日本固有のホタル「ゲンジボタル」の全ゲノム解析を達成! ~ホタルの発光周期の謎を解き明かすカギとなる成果~

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2024-03-18 鹿児島大学

本学大学院理工学研究科の加藤太一郎准教授と情報・システム研究機構データサイエンス共同利用基盤施設の野口英樹特任教授を中心とする研究グループが、世界で初めて日本固有種のゲンジボタルの全ゲノム解読を達成し、学術論文として発表しました。ホタルの発光周期制御の仕組み、およびゲンジボタルを含めたホタルの起源にも迫る事が期待できる研究成果です。

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概要

日本固有種のゲンジボタルは生息地域によって発光周期が異なります。発光周期の違いの要因を明らかにするには、ゲンジホタルの発光に関連する遺伝子の情報が必要になります。しかしながら、ゲンジボタルの全ゲノム配列は解読されておらず、発光関連遺伝子の構造や特徴はわかっていませんでした。
鹿児島大学大学院理工学研究科の加藤太一郎准教授と情報・システム研究機構データサイエンス共同利用基盤施設の野口英樹特任教授の研究グループは、情報システム研究機構国立遺伝学研究所の藤山秋佐夫特命教授および豊田敦特任教授、東京ホタル会議の鈴木浩文博士、佐賀大学総合分析実験センターの永野幸生准教授、神戸大学大学院理学研究科の塚本寿夫准教授、産業技術総合研究所の丹羽一樹主任研究員らとの共同研究において、世界で初めてゲンジボタルの全ゲノム解読を達成し解析を行いました。
今回の解析で、ゲンジボタル体内には既知の発光酵素「ルシフェラーゼ(1)」の他にも、微弱ながら発光活性を示し、ルシフェラーゼと構造の似た「ルシフェラーゼ様タンパク質」が複数存在していることを突き止めました。また、その他の発光関連遺伝子のゲノム構造やその遺伝的背景の一端も明らかにすることができました。
本成果によって、ホタルの発光周期制御の仕組みおよびゲンジボタルを含めたホタルの起源にも迫る事が期待できます。

日本固有のホタル「ゲンジボタル」の全ゲノム解析を達成! ~ホタルの発光周期の謎を解き明かすカギとなる成果~

図: 今回の研究で新たに見出した、発光器にて遺伝子が発現し、かつ既知のルシフェラーゼと相同性を示すルシフェラーゼ様タンパク質(LLp1〜4、LLa1〜3)と、既存のルシフェラーゼとの系統関係を示した図。既知のルシフェラーゼ (LUC1, LUC2)は緑文字で、新たに微弱ながら発光活性を示すことが分かったルシフェラーゼ様タンパク質(LLa2, LLp1, LLp2, LLp3)を赤文字で示している。緑枠と赤枠で囲まれたタンパク質は別々のクレード(2)に分類される。発光器での遺伝子発現量を模式的に表したものがTPMであり、それぞれのタンパク質がホタルルシフェラーゼ様モチーフ(Motif)やPTS1配列を持っている場合に黒丸を付けている。発光活性を示したLLa2はホタルルシフェラーゼ様モチーフを持ちながら、既知ルシフェラーゼと別のクレードに分類され、かつPTS1配列を持っていない新しいタイプの発光タンパク質であることが明らかとなった。

成果掲載誌

本研究成果は、国際科学雑誌「DNA Research」に2024年3月18日(日本時間)に掲載されます。
論文タイトル: Genome assembly of Genji firefly (Nipponoluciola cruciata) reveals novel luciferase-like luminescent proteins without peroxisome targeting signal
(ゲンジボタルのゲノムアセンブリからのペルオキシソーム標的シグナルを持たない新規ルシフェラーゼ様発光タンパク質の発見)
著者: Kentaro Fukuta, Dai-ichiro Kato, Juri Maeda, Atsuhiro Tsuruta, Hirobumi Suzuki, Yukio Nagano, Hisao Tsukamoto, Kazuki Niwa, Makoto Terauchi, Atsushi Toyoda, Asao Fujiyama and Hideki Noguchi
(福多賢太郎、加藤太一郎、前田樹里、鶴田篤弘、鈴木浩文、永野幸生、塚本寿夫、丹羽一樹、寺内真、豊田敦、藤山秋佐夫、野口英樹)
DOI: 10.1093/dnares/dsae006

研究の詳細

研究の背景
ホタルは、甲虫目ホタル科に分類される昆虫で、世界でおよそ2,800種、日本にも50種以上が生息しています。古くは日本書紀にもホタルの生物発光に関する記述がみられます。その中でもゲンジボタル (学名Nipponoluciola cruciata)は日本固有種として、昔から日本人に最も親しまれてきた光る生き物の代表格です。
ゲンジボタルと一口に言っても地域によって性質が異なり、日本各地に生息するゲンジボタルの発光周期にはいわゆる地理的「方言」があることが知られています。特に、新潟-長野-静岡にまたがる中部山岳地域 (フォッサマグナ地帯) を境として、発光周期が短周期型 (2秒西日本型) と長周期型 (4秒東日本型) の2つに大別されます。これまでの私たちの研究で、この発光周期の違いと部分ゲノムレベルでのDNA配列変化(変異)には関連があることを見出していました。しかしながら、より詳細に発光周期とDNA配列変化の関連を知るために必要な全ゲノム配列の決定と、その配列を用いた発光関連遺伝子のゲノム構造やその遺伝的背景を詳細に調べた研究はこれまでありませんでした。

