一定サイズ以上の梗塞巣を呈する発症時刻不明脳梗塞患者に国内用量での静注血栓溶解療法が有望

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2020-12-14 国立循環器病研究センター

国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:小川久雄、略称:国循)の豊田一則 副院長が研究代表者を務める国内研究チームが、医師主導無作為割付試験(治療内容を無作為に割り当てて治療効果を調べる試験)THAWS試験の第二弾の報告として、国内での独自用量(低用量)を用いた静注血栓溶解療法が一定のサイズを超える梗塞巣を呈した発症時刻不明脳梗塞患者への超急性期治療として有効であることを解明しました。本研究成果はStroke誌電子版に令和2年12月10日付で発表されました。

発症時刻不明脳梗塞患者への静注血栓溶解療法(tPA静注療法)

遺伝子組み換えによる組織型プラスミノゲン・アクティベータ(tPA)を用いた静注血栓溶解療法(以下、tPA静注療法)は、発症後4.5時間以内の治療開始が必要なため、睡眠中に発症して朝起床時に症状に気づいたり、言葉のコミュニケーションを取れなくなった状態を他者に発見されるなど、正確な発症時刻が分からない患者には用いることが出来ませんでした。
このような患者の発症時刻を推測する手段の一つに、頭部MRIの拡散強調画像(DWI)とFLAIR画像での早期虚血所見の写り方の差、いわゆる「DWI-FLAIRミスマッチ(あるいはFLAIR陰性)」所見を用いる方法があります。DWIは発症後30分程度の早期虚血所見を同定できますが、FLAIR画像では同定までに数時間(約4―5時間)を要しますので、この同定までの時間差を用いておおよその発症時刻を推測できます。
本年11月9日付のプレスリリース(発症時刻不明脳梗塞患者への高度画像診断基準を用いた静注血栓溶解療法:わが国のTHAWS試験を含めた統合解析、http://www.ncvc.go.jp/pr/release/20201109_press.html)でもご紹介しましたように、THAWS試験を含めた国内外の大型臨床試験を統合解析することで、このような発症時刻不明脳梗塞患者をDWI-FLAIRミスマッチ所見などを用いて適切に試験に登録した場合に、tPA静注療法が有効かつ安全に用いられることが、発表されました(Thomalla G, et al: Lancet 2020)。国循が作成事務局を務めた2019年のtPA静注療法の指針改訂では、一足先にこのような治療法を推奨しています(静注血栓溶解療法 適正治療指針 第三版 2019年3月、https://www.jsts.gr.jp/img/rt-PA03.pdf)。

THAWS試験の概要

THAWS(THrombolysis for Acute Wake-up and unclear-onset Strokes with alteplase at 0.6 mg/kg)試験は、日本医療研究開発機構(AMED)の研究助成を受けて、国循を中心に国内多施設共同で行われ(表1)、主解析論文はStroke誌に掲載されています(Koga M, et al: Stroke 2020;51:1530-8)。DWI-FLAIRミスマッチ所見を有する発症時刻不明脳梗塞患者131名を、国内独自の低用量である0.6mg/kgのtPA(アルテプラーゼ)静注療法群と標準内科治療群に無作為に割り付けて治療90日後の患者自立度を修正ランキン尺度(0[症状なし]から6[死亡]までの7段階の評価尺度)を用いて調べました。完全自立の状態とみなされる同尺度の0または1の割合について試験全体では群間差を示さず、国内用量を用いてこの治療を行うことに、科学的裏付けを得ることが出来ませんでした。
THAWS試験では、近年著しく普及したカテーテル治療としての機械的血栓回収療法を併用できないなどの対象条件のため、軽症の脳梗塞患者に登録が偏りがちでした。そのため、DWIでの早期虚血所見の大きさは中央値2.5mL(四分位値0.5 – 11.5 mL)と相当に小さく、全体の17%が早期虚血所見を全く認めない状態でした。この結果、標準内科治療群においても約半数が90日後に完全自立するという良好な結果を示し、tPA静注療法群がさらなる転帰改善効果を示すにはハードルが高かったと考えられました。

今回のサブ解析の方法と成果

今回行われたTHAWS試験のサブ解析では、早期虚血所見の大きさを定量的に測定、あるいは緊急の臨床現場で多用されるDWI-ASPECTSと呼ばれる11段階の肉眼的半定量尺度で評価し、一定の早期虚血(梗塞)体積を超える患者のみを対象に患者自立度を比較し直しました。DWI-ASPECTSで大脳半球の複数領域に虚血が及ぶことを示す8点以下を呈した47例において、90日後に完全自立した患者はtPA静注療法群の50%、標準内科治療群の11%を占め、相対リスク4.75(95%信頼区間 1.22 – 18.5)とtPA静注療法が有意に良好な結果を示しました(図1)。また定量的測定で早期虚血体積が6.4 mL(ROC解析から算出した閾値、直径23 mmの球体に相当)を超える42例においても、tPA静注療法群(完全自立率38%)が標準内科治療群(6%)よりも転帰良好な傾向を示しました(相対リスク6.15、95%信頼区間 0.87 – 43.6)。

今後の展望と課題

今回の研究結果は、発症時刻不明脳梗塞患者に国内独自用量である0.6 mg/kgのtPAを用いて治療を行うことについての科学的裏付けの一つと考えられます。しかしながら今回は少数例の検討であり、また主解析結果が有意差を示さなかった研究におけるサブ解析結果であることなどを考慮すれば、本治療の妥当性を示すために今後も臨床データの積み重ねが必要です。
THAWS試験の研究グループでは、現在多施設共同観察研究THAWS 2(UMIN-CTR 臨床試験登録 000040408)を行っており、その成果が待たれます。

謝辞

本研究は、下記機関より資金的支援を受け実施されました。
・AMED循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策実用化研究事業「発症時刻不明の急性期脳梗塞に対する適正な血栓溶解療法の推進を目指す研究」

発表論文情報

著者: Kazunori Toyoda, Manabu Inoue, Sohei Yoshimura, et al
題名: MRI-guided thrombolysis (0.6mg/kg) was beneficial for unknown onset stroke above a certain core size: THAWS RCT substudy
掲載誌: Stroke (米国心臓協会・米国脳卒中協会機関誌)

(表1) THAWS試験への患者登録施設

登録症例数施設名
29例国立循環器病研究センター
13例美原記念病院
11例山形市立病院済生館
9例帯広厚生病院
6例広南病院、中村記念病院
5例岐阜大学
4例日本医科大学、秋田県立脳血管研究センター、佐賀大学
3例新潟市民病院、京都第二赤十字病院、東海大学、九州医療センター、
岩手県立中央病院、長崎大学、トヨタ記念病院、大西脳神経外科病院
2例川﨑医科大総合医療センター、徳島大学、聖マリアンナ医科大学、
製鉄記念八幡病院、杏林大学、神戸市立医療センター中央市民病院
1例虎の門病院、兵庫医科大学、順天堂大学浦安病院、聖マリアンナ東横病院

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