脂質がタンパク質の選別輸送を制御~小胞体膜セラミドの長さが鍵~

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2020-12-12 理化学研究所,広島大学

理化学研究所(理研)光量子工学研究センター生細胞超解像イメージング研究チームの黒川量雄専任研究員、和賀美保テクニカルスタッフII、中野明彦チームリーダー(光量子工学研究センター副センター長)、広島大学大学院統合生命科学研究科の船戸耕一准教授、中ノ三弥子准教授らの国際共同研究グループは、小胞体[1]膜の脂質セラミド[2]の長さにより、GPIアンカー型タンパク質[3]「Gas1」の「ER exit sites(ERES)[4]」への選別が制御されることを発見しました。

本研究成果は、タンパク質輸送の異常やその破綻により発症する疾患のメカニズム研究の発展につながると期待できます。

小胞体で新たに作られたさまざまなタンパク質(積荷タンパク質[5])は、小胞体に多数存在するERESからゴルジ体[6]へ輸送されます。しかし、多様な積荷タンパク質がどのようにERESへと選別されるのか、その詳細は不明でした。

今回、国際共同研究グループは、3次元ライブイメージングにより、新たに合成された極長鎖セラミドが付加されるGas1と膜貫通ドメインを持つタンパク質「Mid2」の輸送を解析しました。その結果、Mid2は小胞体全体に局在する一方、Gas1は小胞体のいくつかのERES近くのゾーンに集積し、両タンパク質はそれぞれ異なるERESに選別されることが明らかになりました。さらに、小胞体膜のセラミドの脂肪酸長を短くした細胞では、Gas1が小胞体全体に局在し、Mid2と同じERESへ選別されたことから、脂質の長さがタンパク質の選別輸送を担っていることを証明しました。

本研究は、科学雑誌『Science Advances』オンライン版(12月11日付:日本時間12月12日)に掲載されます。

小胞体セラミドの長さがタンパク質の選別輸送を制御の図

小胞体セラミドの長さがタンパク質の選別輸送を制御

背景

生命の基本単位である細胞の中では、多種多様なタンパク質がそれぞれ働くべき場所に運ばれて機能しています。ヒト、植物、酵母など真核生物の細胞内には、さまざまな細胞小器官[7]があります。その一つである小胞体は、細胞内の全タンパク質の約1/3を合成する場であり、タンパク質を正しく折り畳み種々修飾して、積荷タンパク質としてゴルジ体へ運び出すという重要な機能を担っています。

積荷タンパク質の小胞体からゴルジ体への輸送の基本的な仕組みは、全ての真核生物で共通しています。積荷タンパク質は、小胞体の特別な場所である「ER exit sites(ERES)」からCOPII小胞[8]を介して、ゴルジ体シス槽[6]により受け取られゴルジ体へ輸送されます注1)

積荷タンパク質は、ゴルジ体でさらに糖鎖付加などの修飾を受け、細胞膜やリソソーム/液胞[9]などそれぞれ固有の目的地まで輸送されます。細胞膜には、膜貫通ドメインを持つタンパク質やGPIアンカー型タンパク質など、異なる構造の多様なタンパク質が局在しています。GPIアンカー型タンパク質は、カルボキシル末端にアミド結合したグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)によって細胞膜外葉に局在する一群のタンパク質で、真核生物に広く存在しています。GPIアンカーの付加は小胞体で行われ、種々の修飾を受けてGPIの脂質と糖鎖部分の構造変化を受けながら、分泌経路により細胞膜へ輸送されます。GPIに関連する遺伝子の突然変異による多くの疾患が多数発見されてきています。

出芽酵母[10]を用いた生化学的な解析により、GPIアンカー型タンパク質が他のタンパク質と異なるCOPII小胞に含まれることや、蛍光タンパク質標識したGPIアンカー型タンパク質が他と異なるERESに集積することが報告されてきました。しかし、どのような機構で小胞体でのGPIアンカー型タンパク質の選別が行われるかは不明でした。

