動物モデルを用いた新型コロナウイルス・オミクロン変異株の性状解明

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2022-01-24 東京大学医科学研究所

発表のポイント

  • 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の動物モデル(マウス、ハムスター)を用いて、オミクロン株の増殖能と病原性を調べた。
  • オミクロン株は、動物モデルでの肺における増殖能が従来株よりも低いことが示唆された。
  • オミクロン株を感染させた動物では、体重減少と呼吸器症状の悪化がみられないなど、その病原性は従来株よりも低いことが示唆された。
 発表概要

東京大学医科学研究所ウイルス感染部門の河岡義裕特任教授らの研究グループは、新型コロナウイルス変異株・オミクロン株の特性を明らかにしました。
オミクロン株が2021年末に南アフリカで初めて確認されて以降、本変異株の流行は世界中に拡大し、爆発的に感染例が増加しています。本研究グループは今回、感染患者から分離したオミクロン株の性状を新型コロナウイル感染症(COVID-19)の動物モデル(マウスおよびハムスター)を用いて評価し、従来の流行株と比較しました。その結果、オミクロン株は、マウスやハムスターの上気道および下気道部で増殖するものの、その増殖力と病原性は従来の流行株よりも低下していることが明らかになりました。本研究成果は、今後の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策計画を策定、実施する上で、重要な情報となります。
本研究成果は、2022年1月21日、米国科学雑誌「Nature」オンライン速報版で公開されました。
なお本研究は、東京大学、国立感染症研究所、米国ウィスコンシン大学、国立国際医療研究センター、米国ワシントン大学、米国マウントサイナイ医科大学、米国エモリー大学、米国国立衛生研究所、米国ユタ州立大学、米国ウィスコンシン州立衛生研究所、コロンビア国立大学、米国アイオワ大学、米国セントジュード小児研究病院が共同で行ったものです。また、本研究成果は、日本医療研究開発機構(AMED)新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業の一環として行われました。

 発表内容

新型コロナウイルスは、宿主細胞表面のウイルス受容体(ヒトのアンジオテンシン変換酵素II;ヒトACE2)にスパイク蛋白質(注1)を介して結合することで感染を開始します。2021年11月に、スパイク蛋白質に少なくとも30ヶ所の変異を有するオミクロン株が南アフリカで初めて確認されました。世界保健機関(WHO)は、同年12月にオミクロン株を懸念すべき変異株(Variants of concern; VOC)(注2)に指定しました。2022年1月現在、オミクロン株の流行は世界110カ国以上に拡大し、その感染者は日本も含めた世界各国で爆発的に増加しています。
ウイルス感染にとって重要な役割を担うスパイク蛋白質上の変異は、既存のワクチンや治療薬の効果を減弱させる可能性や、病原性や伝播力を変化させる可能性がありますが、オミクロン株の基本性状は明らかにされていませんでした。そこで、東京大学医科学研究所ウイルス感染部門の河岡義裕特任教授らの研究グループは、COVID-19感染モデル動物のマウスとハムスターを用いて、患者から分離したオミクロン株の増殖能と病原性を従来の流行株と比較しました。マウスの肺や鼻におけるオミクロン株の増殖能は、ベータ株(注 3)と比べて大幅に低いことが明らかとなりました(図1)。また、オミクロン株を感染させたマウスでは、呼吸器症状の悪化も認められませんでした(図1)。
続いてハムスターを用いて同様の解析を行いました。オミクロン株が出現するまで流行の主流であったデルタ株(注 4)と比較しました。デルタ株感染ハムスターでは、体重減少と呼吸器症状の悪化が認められたのに対して、オミクロン株感染ハムスターでは、体重減少と呼吸器症状の悪化はみられませんでした(図2)。また、オミクロン株は、ハムスターの鼻では良く増えましたが、肺での増殖能はデルタ株よりも顕著に低いことがわかりました(図2)。さらにコンピュータ断層撮影法(CT)を用いて、感染動物の肺を解析したところ、デルタ株感染ハムスターではCOVID-19患者で見られるような肺炎像が観察されましたが、オミクロン株感染ハムスターでは、軽度の炎症しか見られませんでした。ヒトのhACE2を持つハムスターにおいても、オミクロン株の病原性と増殖能はデルタ株よりも低いことが明らかとなりました。
本研究によって、COVID-19動物モデルにおけるオミクロン株の増殖能と病原性は、これまでの流行株と比較して低いことが明らかになりました。一方、動物モデルでの成績がそのままヒトに当てはまるかどうか不明です。重症化しやすい高齢者や基礎疾患を有するヒト、あるいはワクチン接種を受けていないなど新型コロナウイルスに対する免疫を持っていないヒトに対して、オミクロン株がどのような病原性を示すのか今後も検証が必要です。
本研究を通して得られた成果は、変異株のリスク評価など行政機関が今後のCOVID-19対策計画を策定、実施する上で、重要な情報となります。


