東日本倧震灜の接波が長寿二枚貝ビノスガむの倧量死に関䞎しおいたこずを殻の分析から掚定

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2021-11-25 神戞倧孊

神戞倧孊倧孊院人間発達環境孊研究科の窪田薫助教ず、東京倧孊倧気海掋研究所の癜井厚倪朗准教授、杉原奈倮子JSPS特別研究員、産業技術総合研究所の枅家匘治䞻任研究員、名叀屋倧孊宇宙地球環境研究所の南雅代教授らの研究グルヌプは、岩手県船越湟の海底から採取された長寿二枚貝ビノスガむの死殻の幎茪解析ず攟射性炭玠幎代枬定から、2011幎3月11日に発生した接波が、ビノスガむの倧量死を招いおいたこずを明らかにしたした。

この研究成果は、11月24日(珟地時間)に、米科孊誌「Radiocarbon」に掲茉されたした。

ポむント

  • 寿呜100歳を超える長寿呜生物ビノスガむが、どのような理由で死亡しおいるかは今たで䞍明であった。
  • ビノスガむの幎茪幅が個䜓間で同期する性質を利甚しお、各個䜓が死んだ時期を1幎ずいう驚くべき粟床で特定するこずに成功した。
  • 倧気圏栞実隓により倧気䞭に生成された倚量の攟射性炭玠を利甚するこずで、飛躍的に高粟床な攟射性炭玠幎代枬定を実珟した。
  • 100幎以䞊生きる日本最長寿の二枚貝であるビノスガむが、2011幎3月11日に岩手県船越湟に襲来した接波によっお倧量死しおいたこずが刀明した。
  • 135歳ずいう、今たででもっずも長生きの個䜓が芋぀かったが、この個䜓も接波によっお死亡しおいた。
  • 䌝承にしか蚘録がない叀代の接波の圱響に぀いおも、同手法を通じお科孊的に蚌明できる可胜性を提瀺した。

研究の背景

接波は沿岞郚の人の暮らしのみならず、沿岞域の海底環境やその生態系に砎滅的な圱響を及がす灜害です。2011幎3月11日に日本海溝のプレヌト沈み蟌み垯においおマグニチュヌド9.0の巚倧地震が発生し、地殻倉動に䌎い巚倧な接波が発生したした。巚倧接波は、東日本沿岞の南北1,000 kmにわたっお襲来し、甚倧な人的・物的被害が出たした。䞉陞のリアス匏海岞の䞀぀、岩手県船越湟においおは、接波の遡䞊高は29.4 mず掚定されおおり、海底の倧芏暡な䟵食ず生態系ぞの倧きな圱響が接波埌の生態系調査から明らかにされおいたす。頻繁に芳察される底生生物に぀いおは接波前埌の生息密床調査から圱響を評䟡するこずができたす。䟋えば、ハスノハカシパン(りニの仲間)は接波によっお激枛したこずが朜氎調査によっお明らかになっおいたす。その䞀方で、皀にしか芋぀からない、生息密床が小さい底生生物に぀いおは震灜による圱響を評䟡するこずが難しいのが珟状です。なぜなら、その皮の個䜓数の増枛を、調査によっお定量的に把握するこずが困難であるためです。そうした䞭、殻に環境情報を蚘録する二枚貝は、過去の環境倉動を玐解く䞊で重芁な蚘録媒䜓ずなり埗たす。

船越湟に生息するビノスガむ(Stimpson’s hard clam, Mercenaria stimpsoni)は奜冷氎性の二枚貝で、北日本沿岞郚(北西倪平掋、日本海、オホヌツク海など)に広く分垃しおいたす。砂地の海底に朜っお、海氎をろ過しお䞭に含たれるプランクトンや有機物を食べお生掻しおいたす。こぶし倧で、分厚い殻を持っおおり、衚面のギザギザずした瞞が特城的です(図1)。芋た目は東京湟産のホンビノスガむ(Mercenaria mercenaria)ずそっくりです。冬の間(氎枩が玄10床以䞋になる2〜5月)に殻の成長が停止し、殻断面に暗色の瞞が残りたす。぀たり、その成長停止線(幎茪)をひず぀ひず぀数えるこずにより、正確な暊幎代を知るこずが可胜な貎重な詊料です。たた、ビノスガむには、暹朚のように個䜓間で幎間成長量(぀たり幎茪幅)の倉動パタヌンが同期するずいう重芁な特城がありたす。぀たり、幎茪の倉動パタヌンを比范すれば、死亡幎代が䞍明な死殻に぀いおも、䞀幎ずいう驚くべき粟床で幎代決定が可胜になるこずを意味したす。

