短縮型ジストロフィンタンパク質を作るラットを作製

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世界初となるヒトベッカー型筋ジストロフィー(BMD)モデル動物

2020-09-03 東京大学

東京大学大学院農学生命科学研究科の寺本奈保美大学院生、杉原英俊大学院生、山内啓太郎准教授らの研究グループは、ジストロフィン遺伝子にin-frame変異(翻訳の際、アミノ酸をコードする3つ組みの読み枠がずれない遺伝子変異)をもち、短縮型のジストロフィンタンパク質を作るラット(BMDラット)の作製と系統化に世界で初めて成功しました。本研究成果は2020年8月28日付けで、 Disease Models & Mechanisms誌(電子版)に掲載されました。

X染色体型筋ジストロフィーはX染色体上に存在するジストロフィン遺伝子の変異により引き起こされる遺伝性のヒト筋原生疾患で、筋肉の持続的な損傷を特徴とします。X染色体型筋ジストロフィーには、ジストロフィンタンパク質が全く作られないデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)と短縮型のジストロフィンタンパク質が作られるベッカー型筋ジストロフィー(BMD)があり、BMDでは不完全ながらもジストロフィンタンパク質が存在するためDMDに比べて一般的に病態は軽度とされています。しかし、作られる短縮型ジストロフィンタンパク質の構造や量によってDMDとほぼ同等の重篤な症状を示す場合もあります。BMDの筋肉に存在する短縮型ジストロフィンタンパク質を観察すると“patchy and faint(まだらで弱い)”とよばれる特徴的な分布を示すことが知られています。このような短縮型ジストロフィンタンパク質の分布の変化や量の減少がBMDの病態に関わると考えられてきましたが、その検証に利用できるようなモデル動物はこれまでに存在しませんでした。

BMDラットでは、研究グループが過去に報告したDMDラットに比べ病態の進行が軽度であるとともに、筋肉で作られている短縮型ジストロフィンタンパク質の分布はまだら(patchy)で、その量も正常ラットの約10%程度にまで減少(faint)していました。

このことから、今回作製したラットはBMDの病態進行機序解明や治療法開発のうえで非常に優れたモデル動物となることが期待されます。

「DMDについてはその治療法開発に向け、精力的に研究が行われています。一方、BMDについてはこれまで適切なモデル動物がいなかったこともあり、病態成立機序の解明は必ずしも進んでいません。今回作製したラットを世界中の研究者が利用することで、BMDについても研究が深まっていくことを心から期待しています」と山内准教授は話します。

BMDラット筋肉の組織像
BMDラットの骨格筋や心臓ではX染色体型筋ジストロフィーに特徴的な損傷やそれに伴う炎症、線維化などが観察される。矢頭は線維化の起こっている箇所を示す。
© 2020 山内啓太郎

論文情報

Naomi Teramoto, Hidetoshi Sugihara, Keitaro Yamanouchi, Katsuyuki Nakamura, Koichi Kimura, Tomoko Okano, Takanori Shiga, Taku Shirakawa, Masafumi Matsuo, Tetsuya Nagata, Masao Daimon, Takashi Matsuwaki, and Masugi Nishihara , “Pathological evaluation of rats carrying in-frame mutations in the dystrophin gene: A new model of Becker muscular dystrophy ,” Disease Models & Mechanisms : 2020年8月28日, doi:10.1242/dmm.044701 .
論文へのリンク (掲載誌)

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