C型肝炎で起こる腸内環境の乱れの原因を解明

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C型肝炎ウイルスの感染は胆汁酸代謝遺伝子発現に異常を起こす

2021-09-06 熊本大学,名古屋市立大学,九州大学,日本医療研究開発機構

研究のポイント
  • 本研究グループは、以前の検討で、病期の異なるC型肝炎患者さんの腸内フローラを解析し、その特徴と体への影響について報告しました。C型肝炎では、病初期からすでに腸内フローラに変化が見られ、病期の進行につれて腸内フローラの乱れ(dysbiosis、注1)が悪化し、ウレアーゼ(注2)遺伝子を持つレンサ球菌が増加していました(Inoue T, Nakayama J and Tanaka Y et al. 2018. Clin Infect Dis)。
  • 今回の研究では、健康な人とC型肝炎患者さんの便に含まれる胆汁酸(注3)のバランスを比較しました。C型肝炎では胆汁酸のバランスも病初期から変化し、胆汁酸の一種・デオキシコール酸が減少していました。この特徴も病期の進行につれて顕著となりましたが、すでに解析が進んでいる非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)(注4)とは逆(NASHではデオキシコール酸が増加)の結果でした。
  • さらにC型肝炎患者さんの肝臓での胆汁酸代謝酵素発現量を調べたところ、健康な人やNASH患者さんとは大きな違いが見られました。
  • 以上のことから、C型肝炎では肝臓での胆汁酸代謝酵素の発現異常が原因となり、腸内環境の乱れが起きていると考えられます。
概要説明

熊本大学大学院生命科学研究部の田中靖人教授、名古屋市立大学大学院医学研究科の井上貴子講師、九州大学大学院農学研究院の中山二郎教授らの研究チームは、C型肝炎で起こる腸内環境の乱れをより詳細に調べるため、代謝物の一種・便中胆汁酸のバランスを解析し、その特徴を調べました。

C型肝炎では腸内フローラ同様に胆汁酸のバランスも病初期から変化し、胆汁酸の一種であるデオキシコール酸が減少していました。また、肝臓での胆汁酸代謝酵素の発現量を調べたところ、C型肝炎では健常状態やNASHとは大きな差が見られました。以上のことから、C型肝炎では肝臓での胆汁酸代謝酵素の発現異常が原因となり、腸内フローラの異常や便中胆汁酸のバランス異常など腸内環境の乱れが生じていると考えられます。これらの結果は、C型肝炎悪化のメカニズムや病態の解明、新薬の開発に道を開く可能性を示しています。本研究の成果は肝臓病学専門雑誌「Liver International(リバー・インターナショナル)」電子版(世界標準時2021年9月5日付)に公開されました。

説明
背景

ヒトの腸内には100兆個以上の細菌が住み、「腸内フローラ」と呼ばれる生態系を構成し、健康維持に関与しています。腸内細菌は私たちの食事や体で作られたものなどを使って、さまざまな代謝物を作ります。その一部は腸から吸収され、血流に乗って全身を巡ります。そのため乱れた腸内フローラで作られる代謝物は、多様な全身疾患に関係していることが報告されています。

近年、C型肝炎の治療は目覚ましく進歩し、飲み薬(直接作用型抗ウイルス薬)の組み合わせでC型肝炎ウイルス(HCV)を排除できるようになりました。C型肝炎の治療として、病期が進んだ非代償性肝硬変(注5)は、高アンモニア血症・浮腫などの合併症への対応も必要となります。腸は血流の順路から肝臓とつながっているため、非代償性肝硬変では高アンモニア血症の予防・治療のために、抗生剤で腸内フローラを改善しようと試みられてきました。

本研究グループは以前の研究で、病期の異なるC型肝炎患者さんの腸内フローラを解析し、その特徴と体への影響について検討しました。C型肝炎では①病初期から腸内フローラに変化が見られ、②病期が進むにつれて腸内フローラを構成する菌種が減り、③口腔内常在菌のレンサ球菌属などが増加して、腸内フローラの乱れ(dysbiosis)となることを報告しました(図1)。さらに、腸管内で増えているレンサ球菌属の細菌は、ウレアーゼ遺伝子を持っていることが分かりました。便は病期の進行につれてアルカリ性の傾向を示し、アンモニアの増加が想定されました。この結果から、C型肝炎では病期の進行につれて腸内フローラが乱れ、腸管内で異常に増殖した細菌がアンモニアを増加させていると予測しました。この成果は米国科学雑誌「Clinical Infectious Diseases(クリニカル・インフェクシャス・ディジーズ)」の電子版に公開されました(Inoue T, Nakayama J and Tanaka Y et al. 2018.)。