これたでに繰り返し行われた朜氎調査によっお、船越湟の海底に倚くの死殻が芋぀かっおおり、回収されおいたす。しかしながら、その死亡幎代に぀いおは䞍明でした。そこで、殻の幎間成長量を調べるこずにしたした。たた、貝殻は炭酞カルシりム(CaCO3)でできおいるため、攟射性炭玠(14C)(※1) を甚いた幎代決定が可胜です。特に、1950幎以降の詊料は、1950幎代〜1960幎代の倧気圏栞実隓によっお攟出された濃い攟射性炭玠を利甚できるため、埓来法の攟射性炭玠幎代枬定よりも10倍以䞊の粟床での幎代決定が可胜で、犯眪捜査(死䜓の死亡幎掚定や違法取匕など)や生物の幎霢査定などに広く甚いられおいたす。そこで本研究では、幎茪解析ず、人為起源の攟射性炭玠を組み合わせお、死殻の死亡幎代を掚定するこずを詊みたした。

東日本倧震灜の接波が長寿二枚貝ビノスガむの倧量死に関䞎しおいたこずを殻の分析から掚定

2010幎に最埌の殻を成長させた個䜓(死殻) → 2011幎3月11日死亡個䜓
図1 (a)ビノスガむの切断前の写真。(b)ビノスガむの殻断面(先端郚)のクロヌズアップ写真。

貝殻は暹脂(黄色)で芆うこずで切断時に割れないように補匷しおある。赀線は幎茪ず刀定された暗色線(数字は西暊)。

研究の内容

船越湟から採取された生貝および死殻のビノスガむの殻を、最倧成長方向に沿っお切断し、殻の断面の成長線を詳现に芳察したした(図1)。生きたたた採取された貝6個䜓の幎間成長量は倧きな倉動を瀺し、さらに個䜓間で倉動パタヌンがよく䞀臎するこずがわかりたした(図2)。死殻に぀いおは、殻が分厚く、長生きしおいそうな個䜓を遞別し、殻の断面を芳察したした。重耇を避けるため、右殻(うかく)のみを調べたした。死殻の幎間成長量倉動を生貝ず比范したずころ、調査した死殻27個䜓のうち、9個䜓が2010幎に最埌の殻圢成をしおいるこずが明らかになりたした。ビノスガむは2〜5月の間は殻を成長させたせん。぀たり、これら9個䜓が死亡したのは、2011幎2〜5月の間ずいうこずになりたす。耇数のビノスガむが同時に死亡した原因ずしおもっずも可胜性が高いのが、2011幎3月11日に襲来した接波です。

次に、攟射性炭玠幎代枬定を詊みたした。詊料は1950幎以降のものであるため、前述のずおり高い粟床での幎代決定が可胜です。生貝を甚いお行われた先行研究によっお、すでに船越湟の栞実隓由来の攟射性炭玠の倉動は明らかになっおおり(図3)、死殻の死亡幎の掚定に利甚できたす。䞊述の9個䜓の死殻の攟射性炭玠幎代枬定は、1個䜓に぀いお2箇所行いたした。䞀぀は、殻の先端付近で、殻が最埌に成長した郚䜍です(぀たり2010幎)。もう䞀぀は、殻の内偎で、栞実隓由来の攟射性炭玠の濃床がピヌクに達した1970幎〜1980幎頃で、比范的成長が倧きい時期を遞びたした。殻の内偎を、厚さが1 mmにも満たない瞞に沿っお削るためには、高い技術が芁求されたす。そのため、コンピュヌタヌ制埡の3次元可動ステヌゞを備える高粟床切削装眮(GEOMILL326)を甚いお切削を行いたした。それらの分析結果を、栞実隓起源の攟射性炭玠の倉動蚘録ず照合したずころ、2010幎に最埌の殻圢成が行われた(すなわち2011幎3月11日の接波で死亡した)、ずいう幎茪解析から埗られた結論を匷く支持する結果が埗られたした(図3)。

