難治性耳管開放症患者に対する世界初の治療機器「耳管ピン」の承認取得

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医師発の治療機器、富士システムズ株式会社との産学連携で製品化へ

2020-08-03 東北大学病院,仙塩利府病院,富士システムズ株式会社,東北大学病院臨床研究推進センター,日本医療研究開発機構

研究のポイント
  • 産学連携により難治性耳管開放症※1患者に対する治療機器「耳管ピン」を開発し、2017年より多施設共同での医師主導治験※2を実施した。
  • 治験の結果、高い有効性と安全性が確認され、2020年5月29日に製造販売承認を取得した※3
  • 難治性耳管開放症患者に対する治療機器としては世界で初めての製品あり、患者さんの苦痛を軽減することが期待される。
研究概要

これまで効果の継続する治療法のなかった難治性耳管開放症に対する治療機器を産学連携により世界で初めて開発しました。

仙塩利府病院の小林俊光医師(東北大学名誉教授)及び東北大学病院耳鼻咽喉・頭頸部外科の池田怜吉医師らのグループは、富士システムズ株式会社と難治性耳管開放症患者に対する治療機器「耳管ピン」を開発し、医師主導治験により有効性・安全性が認められ、2020年5月29日に製造販売承認を取得しました。

耳管ピンは、難治性耳管開放症の耳管を閉塞させる機器であり、難治性耳管開放症に対する製造販売承認を取得した治療機器としては、世界で初めての製品です。医師主導治験の結果では、80%以上の患者で改善が認められ、高い有効性・安全性を示しました。

本研究開発は、日本医療研究開発機構(AMED)の臨床研究・治験推進研究事業の日本医師会による研究「医師主導治験の実施支援及び推進に関する研究(2017年~2019年)」の支援を受けて実施されました。また、製品化までの工程では橋渡し研究加速ネットワークプログラムとして東北大学病院臨床研究推進センター(CRIETO)のサポートを受けました。

詳細な説明
背景

耳管は、鼓膜の内側にある中耳と鼻の奥を結ぶ細い管です(図1)。通常、耳管は閉じており、鼓膜内に空気をためておくことで、耳から入った音を聞くことができます。また、耳管は一時的に開くことで、鼓膜の内と外の圧力の調整も行います。例えば、飛行機などで急に高い場所へ上った時に、聞こえにくさや耳への痛みを感じることがありますが、これは、鼓膜の内側と外側の空気の圧力が違うために起こります。その際には、ものを飲み込んだり、あくびをしたりすることで一時的に耳管を開き、鼓膜の内側の空気圧を外と同じにすることで、いつも通り音が聞こえるようになります。

図1.鼓膜の内側にある中耳と鼻の奥を結ぶ耳管(赤枠)

耳管開放症は、耳管が閉鎖されず、常に開放した状態の疾患です。開いた耳管を通って内側から自分の声や呼吸の音が聞こえてしまうため、発声・会話の障害になり、聞こえ方も不自然になります。多くは生活指導や生理食塩水を鼻から入れる処置、漢方薬などで対処することができますが、難治性耳管開放症の場合はわずかな効果しか得られず、ほぼ毎日症状が現れるため、多くの苦痛を伴います。特に、接客業の方、講演をする方、歌手の方や教師の方等、声を発することが多い職業の方には非常につらい症状ですが、これまで効果の継続する良い治療方法はありませんでした。

内容

仙塩利府病院の小林俊光(こばやしとしみつ)医師(東北大学名誉教授)、東北大学病院耳鼻咽喉・頭頸部外科の菊地俊晶(きくちとしあき)医師、池田怜吉(いけだりょうきち)医師、東北大学大学院医工学研究科の川瀬哲明(かわせてつあき)教授らのグループは、難治性耳管開放症患者に対する治療方法を考案し、これまでに様々な試験を行ってきました。その中で、耳管開放症患者における最適な形状である耳管ピンを見出しました。

2017年から、小林俊光医師を代表とする難治性耳管開放症患者に対する症状の改善を目的とする世界で初めての多施設共同の医師主導治験を開始しました。この治験では、耳管ピンを使用した82.1%の患者さんに有効性を示し、高い有効性と安全性が確認されました(2019年8月10日Laryngoscope誌電子版、書籍は2020年5月発刊に掲載)。そこで、治験終了後に富士システムズ株式会社から独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)に製造販売承認申請書を提出し、2020年5月29日に製造販売承認を取得しました。

耳管ピンは医師の医療ニーズから発案された製品であり、難治性耳管開放症患者に対する治療機器としては世界で初めての承認であることから、患者さんの苦痛を軽減することが期待されます。

今後、富士システムズ株式会社が厚生労働省に医療保険適用申請を行い販売予定です。

図2.耳管ピンを挿入している際の状況(右耳)

図3.耳管補綴材「耳管ピン」

支援元

本研究開発は、日本医療研究開発機構(AMED)の臨床研究・治験推進研究事業の日本医師会による「医師主導治験の実施支援及び推進に関する研究(2017年~2019年)」の支援を受けて実施されました。また、製品化までの工程は、橋渡し研究加速ネットワークプログラムとして東北大学病院臨床研究推進センター(CRIETO)によってサポートされました。

用語説明
※1 難治性耳管開放症:
強い症状があり、6ヵ月以上の保存的治療(生活指導、生理食塩水を鼻に入れる、漢方薬など)を実施しても改善しない耳管開放症。
※2 多施設共同での医師主導治験:
他の医療機関と共同で治験を進める。医師主導治験では、医師自らが治験を企画・立案し、治験計画届けを提出して治験を実施する。
本治験における協力施設は以下の通り。
研究代表:仙塩利府病院 耳科手術センター(センター長 小林俊光)
東北大学病院 耳鼻咽喉・頭頸部外科(医工学研究科教授 川瀬哲明)
日本大学医学部附属板橋病院 耳鼻咽喉科(教授 大島猛史)
浜松医療センター中耳手術センター(センター長 水田邦博)
※3 製造販売承認:
医薬品医療機器等法に基づき、高度管理医療機器を一般流通するにあたって厚生労働大臣から受けなければならない。
耳管ピンの承認条件は次の通り。
『耳管開放症の診断及び治療に関連する十分な知識・経験を有する医師が、本品の使用方法に関する技能や手技に伴う合併症等の知識を十分に習得した上で、治療に係る体制が整った医療機関において使用目的及び使用方法を遵守して本品を用いるよう、関連学会と連携の上で必要な措置を講ずること。』
論文題目

Efficacy of a silicone plug for patulous eustachian tube: A prospective, multicenter case series.
Ikeda R, Oshima T, Mizuta K, et al.
Laryngoscope. 2020;130(5):1304‐1309.

DOI:10.1002/lary.28229
お問い合わせ先
研究に関すること

仙塩利府病院

製品に関すること

富士システムズ株式会社

取材に関すること

東北大学病院広報室

AMED事業に関すること

日本医療研究開発機構
臨床研究・治験推進研究事業
創薬事業部規制科学推進課

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