データの相互利活用により次世代医療の早期実現へ貢献可能
2021-05-27 岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構,東北大学東北メディカル・メガバンク機構,名古屋大学大学院医学系研究科社会生命科学,国立がん研究センター社会と健康研究センター疫学研究部,慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学教室,愛知県がんセンター研究所がん予防研究分野,日本医療研究開発機構
発表のポイント
岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構(IMM)および東北大学東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)、名古屋大学が事務局をつとめる日本多施設共同コーホート(J-MICC)研究*1、国立がん研究センターがとりまとめる多目的コホート(JPHC)研究*2、慶應・鶴岡メタボロームコホート(TMC)研究*3、愛知県がんセンター病院疫学(HERPACC2,3)研究*4の国内6研究機関は各コホート研究*5で収集した情報を相互利用するための包括的な共同研究の枠組み(国内ゲノムコホート連携)を構築しました。(2021年3月5日契約締結)
この連携により36.6万人規模のゲノムコホートデータを6機関で順次相互利活用することが可能となり、日本人の疾患発症に影響を与える遺伝的素因の解明や、発症リスク予測モデルの構築などのゲノム疫学研究が促進され、一人ひとりの体質に合わせた個別化医療・個別化予防やリスク予測などの次世代医療の早期実現へ貢献することが期待されます。
背景
岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構(IMM、機構長 佐々木真理)は、東日本大震災の復興支援事業である東北メディカル・メガバンク(TMM)計画の一環として、東北大学東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo、機構長 山本雅之)と共同で、文部科学省、復興庁、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED、理事長 三島良直)の支援の下、2013年度から岩手県・宮城県の被災地を中心とした大規模健康調査を行い、地域医療の復興に貢献するとともに、個別化医療等の次世代医療の基盤構築を目指しています。
現在、次世代医療実現に向け、数十万~百万人の大規模ゲノム解析を目指すプロジェクトが世界各国で行われていますが、近年開発されたゲノム情報に基づく疾患発症リスク予測法であるpolygenic risk score(PRS)が異なる民族集団のモデルを用いた場合に精度が低くなること、また構築したモデルの前向きコホートでの検証が重要であることが判明したため、日本人の次世代医療実現には、日本で数十万人規模のゲノムコホート研究を早急に進めることが必要とされていました。
TMM計画のコホート研究では、2016年までに15万人の参加登録を達成しました。その後、現在までに15万人のゲノム解析を実施し、日本における最大級の次世代医療研究の基盤となっていますが、ベースライン調査(2013-2016年度)からの経過年数が浅いため、罹患情報が十分に登録されているとは言い難い状況でした。また、TMM計画以外の日本国内におけるゲノムコホート研究においては、下表のように1機関で数十万人規模のゲノムコホート研究は実施されていませんでした。
TMM計画以外の日本国内のゲノムコホート規模
名称
参加登録数(概数)
日本多施設共同コーホート(J-MICC)研究
10万3千人
多目的コホート(JPHC)研究
14万人(コホートⅠ:6万1千人/コホートⅡ:7万9千人)
慶應・鶴岡メタボロームコホート(TMC)研究
1万1千人
愛知県がんセンター病院疫学(HERPACC2,3)研究
4万8千人
次世代医療の実現には大規模なゲノムデータと罹患情報が必要となること、ゲノム解析や罹患情報の蓄積には時間を要することから、コホート間での包括的な共同研究の枠組みを構築することで、ゲノムデータと罹患情報などを双方十分に蓄積したコホートデータを整え、それらを相互利活用することにより、次世代医療の早期実現を目指すため、IMM、ToMMo、J-MICC、JPHC、TMC、HERPACC2,3の6機関が連携する運びとなりました(2021年3月5日契約締結)。
相互利活用の方法
TMM計画、J-MICC研究、JPHC研究、TMC研究、HERPACC2,3研究のコホート情報(調査票情報や生理機能検査値など)、ゲノムデータをToMMoに設置しているスーパーコンピュータに保管し、個人情報保護に対する十分な配慮がなされた遠隔セキュリティエリア*6を利用します。また、計画された各研究内容は審査のうえで実行され、概要は公開されます(図)。
図 スーパーコンピュータ利用による国内コホートデータの利活用方法
相互利活用される試料・情報の規模と特徴
研究名
人数
特徴
TMM計画
15万人
岩手県、宮城県在住の地域住民から提供された試料・情報。うち約7万人は家系情報のある三世代コホート調査(主に宮城県で実施)をもとにしている。
J-MICC研究
10万3千人
全国13施設で提供を受けた試料・情報。うち約6千人は追跡期間中のがん発症者を含んでいる。
JPHC研究
5万4千人
岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部(旧石川)、葛飾区(旧東京都葛飾)、茨城県水戸(旧笠間)、新潟県長岡(旧柏崎)、高知県中央東(旧土佐山田)、長崎県上五島(旧有川)、沖縄県宮古、の各保健所管内在住の住民から提供された血液試料・情報。
TMC研究
1万1千人
山形県鶴岡市在住・在勤の一般地域住民から提供された試料・情報。
HERPACC2,3研究
