イネ栽培化の初期過程に重要な役割を果たした3つの遺伝子

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2022-06-24 国立遺伝学研究所

神戸大学大学院農学研究科を中心とした、国立遺伝学研究所、英国・ユニバーシティカレッジロンドン、ウォーリック大学、ミャンマー・イエジン農科大学、カンボジア・農務省からなる国際共同研究チームは、栽培イネ(Oryza sativa L.)が野生イネ(O. rufipogon)から分化する初期過程で、3つの遺伝子の変化がコメの収量を飛躍的に向上させた可能性を明らかにしました。

種子脱粒性(用語説明)の喪失は、収量の増加につながる栽培化の重要なステップです。研究チームは、戻し交雑により野生イネの脱粒性関連遺伝子を栽培イネの遺伝子に置き換え、栽培化の過程を実験的に再現することを試みました。すると、これまで栽培化の主要因と考えられてきた脱粒性遺伝子sh4の栽培イネ型への置換だけでは不十分で、新たに同定したqSH3遺伝子とsh4遺伝子がともに栽培イネ型に置換されることで、野生イネのもつ脱粒性がさらに抑制されることがわかりました。それでも自然環境下ではかなりの種子が脱粒し、収穫効率の向上には更なる因子が必要と思われました。

野生イネは穂が開帳しており、栽培イネの穂とは大きく形が異なります(図1)。研究チームは、qSH3とsh4に加え、穂の開帳性を制御するSPR3遺伝子を栽培イネ型に置換した野生イネ、すなわち脱粒性喪失かつ穂が閉じた野生イネでは、飛躍的に収量が増大することを見出しました(図1)。穂が閉じる性質は、脱粒した種子が互いに絡まり合い、穂に留まり易くなって収穫増加につながることから、栽培化因子のひとつと考えられています。また、構造力学解析の結果から、閉じた穂では重力による種子基部の離層への負荷が開いた穂よりも小さいため、脱粒性の抑制と更なる収量増をもたらした可能性が考えられました(図2)。

今回の成果は、種子脱粒性の人為的な制御による新たな多収イネ品種の開発につながる可能性があります。本研究の一部は遺伝研共同研究事業(NIG-JOINT 83A2016-2018)として実施されました。文部科学省ナショナルバイオリソース(NBRP)イネの支援を受けて遺伝研が保存する野生イネ系統が貢献しています。

(用語説明)
種子脱粒性:野生植物が種子を飛散させて繁殖するための性質。種子基部に離層組織が形成されて引き起こされる。

Figure1

図1:脱粒性喪失と穂形が収穫効率に与える影響
(上段)3つの遺伝子 (sh4, qSH3, SPR3) の栽培イネ型変異を様々な組み合わせで導入した野生イネ (O. rufipogon) 個体の穂の形。それぞれの個体の遺伝子組み合わせは下段の並びに対応。(下段)それぞれの遺伝子組み合わせの野生イネ個体における収穫率。 3つの変異を一緒に導入した個体では収穫率が顕著に上昇した。

Figure1

図2:離層形成の阻害率および穂形が種子基部への負荷に与える影響に関する構造力学シミュレーション
種子基部にかかる負荷、すなわち曲げ応力が高いほど種子は脱粒しやすくなる。sh4やqSH3などの導入で離層形成が阻害されるほど、またSPR3のような遺伝子の導入で穂の開帳度合いが低くなるほど曲げ応力は小さくなる。すなわち、野生イネの栽培化初期過程でsh4とqSH3に変異導入で脱粒性が低下したことに加え、SPR3変異導入により穂が閉じた形になることで、より高い収穫率が実現した可能性が高い。


A stepwise route to domesticate rice by controlling seed shattering and panicle shape

Ryo Ishikawa, Cristina Cobo Castillo, Than Myint Htun, Koji Numaguchi, Kazuya Inoue, Yumi Oka, Miki Ogasawara, Shohei Sugiyama, Natsumi Takama, Chhourn Orn, Chizuru Inoue, Ken-Ichi Nonomura, Robin Allaby, Dorian Q Fuller and Takashige Ishii

PNAS (2022) 119, e2121692119 DOI:10.1073/pnas.2121692119

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