コケミオシンに原形質流動を発生させる機能が備わっていることを発見

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2020-08-20 早稲田大学, 基礎生物学研究所,千葉大学

早稲田大学教育・総合科学学術院の富永基樹(とみながもとき)准教授、基礎生物学研究所の上田貴志(うえだたかし)教授、千葉大学の伊藤光二(いとうこうじ)教授らの研究グループは、陸上植物の進化の基部に位置するコケ植物(ゼニゴケ)のモーターたんぱく質※3(=ミオシン)を調べた結果、非常に高い運動機能を備えていることを明らかにしました。さらにコケミオシンの遺伝子を、より複雑に進化した被子植物(シロイヌナズナ)に遺伝子導入したところ、シロイヌナズナミオシンに代わってシロイヌナズナ細胞内で細胞小器官に結合して原形質流動を発生させ、植物体の成長を回復させることが分かりました。すなわち、植物進化の初期段階からミオシンには非常に高い運動機能や細胞小器官結合能など原形質流動を発生できる分子機能が備わっていて、被子植物にまで受け継がれていることが明らかになりました。
なお、原形質流動は植物内の糖や無機塩類の輸送を司り植物成長を規定する重要な因子となっています。したがって、その基本原理の理解は、今後の植物バイオマス増産に不可欠な基盤知識となります。

(1)これまでの研究で分かっていたこと(科学史的・歴史的な背景など)
現在、地上で繁栄している陸上植物は、約4億5千万年前にシャジク藻類との共通祖先が水辺から上陸し、コケ植物→シダ植物→裸子植物→被子植物へと進化多様化した単系統の生物群です(図1、植物の進化)。これら一見動かない植物の細胞内では、原形質流動と呼ばれる動物よりも格段に速い細胞内運動が発生しています。原形質流動は、今から250年前にイタリアの顕微鏡学者であるコルティが、初期の顕微鏡を用いてシャジクモ※4の細胞内を観察し発見されました。
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図1

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◇図1中の用語説明

植物の進化:陸上植物は、約4億5千万年前に共通祖先が水辺から上陸し、コケ植物→シダ植物→裸子植物→被子植物へと進化多様化した単系統の生物群。

ミオシン:シロイヌナズナミオシンは13種類存在し、4種類ほどが原形質流動の発生に関わっている。

シロイヌナズナ細胞内の原形質流動:4種類のシロイヌナズナミオシンをノックアウトした株では、原形質流動が停止する。このノックアウト株にコケのミオシンを遺伝子導入すると原形質流動が回復した。

植物サイズ:4種類のシロイヌナズナミオシンをノックアウトした株では植物体の成長が著しく阻害される。ここにコケのミオシンを遺伝子導入すると植物体の成長が回復した。

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今では、原形質流動は様々な植物の細胞内で発生していることが知られています。植物の原形質流動は、モーターたんぱく質ミオシン(クラス11)が、テイル領域で細胞小器官と結合し、モーター領域を使って、細胞内に張り巡らされたアクチンという繊維状たんぱく質の上を運動することにより発生することが分かっています(図2、3)。
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図2 植物細胞における原形質流動
植物の細胞内では、細胞骨格たんぱく質であるアクチン繊維が張り巡らされている。細胞小器官に結合した植物ミオシンが、方向性を持ってアクチン繊維上を移動することにより、原形質流動と呼ばれる活発な細胞内輸送が発生している。
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図3 植物ミオシンの運動メカニズム
テイル領域で細胞小器官に結合した植物ミオシンは、2つのモーター領域を交互に結合させることであたかも人が歩くようにアクチン繊維上を運動する。
近年、被子植物のモデル植物であるシロイヌナズナ※5のゲノム解析から、ミオシンが13種類存在することが明らかになり、ミオシンの機能が進化・複雑化した植物において予想以上に多様化・複雑化していることが示唆されました。また、それらの遺伝子のいくつかを多重ノックアウトすると(図1、ミオシン)原形質流動が停止する(図1、シロイヌナズナ細胞内の原形質流動)と同時に、成長が著しく阻害されることが明らかになっています(図1、植物サイズ)。
また以前の私たちの研究から、逆にミオシンの速度を人工的に高めると、原形質流動が高速化し植物が大型化することも明らかとなりました。すなわち、原形質流動は植物サイズを規定する重要因子の一つであることが明らかになっています。
◆「植物の大きさを制御する新たな手法を発見」~植物の原形質流動の本質的な役割を解明~
科学技術振興機構 (JST)・理化学研究所・千葉大学
https://www.jst.go.jp/pr/announce/20131112/
◆「バイオディーゼル原料植物の成長促進に成功」~遺伝子融合によるモーターたんぱく質の高速化で実験~
科学技術振興機構 (JST)・早稲田大学・千葉大学
https://www.jst.go.jp/pr/announce/20200616-3/

(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと
植物の原形質流動は、様々な植物で報告されていますが、近年では陸上植物の進化の先端に位置する被子モデル植物シロイヌナズナを用いた研究が主体でした。我々は、陸上植物の進化の基部に位置するコケのミオシンを調べることで、植物ミオシンに特徴的な高い運動機能の獲得や多様化のヒントが得られるのではないかと考えました。

