2025-02-20 国立循環器病研究センター
国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)脳血管内科の塩見悠真医師、三輪佳織医長、豊田一則副院長、古賀政利部長らのグループが、EOS研究のデータを用いて、「発症前抗血小板薬服用中の患者に対する静注血栓溶解療法の有効性と安全性」を解明しました。EOS研究とは日本、米国、欧州、豪の研究グループによる国際共同研究で、日本からは豊田一則副院長、古賀政利部長らが参加しています。EOS研究では、専門的な頭部画像診断を活用して発症時刻が特定できない脳梗塞患者に対するtPA静注療法の適応可能性と治療効果を検討した4つの無作為割付試験と1つの単群介入試験の個別データを統合して一つの大きなデータベースにして、統合解析を行っています。
この研究成果は、World Stroke Organization機関紙「International Journal of Stroke」オンライン版に令和7年2月7日に掲載されました。
■tPA静注療法の適応患者の3人に1人は脳梗塞発症前に抗血小板療法を受けている
脳梗塞の急性期治療として、組み換え型組織プラスミノゲンアクチベーターを用いた静注血栓溶解療法(tPA静注療法)が有効です。tPA静注療法の適応となる患者の3人に1人は脳梗塞発症前に抗血小板療法を受けているとされています。そのため抗血小板療法によってtPA静注療法の効果や出血リスクにどの程度影響があるかを評価することが重要です。脳血管内科の研究チームは、EOS研究のデータセットを使用して、脳梗塞発症前に抗血小板療法を受けていた患者におけるtPA静注療法の有効性と安全性を詳しく調べました。
■治療効果と安全性でPA静注療法と抗血小板療法の交互作用なし
本研究は、抗血小板療法の使用がtPA静注療法の効果と安全性にどのような影響を及ぼすかを評価することを目的にEOS研究に登録された脳梗塞患者843例のうち、抗血小板療法の有無記録の780例(93%)を対象に解析しました。発症から90日後の患者自立度を修正ランキン尺度(0 [後遺障害なし]〜 6 [死亡]の7段階の評価法)を用いて、完全自立の状態とみなされる同尺度の0または1の割合を主要評価項目とし、治療効果を測定しました。抗血小板療法あり群では実薬群45%、対照群の30%が修正ランキン尺度 0-1を達成しました(図1)。オッズ比2.07で統計学的に有意なアルテプラーゼの効果が認められました。安全性評価では、症状の悪化を伴う頭蓋内出血(症候性頭蓋内出血)は抗血小板療法あり群で5.6%、抗血小板療法なし群で1.1%の結果でした。抗血小板療法を受けていた患者では出血リスクがやや高い傾向にありましたが、これはこれまでの脳梗塞治療の臨床試験で報告されている範囲内の発生率(2~7%)であり、tPA静注療法のリスクとベネフィットのバランスを大きく損なうものではありませんでした。本研究の結果は、専門的頭部画像診断で選択した発症時刻不明の脳梗塞患者において、tPA静注療法が抗血小板療法の有無に関わらず有効であることを示しています。
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■研究手法と今後の課題
本研究は、EOS研究の副次解析として実施しました。EOS研究に統合した4つの無作為化比較試験(RCT)の1つであるTHAWS試験は日本医療研究開発機構の研究助成を受けて、国循を中心に国内多施設共同で行いました。
この研究では、登録された患者さんの発症時刻以外の条件に関しては、tPA静注療法のガイドラインや適正治療指針を遵守することが前提になっていることに注意が必要です。また、具体的な抗血小板療法の内容や用量の影響について詳細な分析を行っておらず、またカテーテルを用いて血栓回収療法を併用した症例は含まれていないため、今後のさらなる検証が必要です。
■発表論文情報
著者:Yuma Shiomi, MD, Kaori Miwa, MD, PhD, Märit Jensen, MD, PhD, Manabu Inoue, MD, PhD, Sohei Yoshimura, MD, PhD, Naruhiko Kamogawa, MD, Mayumi Fukuda-Doi, MD, PhD, Henry Ma, MD, PhD, Peter Ringleb, MD, PhD, Ona Wu, MD, PhD, Lee H Schwamm, MD, PhD, Stephen M Davis, MD, PhD, Geoffrey A Donnan, MD, PhD, Christian Gerloff, MD, PhD, Jin Nakahara, MD, PhD, Kazunori Toyoda, MD, PhD, Götz Thomalla, MD, PhD, Masatoshi Koga, MD, PhD
題名:Efficacy and Safety of intravenous alteplase for unknown onset stroke on prior antiplatelet therapy: post-hoc analysis of the EOS Individual Participant Data
掲載誌:International Journal of Stroke
DOI:https://doi.org/10.1177/17474930251322034
■謝辞
本研究の解析対象論文となったTHAWS試験は、下記機関より資金的支援を受け実施されました。
・AMED循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策実用化研究事業「発症時刻不明の急性期脳梗塞に対する適正な血栓溶解療法の推進を目指す研究」
【報道機関からの問い合わせ】
国立研究開発法人国立循環器病研究センター 企画経営部広報企画室