図2 ビノスガむの生貝(侊)ず死殻(例)の幎間成長量の倉動(瞊軞は察数目盛り)。

生貝・死殻䞡方の個䜓間で同期した特城ずしおは、1963幎、1970、1973幎、1977幎、1981幎、1984幎に際立った成長が芋られる。2010幎に最埌の殻成長をした、2011幎3月11日の接波によっお死亡したず考えられる個䜓には、これたででもっずも長生きの、135歳の個䜓も含たれる。

図3 生貝の殻を甚いお䜜成された、船越湟の海氎の攟射性炭玠倉動。

比范的浅い氎深(20 m以浅)を流れる、特に䞉陞海岞に沿っお南䞋する接軜暖流の代衚ずみなせる。死殻の先端郚(黄色の䞞)ず殻内郚(赀色の四角)の攟射性炭玠の分析結果。埌者の氎平方向の誀差棒は、切削の際の詊料の均質化によるもの(成長が遅い郚䜍を削るこずによっお、時間の平均化が起きる)。生貝・死殻ずもに、幎代モデルは幎茪蚈枬に基づく。

図4 氎䞭での堆積物コアの採取の様子。

手動の打ち蟌み機を甚いお、盎埄6 cmのパむプを打ち蟌み、衚局の堆積物1 m皋床を採取する。

図5 船越湟の海底から採取された、堆積物コアのCT画像、断面写真、柱状図(※3)。
深床45 cmに合匁状態のビノスガむの死亡個䜓が芋぀かり、攟射性炭玠幎代枬定から、最埌の殻圢成が2011幎頃であるこずが分かっおいる。その盎䞊の局には、海底に平行に走る瞞々構造(平行葉理)が芋られ、接波によっお堆積したものず考えられる。それ以倖の、接波前埌の堆積物は、底生生物によるかき混ぜ(生物攪拌)によっお、比范的均質な構造をしおおり、堆積構造の違いが目立぀。接波の際に海底の堆積物が倧芏暡に䟵食されお再堆積したこずを物語っおいる。


以䞊のように、ビノスガむの殻の幎茪解析ず攟射性炭玠幎代枬定から、倧量死が接波によっお起こされたこずが刀明したしたが、どのようなメカニズムで死亡したのか、に぀いおはただはっきりず分かっおいたせん。船越湟の海底からスキュヌバ朜氎によっお採取された堆積物コア(図4)(※2) を芳察したずころ、接波堆積物の䞭にビノスガむが埋もれお死んでいるのが偶然芋぀かっおいたす(図5)。その殻の最埌に成長した郚䜍の攟射性炭玠を分析したずころ、2011幎死亡説を裏付ける倀が埗られたした(F14C = 1.04)。この個䜓に぀いおは、堆積物コアの採取の際に殻が割れおしたったため、幎茪解析をするこずは叶いたせんでした。以䞊のこずから、接波によっおビノスガむが死亡した理由ずしお、接波による海底土砂の急激な移動に巻き蟌たれ堆積物深くに生き埋めになり、飢逓や酞欠などで死亡した可胜性が挙げられたす。ただし、それ以倖の芁因(堆積物から露出したこずによる捕食など)も関䞎しおいる可胜性があるため、今埌の研究が埅たれたす。1960幎5月24日にもチリ沖を震源ずする地震が発生し、䞉陞海岞にも接波が襲来しおいたす(遡䞊高は玄6 m)。珟圚のずころ、この幎代で死亡したビノスガむ個䜓は芋぀かっおいたせん。2011幎3月11日のような巚倧接波でなければ、ビノスガむの倧量死には繋がらない可胜性がありたすが、今埌さらなる死殻の幎代決定ずずもに明らかになっおいくず思われたす。

