血中マイクロRNAを用いた認知症発症リスク予測モデルの構築

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2019-02-25  国立長寿医療研究センター,国立がん研究センター,日本医療研究開発機構

本研究のポイント
  • 大規模な血液マイクロRNA測定により認知症の発症リスク予測モデルを構築。
  • 三大認知症(アルツハイマー病、血管性認知症、レビー小体型認知症)を高感度かつ特異的に判別可能にした。
  • 機械学習法を用いたモデルは、軽度認知機能障害から認知症への進行を高確率で予測した。
  • 両モデルは認知症の診断や発症予測に有用であり、認知症のリスクマネジメント、早期での治療法選択に有用と期待される。
概要

国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター(理事長:鳥羽研二、愛知県大府市)のメディカルゲノムセンター(新飯田俊平センター長)を中心とした研究チームは、血液マイクロRNA(miRNA)の網羅的な発現情報をもとに、認知症発症のリスク予測モデルを構築しました。

チームは5,000例近くのmiRNA発現データを蓄積し、様々なデータ解析を行っています。その中で今回、重水大智ユニット長らは疾患群の絞り込みを行い、認知機能正常高齢者と合わせて1,569人のmiRNAプロファイルデータから、アルツハイマー病(AD)、血管性認知症(VaD)、レビー小体型認知症(DLB)の三大認知症を一度の検査で判別できるモデルを構築しました。また機械学習により実装されたこの予測モデルは、AD前段階の軽度認知障害32例について、半年後の認知症への移行、あるいは移行なし、を高精度に予測することができました。このモデルは認知症の治療法選択や患者マネジメントに早期に対応できるなど、有用性が期待されます。

この研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)次世代治療・診断実現のための創薬基盤技術開発事業「体液中マイクロRNA測定技術基盤開発プロジェクト(代表:落谷孝広 国立がん研究センター プロジェクトリーダー[現 東京医科大学教授])」の支援で実施されたもので、研究成果は英国の電子科学誌Communications Biology(コミュニケーションズ・バイオロジー)に、2019年2月25日付で掲載されました。

研究の背景

世界的な高齢者人口の増加に伴い、認知症患者数は2030年には7,500万人、2050年までには1億3,500万人に増加すると予想されています。認知症の根治が難しい現在、患者・介護者負担および社会的コストを軽減するために、認知症を早期にかつ正確に診断し、病態に適した悪化予防などのリスクマネジメントを行うことが重要とされています。現行の脳脊髄液中のタンパク質(アミロイドβ、総タウ、リン酸化タウ)を測定する検査はADの診断に有効ですが他の認知症を知ることはできません。また被験者への侵襲性が高いこともあり、早期診断のための実施はあまり行われていません。一方、アミロイドβやタウ蓄積を検出するPET検査、脳の特定部位の萎縮を検出するMRI検査は高額であり、実施施設も限定されます。このような現状から被験者の肉体的・経済的負担の大きい精密検査前に、簡便な方法で認知症をスクリーニングする方法が求められています。

そこで今回、三大認知症とされるAD、VaD、DLBを一度の検査で判別できる簡易的な血液検査法の開発を目的として、血液中のmiRNA発現プロファイルに着目した認知症判別モデル及び認知症発症リスク予測モデルの構築を試みました。

研究成果の概要

三大認知症(AD、VaD、DLB)を含む認知症群と認知機能正常高齢者群1,569例の血清を高感度DNAチップ”3D-Gene®︎”を用い、網羅的miRNA発現解析を行いました。得られたデータは、教師あり機械学習手法のひとつである、教師あり主成分分析ロジスティック回帰法(supervised PCA logistic regression method)に応用し、予測モデルの構築を行いました。この予測モデルは独立した2つのデータセットで検証され、ADを感度93%・特異度66%、VaDを感度73%・特異度87%、DLBを感度76%・特異度86%という値で判別できました。

認知症では、正常老化と認知症の境界領域である軽度認知機能障害(MCI)の段階から認知症に進行する患者を早期に発見することが疾患マネジメント上、重要とされています。そこで今回、縦断的に観察されていたMCI患者(初診時)32例について、初診時採取の血清を用いて認知症への進行予測を試みました。その結果、認知症に進行した10症例を感度100%で、進行しないと予測した4症例を陰性的中率100%で判別することができました。今回の研究で構築された予測モデルで使用されたmiRNAのターゲット遺伝子を調べたところ、脳機能との関連が示唆されるものが多く含まれていました。


図1.Supervised PCA logistic regressionを応用した予測モデル構築のワークフロー


図2.アルツハイマー病(a),血管性認知症(b),レビー小体型認知症(c)の予測モデルにおけるROC曲線


図3.予測モデルで用いられたmiRNAのターゲット遺伝子の関係ハブ遺伝子としてEXOC5,DDX3X,YTHDF3を抽出(EXOC5はADと,DDX3XとYTHDF3は脳腫瘍との関連が知られている)

研究成果の意義

血液検査による認知症発症リスク予測の可能性を示した本手法を用いれば、被験者の負担が少なく、施設間差のない定量的な検査が可能となります。これにより

①検査手法の異なる三大認知症の検査を一度の採血で判定でき、二次検査コストを抑制できる、
②疾患に適した治療法を早期の段階で選択できる、
③MCIの段階で将来の認知症進行予測が可能となり早期介入ができる、

などのメリットが考えられます。
今後は、認知症体外診断薬化に向け、多施設による検証と性能検査に取り組んでいく計画です。

論文情報
掲載誌:
Communications Biology
論文タイトル:
Risk prediction models for dementia constructed by supervised principal component analysis using miRNA expression data
共同研究機関/共同研究者

国立長寿医療研究センター病院・もの忘れセンター 櫻井 孝センター長
国立がん研究センター 落谷 孝広プロジェクトリーダー(現・東京医科大学教授)
東レ株式会社

用語解説
miRNA:
21~25塩基長の1本鎖RNA(リボ核酸)分子。遺伝子の発現を調節する機能などを備え、人間の体内には2,000種類以上が存在する。
Supervised PCA logistic regression:
教師あり機械学習手法のひとつ。主成分分析により高次元データを低次元に次元圧縮する。
問い合わせ先
研究に関すること

国立長寿医療研究センター メディカルゲノムセンター
新飯田 俊平(にいだ しゅんぺい)センター長/重水 大智(しげみず だいち)ユニット長

報道に関すること

国立長寿医療研究センター総務部総務課
広報担当 山田 隆史

AMED事業に関すること

国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
創薬戦略部 医薬品研究課
次世代治療・診断実現のための創薬基盤技術開発事業担当

医療・健康細胞遺伝子工学
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