4万8千人
2001年~2013年に愛知県がんセンター病院を受診した全初診患者から提供された試料と情報。
今後の展望
今回の連携により、TMM計画、J-MICC研究、JPHC研究、TMC研究、HERPACC2,3研究の研究者がお互いのコホート情報やゲノム情報、罹患情報などを利用可能となることで、双方のゲノム疫学研究が推進され、次世代医療の早期実現へ貢献することが可能となります。
また、この連携は、大規模コホート研究データの相互利活用の方法として草分け的な事例になると考えられ、今後他のコホート研究への波及も期待されます。
用語解説
- *1 日本多施設共同コーホート(J-MICC)研究
- 文部科学省科学研究費 新学術領域研究「コホート・生体試料支援プラットフォーム」の一環として、名古屋大学が中央事務局となり、全国各地の13施設で実施されている研究。主任研究者は名古屋大学医学研究科 若井建志 教授。参加登録は10万3千人程。悪性新生物を主たる対象疾患とした大規模コホート研究として開始し、複数のサブコホートで循環器疾患登録や糖尿病発症に係る調査も実施している。一次調査(2005-2015年度)から時間が経過しており、罹患情報が十分蓄積されている。
URL:http://www.jmicc.com/ - *2 多目的コホート(JPHC)研究
- 国立がん研究センターを中央事務局として実施している研究。主任研究者は国立がん研究センター 津金昌一郎 社会と健康研究センターコホート研究部客員研究員、澤田典絵 コホート研究部地域住民コホート研究室長。研究は1989年末当時40-59歳だった約6万1千人(コホートⅠ)、および、1992年末に当時40-69歳だった約7万9千人(コホートⅡ)の合計約14万人が対象。生活習慣病における予防要因・危険要因を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てることを目的として開始した。
URL:https://epi.ncc.go.jp/jphc/ - *3 慶應・鶴岡メタボロームコホート(TMC)研究
- 慶應義塾大学医学部と同先端生命科学研究所(山形県鶴岡市)により実施されている研究。主任研究者は慶應義塾大学医学部 武林亨 教授。鶴岡市在住・在勤者を対象とした参加登録は2012年~2015年に約1万1千人。収集した全検体に血漿および尿のメタボローム解析を実施し、ゲノム情報、エピゲノム情報を加えた「マルチオミクス解析」を適用することにより、今後の高齢社会での克服が課題となる疾患や機能変化について、個人の体質、生活環境、生活習慣等に即した疫学的知見の構築と予防医療の実現を目指している。
URL:http://tsuruoka-mirai.net/ - *4 愛知県がんセンター病院疫学(HERPACC2,3)研究
- 2001年~2013年に愛知県がんセンター病院を受診した全初診患者を対象に実施された大規模病院疫学研究。主任研究者は愛知県がんセンター研究所 松尾恵太郎 分野長。参加登録は約4万8千人。質問票調査に基づく環境要因、血液検体に基づく遺伝的要因を始めとする生体指標の発がん並びに治療に対する予後の影響の検討並びにバイオマーカー探索をする事を目的としている。遺伝子解析のみならず、病理診断、腫瘍の体細胞遺伝子変異情報を含む詳細な診療情報の研究的利用に関する同意も得られており、がんの個性を踏まえた疫学的知見の構築を目指している。
URL:https://www.pref.aichi.jp/cancer-center/ri/01bumon/04idenshi_iryo/index.html - *5 コホート研究
- ある特定の集団を一定期間にわたって追跡し、生活習慣などの環境要因や遺伝的要因などと疾病発症との関係を解析するための研究。遺伝子型と疾病発症との関係を解析する研究をゲノムコホート研究、未来に向かって調査を進める研究を前向きコホート研究という。TMM計画やJ-MICC研究、JPHC研究、TMC研究、HERPACC2,3研究では前向きゲノムコホート研究を行っている。
- *6 遠隔セキュリティエリア
- ToMMoに置かれたスーパーコンピュータに対して、高いセキュリティを保持して、外部からアクセスするために設けられた管理エリア。入退室が監視カメラ等で記録されるとともに、生体認証等が導入され、シンクライアントを通じた画像転送によってスーパーコンピュータ内の情報を閲覧することができる仕組み。
お問い合わせ先
連携内容に関して
岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構
副機構長 清水 厚志
運用方法(TMMスーパーコンピュータ、遠隔セキュリティエリア)に関して
東北大学東北メディカル・メガバンク機構
ゲノムプラットフォーム連携センター
J-MICC研究に関して
名古屋大学 大学院医学系研究科 総合医学専攻 社会生命科学講座 予防医学分野
教授 若井 建志
JPHC研究に関して
国立がん研究センター 社会と健康研究センター疫学研究部
部長 岩崎 基
TMC研究に関して
慶應義塾大学 医学部 衛生学公衆衛生学
教授 武林 亨
HERPACC研究に関して
愛知県がんセンター研究所 がん予防研究分野
分野長 兼 バイオバンク部門長 松尾 恵太郎
報道に関して
岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構 広報・企画部門
部門長 遠藤 龍人
東北大学東北メディカル・メガバンク機構 広報戦略室
室長 長神 風二
名古屋大学医学部・医学系研究科総務課総務係
国立研究開発法人国立がん研究センター
企画戦略局 広報企画室
慶應義塾大学 信濃町キャンパス総務課
愛知県がんセンター
運用部 経営戦略課
AMED事業に関して
国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ゲノム・データ基盤事業部 ゲノム医療基盤研究開発課