新型コロナウイルス感染症拡大後、急性心筋梗塞発症から受診までの時間が長くなり…

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重症合併症の増加につながった可能性について報告

2021-02-10 国立循環器病研究センター

国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:小川久雄、略称:国循)の北原慧(さとし)循環器病専門修練医、藤野雅史 冠疾患科医師、藤田知之 心臓血管外科部門長、野口暉夫 副院長らの研究チームは、2020年4月7日に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大などの事情(COVID-19パンデミック)を踏まえ発令された「緊急事態宣言」以後に当センターに入院された急性心筋梗塞(ST上昇型:後述)の患者が、心筋梗塞発症後から搬送もしくは受診までにかかる時間が、緊急事態宣言以前の患者と比較して、明らかに遅くなっていること、さらに心破裂、心室中隔穿孔、乳頭筋断裂といった重症合併症の割合が増加していることを報告しました。本研究成果は、Open Heart誌に令和3年2月6日付でonline掲載されました。

背景

心臓が全身に血液を送るためのポンプとして収縮を繰り返すには、心臓の筋肉(心筋)を養っている冠動脈の血流が不可欠です。動脈硬化などの原因により冠動脈の血流が不足すると心筋が壊死し、これを心筋梗塞といいます。心筋梗塞は心臓のポンプとしての機能が損なわれ、心不全、致死性不整脈などを合併し、ときに突然死を来たす緊急疾患です。とくにST上昇型心筋梗塞は冠動脈が完全閉塞しており、カテーテル治療により冠動脈の血流を回復させる再灌流療法が患者の予後を改善することが証明されています。冠動脈の閉塞している時間が長ければそれだけ心筋壊死が進行し、心筋壁が貫壁性に壊死するため、心臓が破れる致死的合併症のリスクが高まります。これには心自由壁破裂、心切迫破裂、心室中隔穿孔、乳頭筋断裂があり、機械的合併症と呼ばれています。
我々は、当センター心血管集中治療科、冠疾患科に入院された症例データから、前向き研究である心筋梗塞レジストリを構築しております。今回、緊急事態宣言発令を新型コロナウイルス感染症拡大の深刻化のタイミングと捉え、緊急事態宣言発令の前後での心筋梗塞患者の発症から当院受診までの時間、有効な血行再建の施行割合、機械的合併症の割合の変化を検証するために本研究を行いました。

研究手法と成果

2018年1月1日から2020年8月14日までに当院に入院した心筋梗塞(ST上昇型)の患者422名のデータを解析しました。緊急事態宣言が発令された2020年4月7日より以前に入院されたのは359名、宣言発令以後に入院されたのは63名でした。またPCR検査の体制が整ったあとに入院された56名でPCR検査を行ったところ、すべて陰性でした。解析の結果、心筋梗塞の発症から当院到着までの時間が、宣言以前で2.4時間(中央値)、宣言以後で4.1時間となっており、統計学的に遅れていることがわかりました(図1)。カテーテル治療による恩恵は発症後24時間以降では失われると考えられており、発症後24時間以上経過した来院者の比率は宣言以前で51名(14.2%)、宣言以後で16名(25.4%)でした(図2)。さらに冠動脈の血行再建方法の緊急カテーテル治療(Primary PCI)は宣言以前で296名(82.5%)、宣言以後で43名(68.3%)に行われており、宣言以後でカテーテルによる緊急治療率が低下していました(図3)。
さらに緊急事態宣言の前後で、機械的合併症の割合を比較しました。その結果、宣言以前で13名(3.6%)、宣言後で9名(14.3%)となっており、統計学的に増加していました(図4)。入院期間中にお亡くなりになった方については宣言以前22名(6.2%)、宣言以後4名(6.4%)と違いはありませんでした。

今後の展望と課題

本研究の結果により、新型コロナウイルス感染症の拡大後に、急性心筋梗塞患者の発症から受診までの時間が長くなり、重症合併症の割合の増加につながった可能性が考えられました。受診が遅れることで、緊急カテーテル治療の適応にならない患者さんの割合が増え、重症合併症の増加にもつながった可能性も示唆されます。受診遅延の要因については、今後明らかにしていくことが求められますが、新型コロナウイルス感染症の流行下においても医療の質の維持が望まれており、緊急事態宣言中であっても、重大な疾患が示唆される症状の出現時には適切な医療アクセスを行うよう、引き続き行政や学会と共に、市民への啓蒙に取り組んでいきたいと考えています(※)。

(※)当センターでは、日本循環器学会と協同し、近隣市と連携した心筋梗塞発症時の早期受診に係る市民啓発活動を実施しています。

発表論文情報

著者:北原慧、藤野雅史、藤田知之、野口暉夫、小川久雄ら
題名:The COVID-19 pandemic is associated with mechanical complications in patients with ST-elevation myocardial infarction.
掲載誌:Open Heart

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