なぜ、ガラスの上でも硬い脚先が滑らないのか。40年の議論にピリオド
2021-06-03 物質・材料研究機構
NIMSは、東京大学、キール大学 (ドイツ) と共同で長年の議論が続いていたテントウムシの脚裏の接着の原理を解明しました。
概要
- NIMSは、東京大学、キール大学 (ドイツ) と共同で長年の議論が続いていたテントウムシの脚裏の接着の原理を解明しました。
- 持続可能社会では、これまでの「強力な接着」がリサイクル時に分離の妨げとなるため、「接着力があり、容易に剥離できる」という環境にやさしい新しい接着技術の開発が進められています。バイオミメティクスでは、天井や壁を歩行する爬虫類や昆虫の脚の「接着と剥離」を迅速に繰り返せる機能が注目されており、本研究チームはテントウムシの優れた脚の機能に着目して研究開発を行いました。テントウムシの脚裏は剛毛なのにガラスのような平滑面をすべらずに歩くことができます。足裏からは分泌液も出ており、接着の原理については、剛毛と接地面の分子間力なのか、分泌液による表面張力なのか、これまで40年もの間、解明されていませんでした。
- 今回、研究チームは、分子間力に影響する剛毛表面と基板間の「分泌液の厚さ」の測定に成功しました。ガラス基板の表面に高さ10〜20nmのAuPd粒子を付着させこの粒子が分泌液に浸るかどうかを調べました。ガラス基板にテントウムシの脚を置いた状態で分泌液を瞬時に凍結し、脚を除いた表面を冷凍状態のままCryo-SEM顕微鏡で観察し、AuPd粒子が分泌液中に埋もれているかを調べました。その結果、分泌液の厚さ (足裏と表面の距離) が分子間力の働く距離であることが明らかになりました。そこで、分子間力が主要な力 (他の接着原理よりも支配的) であるかを調べるため、バイオミメティクスと材料科学の手法を生物学に応用し、様々な基板上を歩行するテントウムシの「牽引力」を測定しました。もし主要な力が「分子間力」であれば、この接着力は、「接着仕事WA」というエネルギーと相関することが知られています。そこで、WAと牽引力の関係式で実験結果の相関を調べたところ、テントウムシの接着力は接着仕事に相関することが分かり、主要な接着の原因は「分子間力 (ファンデルワールス力) 」であることが証明されました。
- 今後は、この成果を人工的な接着・剥離構造の開発に活用する計画で、テントウムシのように多様な場所へ移動できる災害対策ロボットの脚部への応用や、精密機器の部品着脱装置などへの応用を目指しています。
- 本研究は 、NIMS 構造材料研究拠点のグループリーダー細田奈麻絵、東京大学名誉教授須賀唯知 (現 明星大学 客員教授) 、中本茉里 (元東京大学大学院生) 、キール大学教授 (ドイツ) Stanislav N. Gorbらの研究チームにより、JSPS科研費JP 24120005及び防衛装備庁が実施する安全保障技術研究推進制度JPJ004596の一環として行われました。
- 本研究成果は、Scientific Reports誌の2021年4月8日発行号 (11, 7729) にて掲載されました。
プレスリリース中の図 : ガラス基盤上のテントウムシ (白い部分が脚裏)
掲載論文
題目 : Evidence for intermolecular forces involved in ladybird beetle tarsal setae adhesion
著者 : Naoe Hosoda, Mari Nakamoto, Tadatomo Suga & Stanislav N. Gorb
雑誌 : Scientific Reports
掲載日時 : 2021年4月8日
DOI : 10.1038/s41598-021-87383-9