図1 野生型マウスにおけるオミクロン株の増殖力と呼吸機能への影響
新型コロナウイルス・オミクロン株をマウスの鼻腔内に接種した。

(A)感染後3日目の鼻と肺におけるウイルス量を測定した。 オミクロン株がベータ株と比べて呼吸器での増殖が低かった。
(B)呼吸機能の評価指標の1つである最大呼気流量は、気道の状態を測定できる指標である。ベータ株では感染2日後に大幅な低下が認められ、気道の状態が悪化していたが、オミクロン株では感染後の低下は認められず非感染マウスと同程度であった。


図2 野生型ハムスターにおけるウイルスの病原性と増殖力
新型コロナウイルス・オミクロン株をハムスターの鼻腔内に接種した。

(A)接種後、非感染動物(対照群)と感染動物の体重を毎日測定した。デルタ株感染群では体重の減少が見られたが、オミクロン株感染群では体重減少は認められなかった。
(B)呼吸機能の評価指標の1つである最大呼気流量は、気道の状態を測定できる指標である。デルタ株では感染5日後と7日後に大幅に低下し、気道の状態の悪化が認められたが、オミクロン株では感染後の低下は認められなかった。
(C)感染後3日目の鼻と肺におけるウイルス量を測定した。鼻において、オミクロン株はデルタ株と同程度増殖していたが、肺でのウイルス量はデルタ株と比較して低下していた。

 発表雑誌

雑誌名:「Nature 」(1月21日オンライン速報版)
論文タイトル:SARS-CoV-2 Omicron virus causes attenuated disease in mice and hamsters
著者:
Peter J. Halfmann*, Shun Iida*, Kiyoko Iwatsuki-Horimoto*, Tadashi Maemura*, Maki Kiso*, Suzanne M. Scheaffer, Tamarand L. Darling, Astha Joshi, Samantha Loeber, Gagandeep Singh, Stephanie L. Foster, Baoling Ying, James Brett Case, Zhenlu Chong, Bradley Whitener, Juan Moliva, Katharine Floyd, Michiko Ujie, Noriko Nakajima, Mutsumi Ito, Ryan Wright, Ryuta Uraki, Prajakta Warang, Matt Gagne, Rong Li, Yuko Sakai-Tagawa, Yanan Liu, Deanna Larson, Jorge E. Osorio, Juan P. Hernandez-Ortiz, Amy R. Henry, Karl Ciouderis, Kelsey Florek, Mit Patel, Abby Odle, Lok-Yin Roy Wong, Allen C. Bateman, Zhongde Wang, Venkata-Viswanadh Edara, Zhenlu Chong, John Franks, Trushar Jeevan, Thomas Fabrizio, Jennifer DeBeauchamp, Lisa Kercher, Patrick Seiler, Ana Silvia Gonzalez-Reiche, Emilia Mia Sordillo, Lauren A Chang, Harm van Bakel, Viviana Simon, PSP study group, Daniel C. Douek, Nancy J. Sullivan, Larissa B. Thackray, Hiroshi Ueki, Seiya Yamayoshi, Masaki Imai, Stanley Perlman, Richard J. Webby, Robert A. Seder, Mehul S. Suthar, Adolfo Garcia-Sastre, Michael Schotsaert, Tadaki Suzuki, Adrianus C.M. Boon¶, Michael S. Diamond¶, and Yoshihiro Kawaoka¶
*:筆頭著者
¶:責任著者
DOI:10.1038/s41586-022-04441-6
URL:https://www.nature.com/articles/s41586-022-04441-6

 問い合わせ先

<研究に関するお問い合わせ>
東京大学医科学研究所 ウイルス感染部門
特任教授 河岡 義裕(かわおか よしひろ)

<報道に関するお問い合わせ>
東京大学医科学研究所 国際学術連携室(広報)

 用語解説

(注1)スパイク蛋白質:
コロナウイルス粒子表面に存在する蛋白質。ウイルスが宿主細胞に侵入・感染する際に要となる蛋白質であり、スパイク蛋白質上のアミノ酸変異は病原性や伝播性に影響を与えることが報告されている。

(注2)懸念すべき変異株(Variants of concern; VOC):
WHOでは、次々と起こるアミノ酸変異に対するリスクを分析・評価し、病原性・感染性・伝播性を高める変異やワクチン・治療薬の効果を低下させる変異を持つウイルスを「懸念される変異ウイルス (Variants of Concern; VOC)」に分類している。現在オミクロン株を含め5種類の変異株がVOCとして指定されている。

(注3)ベータ株:
B.1.351系統に分類されるベータ株は南アフリカで最初に検出され、スパイク蛋白質に10か所のアミノ酸変異が認められる。標準株と比較して伝播効率が上昇していることが推測されており、VOCとして分類されている。ベータ株は、オミクロン株が確認されるまでは、VOCに分類されるウイルスの中で、標準株から最も抗原性が離れたウイルスであった。

(注4)デルタ株:
2020年12月にインドで最初に検出されたB.1.617.2系統に分類されるデルタ株は、オミクロン株が出現するまで世界で最も流行していた変異ウイルスである。デルタ株に存在するスパイク蛋白質の特定の変異(L452RやP681R)がデルタ株の増殖性や伝播効率の上昇に寄与する可能性が示唆されている。

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