図1 C型肝炎の病期による腸内フローラ中の細菌比率の変化円グラフの赤色(矢印)がレンサ球菌属。
病期が進む(より右側の円グラフ)ほどレンサ球菌属の比率が増加。
*グラフには代表的な菌名のみ記載。
健常人と比較して、肝機能正常HCVキャリア(PNALT)、慢性肝炎、肝硬変、肝がんと病期が進むにつれて、腸内フローラ中の細菌比率が偏倚し、レンサ球菌属(ストレプトコッカス・サリバリウスなど)の比率が増える。


今回、本研究グループはC型肝炎で起こる腸内環境の乱れをより詳細に調べるため、代謝物の一種・便中胆汁酸のバランスを解析し、その特徴を調べました。

研究の成果

本研究グループは、健康な人23名、病期の異なるC型肝炎患者さん100名(肝機能正常HCVキャリア[PNALT、注6]9名、慢性肝炎60名、肝硬変17名、肝がん14名)から便を頂き、液体クロマトグラフィー質量分析法(注7)を用いて便中胆汁酸を測定し、そのバランスを比較しました。その結果、①便中胆汁酸のバランスも病初期から変化し、胆汁酸の一種・デオキシコール酸(注8)が減少し、②PNALT、慢性肝炎、肝硬変、肝がんと病期が進むにつれてこの特徴も顕著となることが分かりました(図2)。


図2 C型肝炎の病期による便中胆汁酸のバランスの変化(左図)縦の棒グラフ1本がひとりの人の便中胆汁酸相対比率を示す。健康な人(左側)ではオレンジ色が多く、便にデオキシコール酸が多く存在することが分かる。①HCVに感染することで便中胆汁酸のバランスが変わり、オレンジ色が少なくなる、つまりデオキシコール酸が減る。②PNALT、慢性肝炎、肝硬変、肝がんと病期が進むにつれてこの特徴も顕著となる。
(右図)病期ごとの便中デオキシコール酸の相対比を示す。健康な人に比べ、HCVに感染することで便中デオキシコール酸の相対比が減少する。慢性肝炎、肝硬変では健康な人と比べて、統計上明らかにデオキシコール酸の相対比率が減少していた。アスタリスク(*)は統計上明らかであることを示すマーク。


興味深いことに、すでに解析が進んでいるNASHでは便中デオキシコール酸が増加することから、C型肝炎とNASHでは逆の現象が起こっていることが分かりました。さらに手術や病理解剖から得られた肝組織での胆汁酸代謝酵素の発現量を調べたところ、健常状態*(*病気を疑って肝組織を調べたところ健常状態と診断された場合)やNASHとC型肝炎では大きな差が見られました(図3)。C型肝炎では胆汁酸代謝遺伝子HSD3B7やCYP8B1の発現が低下していましたが、NASHではHSD3B7やCYP8B1の発現が上昇しており、便中デオキシコール酸量の異常につながっていると予測されました。以上より、C型肝炎では肝臓での胆汁酸代謝酵素発現異常が原因となり、腸内フローラの異常や便中胆汁酸のバランス異常など腸内環境の乱れが生じていると考えられます。


図3 肝組織における胆汁酸代謝酵素の発現量の違い(左図)C型肝炎では胆汁酸代謝遺伝子HSD3B7やCYP8B1の発現が低下し、便中デオキシコール酸(DCA)の減少につながっている。(右図)NASHではHSD3B7やCYP8B1の発現が上昇し、便中DCAの増加につながっている。特にclassic pathway(太い矢印の経路)の遺伝子発現量が、便中胆汁酸組成の違いにつながっている。
図中の主要な略号の説明:HCV(C型肝炎ウイルス)、NASH(非アルコール性脂肪性肝炎)、DCA(デオキシコール酸)、CA(コール酸)、CDCA(ケノデオキシコール酸)、LCA(リトコール酸)、UDCA(ウルソデオキシコール酸)、CYP8B1(胆汁酸合成酵素)、HSD3B7(胆汁酸合成制御酵素)

