植物の根の微生物共生に欠かせない新しい因子の発見

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LANタンパク質が仲介する植物・微生物共生の制御

2019/01/04  筑波大学,基礎生物学研究所,科学技術振興機構

ポイント
  • 植物にとって重要な、根粒菌およびアーバスキュラー菌根菌との共生に欠かせないタンパク質LANを発見しました。
  • 植物が共生微生物を根の中に受け入れる仕組みの一端が明らかになりました。
  • 貧栄養な土地における作物の栽培や、化学肥料に頼らないクリーンな農業の実現に活用されることが期待されます。

筑波大学 生命環境系 寿崎 拓哉 准教授(つくば機能植物イノベーション研究センター)らの研究グループは、基礎生物学研究所 川口 正代司 教授、関西学院大学 武田 直也 准教授との共同研究により、LACK OF SYMBIONT ACCOMMODATION(LAN)と名付けたタンパク質が、根粒共生注1)と菌根共生注2)において、植物が共生微生物を根の中に受け入れる際に働くことを明らかにしました。
植物は土壌中のさまざまな微生物と関わり合いながら生活しています。マメ科植物は、根粒菌と根粒共生を行うことで、根粒菌によって固定された窒素栄養を得ることができます。また、多くの陸上植物はアーバスキュラー菌根菌(以下、菌根菌)と菌根共生することで、リン栄養や水を得ています。根粒共生と菌根共生には共通した仕組みが存在することが知られています。しかし、その共通制御に関わる分子機構には未解明な点が数多く残されています。
本研究では、マメ科のモデル植物であるミヤコグサ注3)を用いた突然変異体のスクリーニングによってlan変異体を単離しました。このlan変異体は、根粒菌も菌根菌も正常に受け入れられませんでした。このことから、変異の原因遺伝子であるLAN遺伝子は、これらの微生物との共生に必要な機能を持つことが分かりました。また、LAN遺伝子はメディエーター注4)と呼ばれるタンパク質複合体の構成因子をコードすることを特定しました。
根粒共生の制御、菌根共生の制御のどちらにも関わるタンパク質LANの発見は、植物がこれらの共生微生物をどのように受け入れ、共生を成立させているかを深く理解する上で、重要な基礎的知見を提供するものです。さらには、LANの解析から得られた知見を基に、微生物との共生能力を強化する植物を開発できれば、貧栄養な土地における作物の栽培や、化学肥料に頼らないクリーンな農業の実現につながることが期待されます。
本研究の成果は、2019年1月3日(日本時間1月4日)付で「PLOS Genetics」で公開される予定です。
本研究は、科学研究費補助金 若手研究(B)、新学術領域研究「植物の成長可塑性を支える環境認識と記憶の自律分散型統御システム」の助成によって実施され、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究(ERATO)「野村集団微生物制御プロジェクト」の一環で行われました。

<研究の背景>

動くことのできない植物は、土壌中のさまざまな微生物と共生関係を築くことで、栄養に乏しい環境の中でも生き抜いています。マメ科植物は、根に根粒と呼ばれるこぶ状の器官を形成し、その中に、大気中の窒素を植物が利用できる形に変換してくれる根粒菌(窒素固定細菌)を共生させることで、窒素栄養を獲得することができます。また、多くの陸上植物は、真菌類の一種であるアーバスキュラー菌根菌(以下、菌根菌)と共生することで、リン栄養や水を得ています。これまでの研究から、植物の祖先が海から陸上に進出した約4億5千万年前には、既に植物と菌根菌は共生(菌根共生)関係にあったと推察されています。その一方で、植物と根粒菌の共生(根粒共生)は、約6千万年前に始まったと考えられています。また、植物は共通共生経路(Common Symbiosis Pathway (CSP))注5)と呼ばれる根粒共生と菌根共生の共通制御に関わるシグナル伝達経路を持っていることもわかっています。これらの知見から、植物の進化の中で、根粒共生は菌根共生に関わる因子を一部流用することで誕生したと考えられています。その一方で、根粒共生、菌根共生それぞれがどのような仕組みによって成立しているのか、また、その共通した制御にはどのような仕組みが関わっているのかについては、未解明な点が多く残されています。

<研究内容と成果>

本研究では、マメ科のモデル植物であるミヤコグサを用いて、根粒共生を正常に行うことのできない突然変異体のスクリーニングを行い、新しい変異体を単離してlack of symbiont accommodation(lan)と名付けました。野生型の植物では、根粒菌を根の中に取り込む際に、感染糸注6)と呼ばれるトンネル状の構造をつくり、根粒菌の通り道にします(図1)。lan変異体では、感染糸の形成が著しく減少していることが分かりました。その一方で、lan変異体では、細胞と細胞の間を通る方法で根粒菌が根の内部へと侵入することが分かりました(図1)。また、根粒菌を植物に感染させてから窒素固定を行う根粒が作られるまでの日数を調べたところ、lan変異体は野生型よりも多くの日数がかかることが分かりました。したがって、lan変異体で見られる細胞と細胞の間を通る根粒菌の侵入様式は、野生型の植物で見られる感染糸を介した侵入様式と比べて、根粒菌を受け入れて共生を成立させる方法としては効率の悪いものであることが分かりました。このことから、変異の原因であるLAN遺伝子は、感染糸の形成を介して効率的に根粒菌へ受け入れて機能的な根粒を作るために働く因子であることが示唆されました。また、lan変異体に菌根菌を感染させたところ、菌根菌との共生器官である樹枝状体の形成がほとんど観察されませんでした(図2)。このことから、LAN遺伝子は、根粒菌との共生だけでなく、菌根菌との共生にも必要な因子であることが分かりました。
lan変異体の原因遺伝子を特定したところ、メディエーターと呼ばれる基本的な遺伝子発現制御に関わるタンパク質複合体を構成するタンパク質の1つをコードしていることが分かりました。実際に、lan変異体では、根粒共生や菌根共生過程において発現が誘導される遺伝子の発現が抑制されていました。さらに、CSPに関わる遺伝子の変異体とlan変異体の2重変異体の解析から、LANはCSPとは一部独立に働くことが示されました。これらの結果から、根粒共生と菌根共生の共通制御に関わる新たな遺伝子発現制御機構が提唱されました。

