2024-04-19 北海道大学,理化学研究所,国立遺伝学研究所
ポイント
●亜種間雑種である日本列島産ハツカネズミゲノムの詳細な特徴を解明。
●亜種間雑種のゲノム形成において自然選択や性選択が強く働いたことを示唆。
●ハツカネズミの遺伝子から読み解く、人類と自然の共生の手がかりに期待。
概要
北海道大学大学院情報科学研究院の長田直樹准教授、国立遺伝学研究所の藤原一道特任研究員(同大学大学院情報科学院博士後期課程(研究当時))、理化学研究所バイオリソース研究センターの高田豊行開発研究員、城石俊彦センター長らの研究グループは、北海道大学大学院地球環境科学研究院などとの共同研究により、日本列島や中国などの東アジア地域から集められた野生ハツカネズミの全ゲノム配列を多数決定し、東アジアにおける野生ハツカネズミの遺伝的多様性とその進化の歴史を明らかにしました。
人類の活動により世界中に広がったハツカネズミは、南アジア周辺に起源をもち、三つの主要な亜種に分類されます。これらの亜種は、人類とともにそれぞれ別の経路を通って世界中に拡散し、その後、亜種集団同士の二次的接触を起こしました。今回の解析では、日本列島及び中国南部で広く亜種間雑種が形成されていることが示されました。また、二つの亜種が異所的に分布しているにもかかわらず、一方の亜種がもつ特定の型のY染色体が東アジア全体に急速に広まったことが示されました。そのメカニズムとして、X染色体とY染色体の対立による性比のゆがみが原因であるという仮説が立てられました。さらに、日本のハツカネズミにおける遺伝的構造は、免疫関連遺伝子や嗅覚受容体/フェロモン受容体遺伝子を含む特定の領域で一方の亜種からの影響を強く受けており、これが雑種ゲノムにはたらく自然選択や性選択によるものであることが示されました。
本研究では、ハツカネズミが人間の活動を通じてどのように遺伝的特徴を形成し、亜種間での遺伝的混合がどのように進行しているのかについて、新たな見解を提示しました。野生ハツカネズミのゲノム解析は、人間と密接に関連する他の生物種の進化を理解する上での重要な手掛かりとなることが期待されます。
なお、本研究成果は、2024年4月19日(金)公開のGenome Research誌に掲載されました。
論文名:Inference of selective force on house mouse genomes during secondary contact in East Asia(東アジアにおけるハツカネズミゲノムの二次的接触による選択圧の推論)
URL:https://doi.org/10.1101/gr.278828.123
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全ゲノム解析を用いて可視化した、東アジア地域のハツカネズミの遺伝的多様性。緑色が南方由来であるcastaneus亜種の遺伝的成分の強さを表している。