本研究の成果
今回、著者らは、西日本型(短周期型)のゲンジボタルのオスの全ゲノム配列を決定し、662 Mbの高品質ゲノムアセンブリ(3)を構築しました。またその全ゲノム配列の中に15,169個のタンパク質をコードする遺伝子を同定しました。これらの情報を基に発光関連遺伝子(ルシフェラーゼ、チオエステラーゼ(4)、オプシン(5))のゲノム構造やその遺伝的背景の一端の解明を試みました。
発光酵素ルシフェラーゼに関連しては、発光器にて遺伝子が発現し、かつ既知のルシフェラーゼと相同性を示すルシフェラーゼ様タンパク質を新たに7つ(LLp1〜4、LLa1〜3)同定することができ、このうち4つが非常に微弱ながら生物発光活性を示すことを確認しました(図)。興味深いことにこれらの遺伝子は、既知のルシフェラーゼとは異なり、ミトコンドリアに局在するアシル-CoA合成酵素を祖先に持つタンパク質であることがわかったのです。このタンパク質のホタル体内での本来の機能はまだ分かりませんが、発光酵素の祖先をめぐる研究に新たな視点を与える発見です。
その他、D-ルシフェリンの生合成に関与するチオエステラーゼが発光器に発現していることを確かめると共に、光を感知するために必要なオプシンタンパク質も2種検出され、それらはホタルのルシフェラーゼが発する波長域の光を効率よく検出できるようになっていることを実験的に確認しました。

今後の期待
ゲンジボタルの発光周期は2つに大別されます。その発光周期の違いには遺伝子配列の違いが関与しているはずです。今回の研究によって得られた西日本型のオスのゲノム配列を参考配列とすることで日本全国に生息するゲンジボタルのゲノム配列の再解析が容易に実施できるようになり、日本全国の各地域に生息する個体のゲノム全域にわたる遺伝子配列の違い(SNPs)の全貌を詳細に比較できるようになります。
また、配列解析の結果を統合することで、ゲンジボタルが日本各地にどのように進出していったのかという進化の経路を特定することも可能になります。
一方、近年では人為的なゲンジボタルの移出入による地域固有のゲンジボタルの遺伝子攪乱が危惧され、様々なゲンジホタル保全活動が行われています。今回の研究成果がゲノム情報を利用した科学的エビデンスに基づいたゲンジボタルの保全活動にも貢献できると期待しています。

用語解説

(1) ルシフェラーゼ
ホタルの発光反応を進める触媒としての機能を果たす酵素タンパク質のこと。発光時には発光基質であるD-ルシフェリンが酸化されオキシルシフェリンに化学変換されるが、ルシフェラーゼがないとこの反応がスムーズに進まない。また酵素タンパク質はアミノ酸が多数つながってできており(ルシフェラーゼの場合は550個ほどのアミノ酸からなる)、そのアミノ酸の種類や順番が変わることで、発光の効率や色が変化する。

(2) クレード
進化の過程で共通の祖先タンパク質から進化したと考えられるタンパク質の集まりのこと。分類学や分子系統学で重要な概念で、タンパク質間の類縁関係を理解する時に役立つ。

(3) ゲノムアセンブリ
ホタルの細胞にあるゲノムDNAは高分子量であるためそのままでは配列情報を読み取ることができない。そこでゲノム解読では、細胞から取り出したDNAを一旦細かく断片化してからDNA配列をシーケンサーにて読み取る。そのDNA配列の短い断片を繋げて元の高分子量のゲノム配列を復元するデータ処理のことをゲノムアセンブリと呼ぶ。

(4) チオエステラーゼ
発光基質であるD-ルシフェリンはホタル体内で合成されている。その生合成に関わる酵素タンパク質としてチオエステラーゼが重要な役割を果たしていると考えられている。具体的にはホタル体内では一旦L-ルシフェリンという発光しない物質が合成され、それが立体反転を起こすことで発光するD-ルシフェリンが生成される。ルシフェリンはその過程でルシフェリル-CoAという中間体に変換されるが、チオエステラーゼはルシフェリル-CoAを加水分解しルシフェリンに戻す働きをする。

(5) オプシン
オプシンは光を感知するタンパク質であり、検出することのできる光の波長域によっていくつかの種類がある。ホタル内には紫外光と可視光を検出できると予想されるオプシンタンパク質が存在している。

研究体制と支援

本研究は、JSPS科学研究費基盤研究C (18K05320、26410185)、新学術領域研究ゲノム支援(221S0002)、およびデータサイエンス共同利用基盤施設公募型共同研究ROIS-DS-JOINT (001RP2019、008RP2021)によって支援されました。

細胞遺伝子工学
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