世界に先駆けたミトコンドリア病の迅速かつ全自動診断デバイスの開発

ad

2020-10-28 久留米大学,日本医療研究開発機構

研究成果の概要

ミトコンドリア病※1は、ミトコンドリアのエネルギー産生系酵素の遺伝的異常によって引き起こされる希少疾患であり、精神・運動発達の遅れや心不全、糖尿病などの症状を来す、遺伝性進行性難病です。

久留米大学医学部小児科学講座の古賀靖敏教授は、ミトコンドリア病の診断バイオマーカーとしてGDF15※2を発見、国内特許を取得(P6711966)し、その診断精度は感度・特異度98%であることを示しました(Ann Neurology 2015)。その後、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の研究支援を受け、株式会社医学生物学研究所(MBL)と共同で、大病院で使用されている汎用自動分析機器に搭載することでGDF15を測定できる診断薬(LTIAデバイス)を世界に先駆けて開発しましたが、この度、この診断薬開発の研究成果がJournal of Inherited Metabolic Disease(JIMD)に掲載されることになりました。

新たに開発した診断薬を用いた場合、これまでは研究室で検査技師が時間をかけて行っていたGDF15の測定を10分という測定時間(迅速)でしかも全自動で大量の検体が処理可能となり、かつ一検体当たりの測定単価は従来の25%と非常に安価となります。この診断薬によるミトコンドリア病診断の性能は、感度94.0%、特異度91.0%と、これまで研究室での測定に使用してきたELISA製品と同等であり(Ann Neurology 2015)、日本の診断薬としての要件を十分満たすことが検証されました。この技術により、専門医のいない病院においても、ミトコンドリア病を早期発見、早期治療することが可能となります。また、従来、ミトコンドリア病の診断根拠として用いられていた乳酸値の高値は、3歳未満の子どもでは、採血のために腕を駆血したり泣いたりすることで容易に乳酸値が高くなり、それが誤診の原因となっていました。しかしながら、GDF15は駆血の影響を受けず、何度も繰り返し乳酸を測定する必要も無くなるため、患者さんの負担も減ります。GDF15は既にミトコンドリア病を診断する際の重要な検査となっています(Nat Rev Dis Prim doi:10.1038/2016)。この検査法が普及することで、病気の進行を防ぎ、患者の福利厚生ひいては日本の医療費抑制に貢献できると期待されます。

久留米大学医学部小児科学講座の古賀靖敏教授は、MBLと共同で、世界に先駆けてミトコンドリア病の迅速診断薬を開発しました。この研究成果は、Journal of Inherited Metabolic Disease(in press)のオンライン版に掲載されました。

研究成果のポイント

  • この研究成果をもとに、2020年9月28日、MBLからPMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)に診断薬(LTIAデバイス)の製造販売承認申請が行われています。
  • 古賀教授がミトコンドリア病に対する診断の用法特許を取得済みです(P6711966)。
  • 診断薬が承認され、薬価収載となれば、ミトコンドリア病患者の早期診断、治療が可能となります。患者寿命を有意に伸ばし、病状が安定することにより、福利厚生に寄与し、ひいては医療資源の節約に貢献できると考えられます。
  • この診断薬を用いることで、専門医がいない地域でも容易に診断が可能となります。
  • この成果は、AMEDの難治性疾患実用化研究事業において実施してきた研究の集大成です。
    世界に先駆けたミトコンドリア病の迅速かつ全自動診断デバイスの開発

MD患者と神経変性対照および健常対照の患者でELISAキットとLTIAデバイスを使用して測定された血清GDF15濃度のROC分析。 ELISAキットで測定された血清GDF15濃度のROC曲線。 B、LTIAデバイスで測定された血清GDF15濃度のROC曲線。 C、ELISAキットとLTIAデバイス間のGDF15濃度の相関。
(A)と(B)の実線と点線は、それぞれMD対神経変性障害の35人の患者とMD対健常対照の35人の患者に基づくROC曲線を示しています。 (A)と(B)の円と十字は、それぞれMD患者と神経変性対照患者およびMD患者と健常対照者の分析に基づくYoudenインデックスのカットオフに対応する点を示しています。 MD患者と神経変性対照患者およびMD患者と健常対照者のYoudenインデックスは、ELISAでは927.0 pg / mLと476.0pg / mL、LTIAでは689.5 U / mLと6​​93.5U / mLでした。 (C)の実線は相関硬化を表し、点線は95%信頼区間を表します。
ELISA、酵素結合免疫吸着測定法; MD、ミトコンドリア病; LTIA、ラテックス強化比濁イムノアッセイ


論文情報
雑誌名
Journal of Inherited Metabolic Disease(in press)オンライン版
タイトル
A new diagnostic indication device of a biomarker GDF15 for mitochondrial diseases: from laboratory to automated inspection
DOI
10.1002/jimd.12317
著者
Yasutoshi Koga, et al
用語解説
※1 ミトコンドリア病
エネルギー産生系酵素の遺伝的異常によって引き起こされる希少疾患であり、日本では特定難病に指定されている、診断が難しい遺伝性進行性疾患です。
※2 GDF15
GDF15は、細胞が障害された場合に誘導されるTGFβ遺伝子ファミリーに属する生体内活性物質であり、古賀教授の研究グループによりミトコンドリア病の診断バイオマーカーとして初めて報告され、国内特許を取得(P6711966)。本研究は、トランスレーショナルリサーチの成功例として位置づけられます。
お問い合わせ

研究に関すること
久留米大学医学部小児科学講座(教授 古賀靖敏)

AMED事業に関すること
国立研究開発法人日本医療研究開発機構
創薬事業部創薬企画・評価課

医療・健康有機化学・薬学
ad
ad
Follow
ad
タイトルとURLをコピーしました