研究の意義と今後の展開や社会的意義など

本研究は、C型肝炎の腸内フローラや腸内代謝物の変化を統合して病期別に解析した最初の研究です。今回、肝組織での胆汁酸代謝酵素の発現異常が原因となって、C型肝炎での腸内環境の乱れ(腸内フローラ異常や便中胆汁酸のバランス異常)が起こることが分かりました。この成果により、HCVの感染が肝臓だけでなく腸内環境にまで影響を及ぼしていることが証明されました。この研究成果を医療関係者だけでなく、広く市民の皆様にも知っていただき、より早期にC型肝炎の治療をぜひ受けていただきたいと考えています。

用語解説
(注1)腸内フローラの乱れ(dysbiosis)
フローラを構成する細菌種の異常で、細菌種多様性の減少(単純化)や、少ないはずの細菌種の異常な増加、多いはずの細菌種の減少などを指す。
(注2)ウレアーゼ
尿素を加水分解して、アンモニアと二酸化炭素を作り出す酵素のこと。
(注3)胆汁酸
コレステロールの代謝物であり、殺菌作用や代謝調節機能を持つ。肝臓を出て、十二指腸に流れ出て、腸管から再吸収され、再び肝臓に戻ってくるサイクル(腸肝循環)を起こす物質のひとつである。ヒトの便中に見られる主な胆汁酸として、コール酸・ケノデオキシコール酸・デオキシコール酸・リトコール酸・ウルソデオキシコール酸の5種類が知られている。
(注4)非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)
アルコール摂取やウイルス感染のような原因がないにもかかわらず、肝臓に脂肪沈着・炎症・線維化といった変化を生じる疾患のこと。
(注5)非代償性肝硬変
重度の肝硬変で必要な肝臓の働きが失われた状態で、様々な合併症(症状)があらわれる。
(注6)肝機能正常HCVキャリア(PNALT)
HCVに感染しているが、肝機能の目安となるALT値が持続的に基準値以下(正常)の状態。
(注7)液体クロマトグラフィー質量分析法
有機化合物の定性・定量を行う分析手法である。サンプル中の低分子量の物質の質量を正確に測定できる。
(注8)デオキシコール酸
胆汁酸の一種であり、腸内の細菌の代謝によって生成される二次胆汁酸のひとつ。
研究助成

本研究はJSPS科学研究費基盤研究C(18K0812:C型肝炎治癒後の発癌ハイリスク群囲い込みを可能にする腸内細菌叢モデルの実用化)の助成を受け、日本医療研究開発機構(AMED)肝炎等克服実用化研究事業「C型肝炎の直接作用型抗ウイルス薬による治療後の病態変化に影響を及ぼす宿主因子等の同定を目指したゲノムワイド研究」(JP21fk0210048)の支援により行われました。また、本研究にご協力頂きました方々のご厚意に深謝いたします。

論文情報
論文タイトル
Bile acid dysmetabolism in the gut-microbiota-liver axis under hepatitis C virus infection(C型肝炎ウイルス感染における腸肝軸の変化と胆汁酸代謝異常)
著者
井上貴子1、船津結妃2、大西雅也1、五十川正記1、河島圭吾1、田中優2、守屋圭3、瓦谷英人3、百田理恵2、飯尾悦子1、中川英刀4、鈴木穣5、松浦健太郎1、藤原圭1、中島淳6、吉治仁志3、中山二郎2、田中靖人1,7*(*はcorresponding author)
所属 名古屋市立大学1、九州大学2、奈良県立医科大学3、国立研究開発法人理化学研究所4、東京大学5、横浜市立大学6、熊本大学7
掲載学術誌
学術誌名:Liver International
DOI番号
10.1111/liv.15041
お問い合わせ先

研究に関するお問い合わせ先
熊本大学大学院生命科学研究部
教授 田中靖人

名古屋市立大学大学院医学研究科
講師 井上貴子

九州大学大学院農学研究院
教授 中山二郎

報道に関するお問い合わせ
熊本大学 総務部総務課広報戦略室
名古屋市立大学 医学・病院管理部経営課経営係
九州大学 広報室

AMEDの事業に関するお問い合わせ
日本医療研究開発機構(AMED)
疾患基礎研究事業部 疾患基礎研究課

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