クモ毒改良ペプチドと抗体による液-液相分離の誘起と抗体の細胞内輸送
2021-08-06 京都大学
二木史朗 化学研究所教授らの研究グループは、液-液相分離を活用して、抗体などのタンパク質と高分子細胞内送達ペプチドを液滴内に濃縮することで、細胞内に効果的に輸送する手法を開発しました。
液-液相分離とは、水中に存在する高分子が相互作用により集合し、高分子を多く含む相と希薄な相の2相に分かれる現象です。この時、高分子を多く含む相は水中に漂う液滴状に観察されます。近年、この現象は細胞の生命活動において重要な役割を担っていることが分かり、細胞生物学の分野において盛んに研究が行われています。一方で、薬物送達の分野においても、この液-液相分離により形成される液滴が新たな薬物キャリアとして注目を集めています。しかし、これまでに抗体のようなサイズの大きなタンパク質の細胞内輸送を達成した報告はありませんでした。抗体を含むバイオ医薬品はこれまでの低分子医薬品にない優れた特性や治療効果を示すものとして世界中で開発が進められており、細胞内への効果的な輸送方法が模索されています。本研究では蛍光色素により標識されることで負電荷性を持った抗体が、正電荷性を持つ高分子送達ペプチドFcB(L17E)3と静電的相互作用により液-液相分離を引き起こすことを見出し、さらには形成された液滴中に高分子送達ペプチドが含まれることで濃縮されたタンパク質が効率的に細胞内へ移行することを明らかにしました。この現象の発見により、今後、液-液相分離を応用した新たな薬物キャリアの開発が加速されると期待されます。
本研究成果は、2021年6月11日に、国際学術誌「Angewandte Chemie International Edition」のオンライン版に、Very Important Paperとして掲載されました。
図:本研究の概要図
研究者情報
研究者名:二木史朗