがき かずよし)

(ハーバード大学 ポスドクフェロー)

自己免疫疾患研究チーム

チームリーダー 山本 一彦(やまもと かずひこ)

副チームリーダー 鈴木 亜香里(すずき あかり)

基盤技術開発研究チーム

チームリーダー 桃沢 幸秀(ももざわ ゆきひで)

統合生命医科学研究センター(研究当時)

副センター長 久保 充明(くぼ みちあき)

東京大学 大学院新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻 クリニカルシークエンス分野

教授 松田 浩一(まつだ こういち)

東京大学 医科学研究所 癌・細胞増殖部門 人癌病因遺伝子分野

教授 村上 善則(むらかみ よしのり)

ブリガムアンドウィミンズ病院 遺伝学分野

助教 ポールー・ロー(Po-Ru Loh)

ハーバード大学

教授 スティーブン・マッカロール (Steven A Maccarroll)

研究支援

本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)のオーダーメイド医療の実現プログラム「疾患関連遺伝子等の探索を効率化するための遺伝子多型情報の高度化(研究開発代表者:久保充明(当時))」の支援のもと行われました。本研究で使用したサンプルは、「オーダーメイド医療の実現プログラム」において収集されたものです。

1.背景   

ヒトの体を構成する細胞は、一つの受精卵が細胞分裂を繰り返してできたもので、細胞分裂のたびにゲノムDNAが複製されます。その過程でDNAに障害が起きることがあり、多くの場合は修復機構が働きますが、なかには後天的なDNA変異として残るものが生じます。悪性腫瘍は、このような後天的DNA変異が生じた結果、先天的な要素と相まって、正常な機能を失った細胞がクローン性に増殖する疾患であることが分かっています。

また、特に悪性腫瘍患者ではない一般的な高齢者の血液中で、特定の遺伝子に後天的DNA変異が生じた、とりわけ異常もないであろう細胞のクローン性増殖がしばしば見られます。以前より、これらの細胞の増殖と、その後の血液悪性腫瘍や心臓疾患発症リスクとの関連が指摘されていました。

一方、後天的DNA変異は、染色体ごとあるいは染色体の幅広い領域で生じることもあります。このような変異のある細胞とない細胞が存在する状態を「体細胞モザイク」と呼びますが、体細胞モザイクの疾病に対する影響については、2018年に英国のUKバイオバンク(UKB)[7]が報告したのみで注1)、詳しいことは分かっていませんでした。さらに、こうした研究の多くは欧州系集団で行われており、非欧州系集団における研究が非常に少ないことが、近年懸念されています注2)。ゲノム配列のパターンは集団により異なるため、日本人集団で後天的DNA変異を調べることは、日本や東アジアにおける疾患の理解や、今後の予防・治療法への応用につながると期待されます。

注1)Loh PR et al,  Insights into clonal haematopoiesis from 8,342 mosaic chromosomal alterations. Nature. 2018 Jul;559(7714):350-355.

注2)Sirugo G et al. The Missing Diversity in Human Genetic Studies. Cell 2019; 177: 26-31

2.研究手法と成果

国際共同研究グループは、現在データ数が最も多い遺伝子データであるDNAマイクロアレイのデータから体細胞モザイクを同定する手法を確立しました。検出できる体細胞モザイクは、次の3種類です(図1)。

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