2021-03-02 国立遺伝学研究所
(月刊アクアライフ・橋本直之撮影)
Genome editing reveals fitness effects of a gene for sexual dichromatism in Sulawesian fishes.
S Ansai, K Mochida, S Fujimoto, D F Mokodongan, B K A Sumarto, K W A Masengi, R K Hadiaty, A J Nagano, A Toyoda, K Naruse, K Yamahira, J Kitano
Nature Communications 12, 1350 (2021) DOI:10.1038/s41467-021-21697-0
クジャクの羽のようなオス特有の派手な装飾はどうやって進化してきたのでしょうか?オス特有の派手な装飾は、異性に「モテる」ため、同性を打ち負かすために進化したと考えられていますが、どのような遺伝子によって派手な装飾が生まれたのかはよくわかっていませんでした。
インドネシアのスラウェシに生息するメダカの一種、ウォウォールメダカのオスは「赤いヒレ」が特徴です。本研究では、ウォウォールメダカを用いてオスのヒレを赤くする遺伝子を特定し、赤いヒレを持つことの意義を明らかにすることに挑戦しました。
まず、近縁でオスのヒレが赤くないセレべスメダカの全ゲノム配列を決定し、ヒレが赤くなるウォウォールメダカとの違いを解析することで、csf1という遺伝子がヒレを赤くする候補遺伝子であることを特定しました。ゲノム編集でウォウォールメダカのcsf1を破壊するとオスのヒレの赤色がなくなりました。csf1がヒレを赤くする原因遺伝子だということがわかったのです。csf1は男性ホルモンを投与することで発現量が上昇することもわかったので、オスにのみ赤色が強く発色することを説明できました。
さらに、ゲノム編集によってヒレの赤色を失ったオスを利用して行動実験を行ったところ、メスは「ヒレが赤くないオス」にあまり惹きつけられませんでした。さらに、捕食者は「ヒレが赤くないオス」を捕まえようとしました。
他の生物種でも類似の研究を実施することで、「派手なオス」の出現という進化の謎に迫ることが期待されます。
本研究は、国立遺伝学研究所、琉球大学、東北大学、基礎生物学研究所、龍谷大学、インドネシア科学院、サム・ラトゥランギ大学の共同研究として実施されました。
また、本研究は、科研費(18K14769、16K14792、26291093、19K16232、16H06279)、先進ゲノム支援(16H06279)、学術振興会PD(16J0553)、基礎生物学研究所 共同利用研究 (17-313)、琉球大学熱帯生物圏研究センター 共同利用研究、国立遺伝学研究所 共同利用研究NIG-JOINT(20A2018, 20A2019, and 5B2020)の支援を受けました。
本研究成果は、英国科学雑誌「Nature Communications」に2021年3月1日午後7時(日本時間)に掲載されました。
図: 行動実験の結果の概要