哺乳類の新しい性決定の仕組みを発見~Y染色体とSry遺伝子が消失してもオスは消滅しない~

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2022-11-29 国立遺伝学研究所

北海道大学大学院理学研究院の黒岩麻里教授らの研究グループは、Y染色体とSry遺伝子をもたないアマミトゲネズミ(Tokudaia osimensis)という哺乳類種を対象に、世界で初めてSry遺伝子なしにオスが決定される仕組みを解明しました。

ヒトを含む哺乳類のほとんど全ては、男性(オス)はY染色体をもち、Y染色体上のSry遺伝子により性が決定されます。ほんの少数の種において、Sry遺伝子がなくてもオスが生まれる例が報告されていますが、その性決定の仕組みはまったく明らかにされていませんでした。アマミトゲネズミは奄美大島のみに生息する日本の固有種で、国の天然記念物及び国内希少野生動植物種に指定されています。Y染色体が消失していることから、性染色体はX染色体1本のみをもつXO/XO型です。本種がY染色体をもたないことは、1970年代から知られていましたが、材料が希少であることから、長年にわたり研究が困難な状況にありました。研究グループは、保全生態調査、ゲノム解読、情報解析、ゲノム編集解析などを専門とする国内の研究者らの協力を得て、アマミトゲネズミのゲノム中の雌雄差を網羅的にスクリーニングし、唯一残されていた性差があるゲノム領域を特定しました。

性差のある領域が見つかったのは、1本のみ残されたX染色体ではなく、常染色体(3番染色体)上に存在するSox9遺伝子の上流でした。この領域では、17 kbの配列の重複をオスのみがヘテロでもつことが明らかになりました。重複配列を詳しく解析した結果、Enh14とよばれるエンハンサー配列が含まれることがわかりました。つまり、エンハンサーを含む配列が重複しているとオスに、重複していないとメスになることが予測されました。しかし、アマミトゲネミの生体材料を用いた研究は不可能であるため、アマミトゲネズミのエンハンサー重複配列をもつマウスをゲノム編集技術により作り出すことに成功しました。重複配列をもつマウス胚では、XXでありながら卵巣に精巣分化を引き起こす遺伝子発現が確認されました。この結果は、この重複配列が性決定に働き得ることを示すものです。

Sry遺伝子に依存しない哺乳類の性決定メカニズムの解明は、世界で初めてです。さらに、遺伝子そのものではなくエンハンサーという遺伝子調節領域により性が決定されるという発見も、大変珍しいものです。また、アマミトゲネズミでは常染色体が新しい性染色体へと進化していることが明らかになりました。このように、新しい性染色体が進化することを性染色体の転換(ターンオーバー)とよび、哺乳類における性染色体のターンオーバーはこれまでに報告がなく、これも世界で初めての発見です。以上のように、本研究は世界的にも大変インパクトの大きいものです。

本研究は,日本学術振興会科学研究費助成事業「新学術領域研究『学術研究支援基盤形成』」の「先進ゲノム解析研究推進プラットフォーム『先進ゲノム支援』(PAGS)」(16H06279)、日本学術振興会科学研究費補助金・基盤研究(B)(課題名:シス因子による哺乳類の新しい性決定メカニズムの解明,代表者:黒岩麻里)(22H0266702)、基盤研究(B)(課題名:有胎盤哺乳類におけるSRY遺伝子に依存しない新しい性決定メカニズムの解明,代表者:黒岩麻里)(19H03267)、日本学術振興会科学研究費助成事業「新学術領域研究『ゲノム・遺伝子相関』」(26113701)の支援を受けて行われました。

なお、本研究成果は、日本時間2022年11月29日公開のThe Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS, 米国科学アカデミー紀要) 誌に掲載されました。

Figure1

図: 新しく発見されたシス因子による性決定メカニズム Sry遺伝子に依存しないメカニズムは世界初

  • 本成果がPNAS同号の「In This Issue」で紹介されます。

Turnover of mammal sex chromosomes in the Sry-deficient Amami spiny rat is due to male-specific upregulation of Sox9

Miho Terao, Yuya Ogawa, Shuji Takada, Rei Kajitani, Miki Okuno, Yuta Mochimaru, Kentaro Matsuoka, Takehiko Itoh , Atsushi Toyoda, Tomohiro Kono, Takamichi Jogahara, Shusei Mizushima, and Asato Kuroiwa

PNAS (2022) 119, e2211574119 DOI:10.1073/pnas.2211574119

詳しい資料は≫

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細胞遺伝子工学
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