<今後の展開>

LANの発見により、これまで知られていた共通共生経路とは異なる、根粒・菌根共生の新たな共通制御システムが見いだされました。今後はLANがどのようなタンパク質と相互作用することで遺伝子発現を制御するのかを明らかにし、植物微生物共生制御機構の全容解明に迫っていきたいと考えています。植物微生物共生の仕組みを理解することは、微生物との共生能力を向上させる植物の開発につながります。また、根粒共生に必要な遺伝子セットを特定できれば、非マメ科植物のような根粒菌と共生することができない植物にも将来的には根粒形成能を付与できるようになるかもしれません。このような研究により作られた作物を利用して、微生物との共生をうまく活用して窒素やリン栄養を得ることができれば、貧栄養な土地における作物の栽培や、化学肥料に頼らないクリーンな農業の実現に貢献する可能性が期待できます。

<参考図>

図1 野生型植物とlan変異体の根粒形成の様子

図1 野生型植物とlan変異体の根粒形成の様子

野生型の根では根粒菌は感染糸の中を通り、根粒原基(写真では緑色タンパク質が発現)へと侵入する。一方、lan変異体では感染糸は形成されず、根粒菌は根粒原基の表皮に蓄積する。詳細な観察により、lan変異体では根粒菌は細胞と細胞の間を通り、根粒原基へと侵入することが分かった。赤色タンパク質を発現する根粒菌を感染させることで根粒菌を可視化している。スケールバー:100μm
図2 野生型植物とlan変異体の菌根共生の様子

図2 野生型植物とlan変異体の菌根共生の様子

野生型の根では菌根菌との共生器官である樹枝状体が形成されるのに対し、lan変異体では樹枝状体はほとんど形成されない。菌根菌を赤色蛍光で可視化している。スケールバー:200μm

<用語解説>
注1)根粒共生
マメ科植物は土壌中に存在する根粒菌との相互作用によって根に根粒と呼ばれる器官を形成する。根粒の中には根粒菌が共生している。根粒菌はニトロゲナーゼと呼ばれる酵素を利用して、大気中の窒素を固定する窒素固定反応を行う。宿主植物は根粒菌から固定された窒素源を受け取る代わりに、エネルギー源として光合成産物を根粒菌に与える。
注2)菌根共生
陸上植物の約8割の種が、真菌類の一種であるアーバスキュラー菌根菌と共生する。菌根共生にもさまざまなタイプがあり、アーバスキュラー菌根菌との共生では、植物はリン栄養や水を得ることができる。
注3)ミヤコグサ
マメ科のモデル植物。ゲノムサイズが比較的小さく、形質転換法が確立されているなどの理由から遺伝学実験に適しており、植物微生物相互作用の研究材料として広く利用されている。
注4)メディエーター
RNAポリメラーゼⅡと相互作用し、転写因子を介した遺伝子発現を調節する機能を担う真核生物に広く保存されたタンパク質複合体。30種類ほどの因子によって構成されている。
注5)共通共生経路(Common Symbiosis Pathway (CSP))
根粒共生と菌根共生を制御する機構の中で、両方の共生を共通して制御するシグナル伝達機構。
注6)感染糸
根粒共生過程で形成されるトンネル状の構造。根毛の先端を起点に作られ、根の内側の層へと細胞の中を通り伸長する。感染糸の中を根粒菌が移動する。
<論文情報>

タイトル:“LACK OF SYMBIONT ACCOMMODATION controls intracellular symbiont accommodation in root nodule and arbuscular mycorrhizal symbiosis in Lotus japonius. ”
(ミヤコグサLACK OF SYMBIONT ACCOMMODATIONは根粒共生およびアーバスキュラー菌根共生において共生菌の受け入れをコントロールする)
著者名:Takuya Suzaki, Naoya Takeda, Hanna Nishida, Motomi Hoshino, Fumika Misawa, Yoshihiro Handa, Kenji Miura, Masayoshi Kawaguchi
DOI:10.1371/journal.pgen.1007865

<お問い合わせ先>
<研究に関すること>

寿崎 拓哉(スザキ タクヤ)
筑波大学 生命環境系、つくば機能植物イノベーション研究センター 准教授

<JST事業に関すること>

内田 信裕(ウチダ ノブヒロ)
科学技術振興機構 研究プロジェクト推進部

<報道担当>

科学技術振興機構 広報課

生物化学工学生物環境工学
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