注1)2014年4月14日プレスリリース「ゴルジ体シス槽は小胞体に接触し積荷タンパク質を受け取る

研究手法と成果

今回、国際共同研究グループは、多色・超解像・高速で蛍光イメージングが可能な「高感度共焦点顕微鏡システムSCLIM[11]」を用いた3次元ライブイメージングにより、小胞体で新たに合成された異なる構造を持つ2種の細胞膜局在タンパク質の極長鎖セラミド化GPIアンカー型タンパク質「Gas1」と膜貫通ドメインを持つタンパク質「Mid2」のERESへの選別を可視化することで、選別輸送機構の解明を目指しました。

COPII小胞の被覆タンパク質の遺伝子に変異を持つ温度感受性株出芽酵母sec31-1株は、37℃では小胞体からゴルジ体へ積荷タンパク質を輸送できません。この変異出芽酵母のERESに局在するSec13に蛍光タンパク質mCherryを融合したSec13-mCherryを発現する細胞を作製し、ERESを可視化しました。次に、この細胞にさらに2種類の積荷タンパク質Gas1とMid2それぞれに蛍光タンパク質のGFPとiRFPを融合したGas1-GFPとMid2-iRFPが同時に発現誘導できるようにした出芽酵母を作製し、積荷タンパク質とERESを可視化できるようにしました。そして、2種類の蛍光タンパク質融合積荷タンパク質を新たに合成させ、37℃で小胞体からゴルジ体への輸送を一旦止めて小胞体内に両積荷タンパク質を留めた後、培養する温度を24℃に下げて輸送が回復した両積荷タンパク質を観察しました。

すると、新たに合成された膜貫通ドメインを持つMid2-iRFPは小胞体全体に局在した一方で、GPIアンカー型タンパク質Gas1-GFPは多数存在するERESの一部の近くに集積しました。両タンパク質のERES内への取り込みを解析したところ、それぞれ異なるERESに選別されていることが判明しました(図1)。

通常の細胞のGas1とMid2の小胞体局在とERESへ選別輸送の図

図1 通常の細胞のGas1とMid2の小胞体局在とERESへ選別輸送

通常の細胞では、Mid2-iRFP(青)は小胞体全体に局在する一方、Gas1-GFP(緑)は、一部のERES近傍に集積し、それぞれ異なるERES(矢じり)に選別された。


次に、Mid2と同様に膜貫通ドメインを持つタンパク質Axl2とMid2を同時に発現する細胞を作製し、それらの小胞体局在とERESへの輸送を観察しました。すると、膜貫通ドメインを持つ両タンパク質はともに小胞体全体に局在し、同じERESに選別されることが明らかになりました。

出芽酵母は通常、極長鎖セラミドを生合成します。前述したようにGas1のGPIアンカーは極長鎖セラミドで構成され、小胞体膜など細胞の膜構造にはこの極長鎖セラミドが含まれています。そこで、極長鎖セラミドをほとんど合成できず、主により短いセラミドを合成する変異出芽酵母を作製しました。この細胞では、Gas1-GFPのGPIのセラミドはごく少量合成される極長鎖セラミドでしたが、小胞体膜には短いセラミドしか含まれていませんでした。Gas1-GFPを観察すると、Gas1-GFPは小胞体全体に局在し、Mid2と同じERESに選別されました(図2)。このことから、小胞体膜の脂質セラミドの長さにより、タンパク質の選別輸送が制御されていることが初めて証明されました。

