様々なインフルエンザを防御する抗体誘導法の開発~万能インフルエンザワクチンへの応用の期待~

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2019-08-28   国立感染症研究所,日本医療研究開発機構

  • 様々なA型インフルエンザ亜型を防御するヘマグルチニン抗体(交差防御抗体)は、従来のインフルエンザワクチンで誘導されにくいという問題があった。
  • 今回の研究において、交差防御抗体が認識する「隠れた」抗原領域を発見し、その領域を酸性処理により露出した改変型抗原を特定した。
  • この改変型抗原をワクチンとして用いると、複数のインフルエンザ亜型に有効な交差防御抗体を誘導できることが判明した。
  • 全てのA型インフルエンザに有効な万能インフルエンザワクチンへの開発に役立つ成果である。

国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業において、国立感染症研究所免疫部の高橋宜聖部長、安達悠主任研究官らの研究グループは、様々なインフルエンザ亜型※1を防御するヘマグルチニン抗体※2を発見するとともに、この抗体を誘導しやすい改変型抗原を特定しました。

現行のインフルエンザワクチンは、異なるインフルエンザ亜型への有効性が低く、季節性※3・鳥インフルエンザ※4共に有効な次世代ワクチンの開発が望まれていました。

本研究グループは、インフルエンザウイルスの複製が生じるマウスの気道部位において、交差防御抗体※5が誘導されやすいというこれまでの研究成果(J. Exp. Med. 2015)を発展させ、ハイスループットな手法で交差防御抗体を網羅的に特定し、免疫学的な解析を行いました。

その結果、様々なインフルエンザウイルスを防御可能な抗体が隠れた抗原領域を認識することを発見しました(図1)。そしてこの抗原領域を酸性処理により露出させることに成功しました(図1)。この改変型抗原をヒト化マウスに接種すると、ヒト交差抗体が誘導されること(図2)、その交差性が季節性インフルエンザウイルスと鳥インフルエンザウイルスをカバーすること(図3)、マウス感染モデルで防御能を示すことを見出しました(図3)。この改変型抗原は、現行ワクチン抗原から比較的簡単な手順で作製することが可能であり、実用化の点でもメリットがあると考えられます。


図1 通常のヘマグルチニン抗原に酸性処理を施した改変型では、隠れた抗原領域を露出する。

ヘマグルチニン抗原に酸性処理を行うと改変型に構造変化し、通常隠れている交差防御抗体の抗原領域が露出することを発見しました。


図2 改変型抗原をヒト化マウスに接種するとヒト交差抗体が誘導される。

ヒトリンパ球を移植したヒト化マウスを用いると、ヒトリンパ球に対する免疫原性を評価できます。通常のヘマグルチニン抗原を含む現行ワクチンと、改変型ヘマグルチニンを含む改変型ワクチンをそれぞれ接種すると、改変型ワクチンのみでヒト交差抗体が誘導されることが明らかとなりました。


図3 発見したヒト交差抗体は、季節性・鳥インフルエンザを含む複数の亜型をカバーし感染を防御する。

(左)季節性インフルエンザウイルス(H3、H1)と鳥インフルエンザウイルス(H7、H5)に対するヒト交差抗体の交差性を測定。複数の亜型に強く結合する交差性に優れたヒト抗体が含まれていることが判明しました。
(右)ヒト交差抗体は、鳥インフルエンザ(H7)感染マウスの生存率を改善。抗体移入マウスでは、全てのマウスが感染後にも生存することが分かりました。

本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業(研究代表者 高橋宜聖 JP18fk0108051)、日本学術振興会科学研究費 若手研究B(研究代表者 安達悠 JP16K19167)、挑戦的萌芽研究(研究代表者 高橋宜聖JP16K15296)の一環として行われました。

本研究成果は、令和元年8月28日(日本時間18:00)発行のNature Communications「Exposure of an occluded hemagglutinin epitope drives selection of a class of cross-protective influenza antibodies」
(隠れたヘマグルチニンエピトープ※7の露出によって、インフルエンザ交差防御抗体の選択が可能になる)
DOI 10.1038/s41467-019-11821-6 に掲載されます。

用語解説
※1 インフルエンザ亜型
A型インフルエンザウイルスの表面タンパクとしてヘマグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)があり、HAは18種類、NAは11種類の亜型からなる。
※2 ヘマグルチニン抗体(HA抗体)
現行インフルエンザワクチンに含まれている主要な防御抗原であり、ワクチン有効性と相関する防御免疫パラメーターとして広く用いられる。
※3 季節性インフルエンザ
ヒトの季節性インフルエンザを引き起こす原因ウイルスであり、H3N2とH1N1亜型がある。
※4 鳥インフルエンザ
鳥インフルエンザの原因ウイルスであるが、ヒトで散発的な感染例を引き起こすことがある。代表例としてH5N1とH7N9亜型がある。
※5 交差防御抗体
抗原性の異なる複数のインフルエンザウイルスを防御可能な抗体。
※6 万能インフルエンザワクチン
すべての亜型のインフルエンザウイルスに効果のあるワクチンのことを指す。
※7 ヘマグルチニンエピトープ
ヘマグルチニン抗体が結合するヘマグルチニンタンパクの抗原領域。
お問い合わせ先
研究に関するお問い合わせ先

国立感染研究所 免疫部
部長 高橋宜聖

報道に関するお問い合わせ先

国立感染研究所 総務部調整課

事業に関するお問い合わせ先

日本医療研究開発機構
戦略推進部感染症研究課
新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業

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