(3)そのために新しく開発した手法
まず、進化の基部に位置するコケ(ゼニゴケ※6)から、ミオシン遺伝子の単離を試み成功しました。被子植物ではミオシン遺伝子が10種類以上存在するのに対し、コケではミオシン遺伝子が1種類しかないことが分かりました。このコケミオシン遺伝子を昆虫の培養細胞で発現させることで、コケミオシンたんぱく質の合成に成功しました。精製したコケミオシンの運動速度を測定すると、シロイヌナズナで原形質流動を発生しているミオシンと同等の速度を発生することが分かりました。このコケミオシンの遺伝子を、シロイヌナズナのミオシン遺伝子多重ノックアウト株(原形質流動が停止し植物サイズが小さくなる)に遺伝子導入したところ、驚くべきことにシロイヌナズナ細胞内で細胞小器官に結合し原形質流動を発生させると共に、成長もある程度回復することが分かりました(図1、4)。今回の私たちの研究から、ミオシンには植物進化の初期段階からすでに原形質流動を発生できる分子機能が備わっており、被子植物にまで受け継がれていることが示されました。
fig4.jpg図4 シロイヌナズナ表皮細胞内で、細胞小器官に結合し運動するゼニゴケミオシンを共焦点レーザー顕微鏡で観察した像。ゼニゴケミオシン遺伝子に蛍光たんぱく質GFPの遺伝子を融合しているため、ゼニゴケミオシンは緑色の蛍光として観察される。(スケールバーは10mm)

(4)研究の波及効果や社会的影響
現在、化石燃料を代替し得る地球温暖化対策の切り札として、植物由来の油脂からバイオディーゼル、糖からバイオエタノールやバイオプラスチックなどを作り出す数々の技術開発が推進されています。そのため、バイオテクノロジーにより単位面積当たりの植物収量を増やす数々の試みが行われています。しかし例えば、光合成を人為的に強化し植物バイオマスの増産を試みたとしても、光合成の場である葉だけに光合成産物が過剰に蓄積し、種子や植物全体での増産効果が得られない事がしばしば報告されます。植物の増産には、糖や無機塩類を植物全体に巡らせる物質輸送の強化や理解が不可欠と考えられます。原形質流動は植物内の輸送を司り、植物成長を規定する重要な因子と考えられています。したがって、その基本原理の理解は、今後の植物バイオマス増産に不可欠な基盤知識となります。

(5)今後の課題
今回の研究から、コケミオシンが、非常に高い運動機能を備えていることが初めて分かりました。しかしながら、実際のコケの細胞内で速くて活発な原形質流動が発生しているという報告はありません。今回の研究でも、コケの仮根細胞を観察しましたが、シロイヌナズナでみられる原形質流動の約1/1,000程度の運動しか見られませんでした。
一方、陸上に上がる前のコケの先祖であるシャジクモでは、シロイヌナズナの10倍以上の速い原形質流動がみられます。コケにおいてミオシンは運動機能を保持していますが、この能力は原形質流動機能にはほとんど使用されておらず、後の被子植物で再び原形質流動に使用するという進化的に非常に興味深い過程をたどっています。原形質流動の真の理解には、今後、コケやシャジクモにおけるミオシンの役割を解明する必要があります。

(6)用語解説
※1 原形質流動
生きている細胞の内部で、原形質(細胞質)が流れるように動く現象のこと。植物では細胞内に張り巡らされたアクチン繊維上を細胞小器官に結合した植物ミオシン※3が運動することにより発生し、様々な植物細胞内で見られます。

※2 ミオシン
モーターたんぱく質の一種。動物、植物を含めて約80クラスが見つかっており、植物には植物特異的なミオシンVIII(クラス8)とミオシンXI(クラス11)の2クラスが存在します。原形質流動は、ミオシンXIの運動により発生していることが知られています。

※3 モーターたんぱく質
ATPの加水分解によって化学エネルギーを運動に変換するたんぱく質のこと。アクチン上を動くミオシン、微小管上を動くキネシンやダイニンが知られています。

※4 シャジクモ
陸上植物の先祖にあたる淡水産の藻類。1つの細胞が10センチ以上に成長することもあり、その原形質流動は高等植物の10倍以上速い。原形質流動を発生しているシャジクモミオシンXIは、生物界最速のモーターたんぱく質として知られています。

※5 シロイヌナズナ
アブラナ科シロイヌナズナ属の一年草。学名はArabidopsis thaliana。育てるのに場所を取らない、発芽から種を付けるまでの期間が短い、ゲノムサイズが小さいなど、遺伝学的な研究を進める点での利点が多く、2000年に植物の中で最初に全ゲノム配列が解読され、モデル植物として広く使われています。

※6 ゼニゴケ
植物の陸上化の基部で分岐したと考えられるコケ植物苔類に属する。学名はMarchantia polymorpha。2017年にゲノム配列が解読され、研究室での培養や遺伝子操作が容易であることから、近年新たなモデル植物として注目されています。

(7)論文情報
雑誌名:The Plant Journal
論文名:Manuscript title: Characterization of ancestral myosin XI from Marchantia polymorpha by heterologous expression in Arabidopsis thaliana.
執筆者名(所属機関名):段中瑞、田中美聡、富永基樹(早稲田大学)
金澤建彦、上田貴志(基礎生物学研究所)
原口武士、田久晶子、伊藤光二(千葉大学)
恵良厚子(東京大学)
掲載URL:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/tpj.14937?af=R
DOI:10.1111/tpj.14937

(8)研究助成
研究費名:JST先端的低炭素化技術開発(ALCA)
研究課題名:原形質流動の人工制御:植物バイオマス増産の基盤技術としての確立
研究代表者名(所属機関名):富永基樹(早稲田大学)

【研究内容に関するお問い合わせ先】
早稲田大学 教育・総合科学学術院
准教授 富永 基樹(とみなが もとき)

千葉大学 大学院理学研究院
教授 伊藤 光ニ(いとう こうじ)

【発信元】
早稲田大学広報室広報課
基礎生物学研究所
千葉大学企画総務部 渉外企画課 広報室

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