小胞体のセラミドの長さが短い細胞のGas1とMid2の小胞体局在とERESへ選別輸送の図

図2 小胞体のセラミドの長さが短い細胞のGas1とMid2の小胞体局在とERESへ選別輸送

小胞体のセラミドの長さが短い細胞では、Gas1-GFP(緑)もMid2-iRFP(青)同様に小胞体全体に局在し、同じERES(矢印)に選別された。

今後の期待

細胞の生命活動を維持するためには、多種多様なタンパク質が働くべき場所に正確に輸送される必要があります。本研究では、細胞内の膜にある脂質の長さにより、タンパク質選別輸送が制御されることを生きた細胞で直接証明でき、脂質が関与するタンパク質選別輸送の制御機構の一端が明らかになりました。今後、さまざまな疾患の原因となるタンパク質輸送の異常や破綻により発症する疾患のメカニズム研究の発展につながると期待できます。

補足説明

1.小胞体
シート状またはチューブ状の膜からなる細胞小器官の一つ。リボソームが付着している粗面小胞体では、ゴルジ体に運ばれる積荷タンパク質の合成が行われる。

2.セラミド
細胞の脂質二重層を構成する主要な脂質の一つ。スフィンゴシンと脂肪酸がアミド結合した化合物の総称。小胞体で生合成される。シグナル伝達物質としても作用する。

3.GPIアンカー型タンパク質
カルボキシル末端にアミド結合したグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)によって、細胞膜外葉に局在する一群のタンパク質。真核生物に広く存在し、酵素や受容体、接着因子など多様な働きをしている。

4.ER exit sites(ERES)
小胞体膜上の特殊な領域。COPⅡ小胞が集積する領域。ERは小胞体を意味するendoplasmic reticulumの略。

5.積荷タンパク質
膜交通により運ばれるタンパク質の総称。リボソームが付着している粗面小胞体で作られる。

6.ゴルジ体、シス槽
扁平な袋(槽;シスターナ)からなる細胞小器官の一つで、タンパク質の翻訳後修飾や仕分け、脂質の合成を行う。多くの生物種では、積み重なった層板構造をしている。積荷タンパク質を受ける側をシス槽、積荷タンパク質が仕分けされ出ていく側をトランス槽、その間の槽をメディアル槽と呼ぶ。

7.細胞小器官
真核細胞の内部に存在する一定の機能、形態を持つ膜構造の総称。

8.COPⅡ小胞
小胞体で新しく作られた積荷タンパク質を積み込む輸送小胞。COPⅡと呼ばれる被覆タンパク質(膜)により覆われている。

9.リソソーム/液胞
細胞内外成分の分解機能を担う細胞小器官。内部に加水分解酵素を持つ。植物、酵母では、発達した液胞がこの機能を担っている。

10.出芽酵母
パン酵母やビール酵母などと呼ばれる真核微生物で、出芽によって増えるのでこの名がある。細胞生物学や遺伝学実験のモデル生物として広く使われている。

11.高感度共焦点顕微鏡システムSCLIM
研究チームが独自開発した蛍光顕微鏡システム。ニポウディスク方式共焦点スキャナー、拡大レンズ、高性能のダイクロイックミラー、フィルターシステムによる分光器、冷却イメージインテンシファイアー(電子増倍管)と複数のEMCCDカメラシステムから構成される。複数蛍光の同時取得と高S/N比の蛍光画像取得が可能。SCLIMは、Super-resolution Confocal Live Imaging Microscopyの略。

国際共同研究グループ

理化学研究所 光量子工学研究センター 生細胞超解像イメージング研究チーム
専任研究員 黒川 量雄(くろかわ かずお)
テクニカルスタッフII 和賀 美保(わが みほ)
チームリーダー 中野 明彦(なかの あきひこ)
(光量子工学研究センター 副センター長)

広島大学 大学院統合生命科学研究科
大学院生 池田 敦子(いけだ あつこ)
准教授 船戸 耕一(ふなと こういち)
准教授 中ノ 三弥子(なかの みやこ)

スペイン セビリア大学
大学院生 ソフィア・ロドリゲスギャラルド(Sofia Rodoriguez-Gallardo)
大学院生 スサナ・サビド・ボゾ(Susana Sabido-Bozo)
教授 マヌエル・ムニィーツ(Manuel Muñiz)

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