2023-11-07 国立遺伝学研究所
淡水性の甲殻類であるテナガエビ属は熱帯を中心に繁栄しているグループで、これまでに270種以上が知られています。太平洋周辺の広域に分布する種の多くは両側回遊型の生活史を持ちます。すなわち、孵化後すぐに川を降り、海流に乗って分布を広げることができます。こうした分散力の高い種は、気候変動による生息環境の変化に対して、分布域のシフトという形で迅速に対応できると考えられています。そのため、詳細な分布域の情報を蓄積することは、両側回遊性の種が環境変化にどのように応答するのかを調べる上で重要です。
今回、国立遺伝学研究所の福家悠介 学振特別研究員PDとトレンドデザイン株式会社の丸山智朗氏は琉球列島・宮古島の河川から採集されたテナガエビ属の1種を遺伝解析と形態形質の検討に基づいてイボユビテナガエビ(新称)Macrobrachium mammillodactylus (Thallwitz, 1891)と同定しました。これは本種の日本の初記録であると同時に本種の分布の北限記録です。本種はこれまで、東南アジアを中心に、オーストラリアから台湾中部に分布していることが知られていました。今回得られた標本は成体であり、発見地で越冬したものと考えられます。これは、本種の分布域が琉球列島まで拡大したことを示唆します。
東南アジアから琉球列島や本州への分布拡大は、他の南方系の淡水エビ類でも知られています。分布域に関する基礎的なデータを蓄積することで、将来的に両側回遊性の生物の分布拡大の要因を特定や予測が可能になるかもしれません。
図:今回、日本での分布が初めて確認されたイボユビテナガエビ(新称)。和名は成体オスの第二胸脚のハサミの間に見られる顆粒にちなむ。丸山撮影。
First record of Macrobrachium mammillodactylus (Thallwitz, 1891) (Crustacea, Decapoda, Palaemonidae) from Japan.
Yusuke Fuke, Tomoaki Maruyama.
Check List (2023) 19, 821-826 DOI:10.15560/19.6.821