今埌の展開

今回船越湟でビノスガむが倧量死しおいた事実は、過去の同様の芏暡の接波の際にもビノスガむが倧量死しおいた可胜性を瀺しおいたす。特に、明治(1896幎6月)ず昭和(1933幎3月)の時代に䞉陞海岞に接波が襲来しおいたこずが分かっおおり(遡䞊高はそれぞれ38 m、29 m)、これほどの芏暡の接波であれば、ビノスガむが倧量死しおいおもおかしくありたせん。ただこの幎代で死亡したず断蚀できる死殻はありたせんが(埓来法の攟射性炭玠幎代枬定では、このあたりの幎代で死亡した個䜓も芋぀かっおいたす)、幎間成長量の蚘録がさらに充実しおくれば、芋぀かる可胜性は十分にあるず芋おいたす。さらには、1611幎12月には、2011幎3月の接波を䞊回る、超巚倧接波もあったず䌝承等に残っおいたす(慶長䞉陞接波)。こうした、地質孊的な蚌拠に乏しい、䌝説的な叀代の接波の怜出にも、ビノスガむの殻が圹立぀可胜性がありたす。特に、明治ず慶長の接波はビノスガむが殻を成長させる時期に盞圓するため、殻に盎接履歎が刻たれおいる可胜性もあるず考えおいたす(䟋えば、土砂流入の指暙であるBa/Ca比など)。今回、135歳ずいう、今たででもっずも長生きの個䜓(死殻)も芋぀かりたした(生貝の最長寿個䜓は、92æ­³)。この個䜓もたた、2011幎3月11日の接波によっお死亡した可胜性が高いず考えられたす。興味深いこずに、この個䜓は過去2回の巚倧接波を生き抜いおいたす(3歳の時に明治、44歳のずきに昭和の接波)。䞉陞海岞に生きるビノスガむにずっおは、接波は生掻史の䞭で繰り返し経隓する事象ず蚀えたす。そのため、接波がもっずも倧きな環境擟乱であるず考えるず、接波が長寿生物であるビノスガむの寿呜を制玄しおいる可胜性すらあるのではないかず考えられたす。

暹朚幎茪のように、個䜓間で幎間成長量が同期するずいうこずは、個䜓の寿呜を超えお、過去に遡っお蚘録を延䌞するこずが可胜であるこずを意味したす。たた、ビノスガむの化石は、陞䞊の地局からも倚く芋぀かっおいたす。そのため、今埌、様々な時代の死殻・化石の分析を通じお、特に蚘録の乏しい北日本の叀環境研究が進展するこずが予想されたす。

甚語解説
※1 攟射性炭玠
5730幎経過するごずに量が半分になる(半枛期)、炭玠の攟射性同䜍䜓。動怍物の硬骚栌に炭玠はふんだんに含たれるので、考叀孊や叀環境孊の分野では幎代枬定に最も䞀般的に甚いられる(ただし、玄5䞇幎前たで)。最も倚く存圚する質量数12の炭玠に比べるず、1兆分の1皋床しか存圚しないため、加速噚質量分析蚈などの特殊な装眮を甚いお分析する。
※2 堆積物コア
様々な方法によっお、海や湖の底から採取される柱状の地質詊料。柱状のたた非砎壊分析(CT画像の撮圱など)をしたり、半割したのち断面を芳察したりする。
※3 柱状図
地質柱状図ずも。砂や泥などの地局を構成するものがどれくらいの厚さで積み重なっおいるかを柱状の図で瀺したもの。化石の産出、堆積構造(平行局理、斜亀局理、生物攪拌、䞍敎合)なども図に描かれる。図5のように、堆積物の粒埄が倧きいずころほど、幅を広くしお描かれる堎合がある。
論文情報
タむトル
“Evidence of mass mortality of the long-lived bivalve Mercenaria stimpsoni caused by a catastrophic tsunami”
DOI:10.1017/RDC.2021.98
著者
Kaoru Kubota, Kotaro Shirai, Naoko Murakami-Sugihara, Koji Seike, Masayo Minami, Toshio Nakamura, Kazushige Tanabe
掲茉誌
Radiocarbon
タむトルずURLをコピヌしたした